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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
306/503

その教団、女神を従える

因縁深き集団、エステナ教団。

スーサイドにて再び登場。

「リースト司祭……今『女神エステナ』って言った?」

【ま、まさか……あの顔を隠した女が、女神エステナ本人だとでも言いたいのか……?】


 隠れながら様子を伺うも、あまりに突拍子もない発言を聞いてタジタジ。私もツギル兄ちゃんもエステナ教団と因縁はあるけど、女神エステナ本人なんて全く関係ないと考えてた。だって、神様だもん。

 神様だから人の前に姿を見せるとは思えないし、いくらエステナ教団でも招待できるような相手じゃない。これまでだって、ただの伝承程度にしか考えてなかった。

 そうして不思議そうに私達が見ているとも知らず――




「彼女は女神エステナの依り代となった女性です。彼女の力があれば、どんな苦痛からも逃れることができます」

「そ、その姿……頭部の触角は……!? ほ、本当に伝承にある女神エステナじゃとでも……!?」




 ――リースト司祭が女性のベールを外し、その姿を大衆の前へと曝け出した。

 白いローブを身に纏い、緑色のロングヘア―をなびかせる整った出で立ちの女性。どうしてか顔は仮面で隠されてるけど、一番特徴的な部分は額から伸びるあるものだ。


 ――髪の毛なんかじゃない二本の触角。かつてフューティ姉ちゃんに見せてもらった女神エステナとほぼ同じ姿が、広場の中央に姿を見せた。


「彼女は女神エステナの依り代となる契約をした際、代償としてこの仮面で制御する必要が出ましてね。ただ、その力は間違いなく女神エステナそのものです。……さあ、傷ついた学生から苦しみを取り除いてくださいませ」

「…………」


 身に纏うオーラからしてみても、とても同じ人間のものとは思えない。表情も声も不明なままだけど、どうしてか神様と言われても納得してしまいそうな佇まいだ。

 そんな神様がここへやって来たのは、事故で怪我を負った学生達を救うため。やろうとしてることはなんだか神様っぽい。

 リースト司祭の指示を受けると、一歩前へ出て学生達の前へ歩み寄ってくる。


「……ᛁᛃᚨᛋᛁᚹᛟ」



 スゥゥゥウ



「あ、あれ……? 傷が……痛みが……?」

「こ、これって……治ってるのか……?」


 そのまま前方へ手をかざして何かを呟くと、たちまち怪我をした学生達が光に包まれていく。これまでとは比べ物にならない回復魔法で、その傷を癒していく。

 魔法を使う際、少しだけルーンスクリプトを詠唱に使ったのも聞こえた。あれは楽園に伝わる魔法の原初言語であり、詠唱に使えば効果増大なことは昨日の授業でも習った。

 そんな様子を見れば、本当に女神エステナがこの場に君臨したようにも見えてしまう。


 ――聖女だったフューティ姉ちゃんよりさらに上を行く回復魔法の使い手なんて、そうそういるもんじゃない。


「わ、妾も早く……助けて……くださいませ……」

「カーダイス君!? き、傷が深すぎるのか……!?」

「どうやら、彼女には女神エステナの力も届かないようですね。ここまでの怪我となると、もう助かりませんか」

「そ、そんな……!? どうにかして助けられぬのか……!?」


 ただ、一番怪我の酷いカーダイスさんだけはルーンスクリプトを併用した回復魔法でさえも効果が及ばない。他の学生達はほとんど治ったのに、ダメージが大きすぎて全くと言っていいほど効果がない。

 コルタ学長も必死になってリースト司祭へ願い出るも、返ってくるのは無情な言葉のみ。私だって歯痒くて仕方ない。


 ――このままカーダイスさんが苦しむ姿を遠目に見ることしかできない。


「仕方ありません。女神エステナよ、せめて彼女に安らかな最期を」

「……ᛁᛏᚨᛗᛁᛃᛟᚲᛁᛖᚱᛟ」


 どれだけ手を尽くしてもカーダイスさんを救えないと悟ったのか、女神エステナを名乗る緑髪の女性は再度手をかざし、ルーンスクリプトの詠唱を始める。

 再びカーダイスさんの体も魔法の光に包まれるけど、今度は回復魔法とは違う。その辺りの違いは魔法に疎い私でも見て取れる。

 傷が塞がることはないものの、カーダイスさんの顔から苦悶が消えていく。


「こ、これは……? 体から……痛みが……?」

「女神エステナの力であなたの体から苦痛を取り除きました。もう助けることはできませんが、せめて苦痛なくお眠りください」

「あ……ああ……助かります。これで妾も苦しむことなく、美しいまま死ねて――」


 その魔法で怪我が治ったわけではない。あくまで『苦痛という感情』が取り除かれただけで、助かるわけではない。

 それでもカーダイスさんは満足そうな表情をして、苦痛に歪むことなく目を閉じていく。


 ――そしてそのまま、再び目を開けることはなかった。フューティ姉ちゃんと同じく、お姫様のように永遠の眠りについてしまった。


「そ、そんな……? カ、カーダイス君……?」

「コルタ学長にとっては悲劇でしょうが、せめて苦しまずに逝けたのが彼女にとっての幸いでしょう。女神エステナの力を持ってしても救えない命でも、このように苦しみを取り除くことはできます」

「……確かに、儂も感謝せねばならぬのかもな」


 すぐ近くにいるコルタ学長はもちろん、周囲の学生や離れた位置にいる私達にも悲痛な空気が漂う。ああするのが一番だったとはいえ、やるせない気持ちがこみ上げて仕方ない。

 エスカぺ村やフューティ姉ちゃんの件を通しても慣れない。よく知らない人のことであっても、人が死ぬのは見てるだけでも苦しくなってくる。


「とはいえ、世界に名だたるエステナ教団がどういったご用件でスーサイドへ? 儂も『近々訪れる』程度で耳にしてはおりましたが?」

「そのことですが、あちらにお聞きするのがよろしいかと。現在、我々エステナ教団を代表されるお方です」


 今回エステナ教団が居合わせたのは、シード卿と同じような理由みたい。別に酷いことをしにきたわけでもなく、むしろ学生達を救いに来てくれた。

 カーダイスさんの件は残念だけど、別に原因がエステナ教団にあるわけでもない。悲しい結末はあっても、今のエステナ教団は悪者じゃない。

 とはいえ、過去のあれこれもあるから警戒はしたくなる。なんだか、エステナ教団の代表って人もいるみたいだけど――




「……ッ!? あ、あの人は……!? そ、そんな……!?」

「ミ、ミラリア様? またどうされましたの?」

【おいおい……!? あいつが代表なのかよ……!?】

「……遅れて出てきたあの男か。俺も少し聞いたことはあるが、確かエスターシャ神聖国と同盟にある……?」




 ――その人の姿をチラリと見て、またしても私の身に戦慄が走る。事故の一件から、ずっとゾワゾワしっぱなしだ。

 悲しい出来事もあったのに、そればっかりに気を向けることもできない。だって、代表と呼ばれるあの人は私だって知ってる人だ。


 ――そして、今まで出会った誰よりもおぞましい人間――いや、人間かも危うい怪物だ。




「僕はディストール王国の王子、レパス。現在は同盟であるエステナ教団の代表として、女神エステナの降臨にも尽力している。……彼女の力を見てもらった上で、少し話をさせてもらおう」

リースト司祭、女神エステナ、レパス王子。

一人の女学生の死と共に、物語を加速させる。

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