その魔剣、下心満載
ツギル、地味に新技を習得。
「ねえねえ、ツギル兄ちゃん。どうしてブレスレットから離れないの?」
【俺も旅の中や鍛冶を受けたことで成長したみたいだ。引き寄せるためのブレスレットに対して魔力を行使すれば、こうやって自分の意志でくっつくこともできる】
「成程、ツギル兄ちゃんも成長したんだ。……でも、今聞きたいのは方法じゃない。理由を聞きたい」
いつの間にやらブレスレットにくっついて離れなくなるという新技を身に着けたツギル兄ちゃん。居合による補助がなくても使えるなら、戦略の幅が広がるかもしれない。
とはいえ、今そんなことはどうでもいい。このままくっついたままでは、ツギル兄ちゃんまでみんなと一緒にお風呂となってしまう。
「……もしかして、それが狙い? ツギル兄ちゃんもみんなと一緒にお風呂入りたいの?」
【い、いや……ほら……俺がいない間に何が起こるか分からないし……】
「……エロ魔剣」
でもって、ツギル兄ちゃんの狙いもまさにそれ。口では私の心配をしてるけど、声が震えて明らかに違うことは明白。
最近は落ち着いてたと思ったのに、やっぱりスケベは簡単に治らない。この煩悩では、レオパルさんのことをとやかく言えない。
――妹として恥ずかしい。
【お、俺だって最近は我慢してたが、ミラリア以外の女の子がこうも多いと……な? ミラリアとは慣れてるが、こう……別の刺激が……さ?】
「わたくしは別に構いませんの。ミラリア様のお兄さんとならば、一緒にお風呂で語ってみたいですの」
「私もシャニロッテさんと同じく問題ないです。見た目も剣ですし」
「ダメ。魔剣とはいえ、中身は人間。妹として、兄に愚行をさせるわけにはいかない」
「流石はミラリア様! お兄様のことを考えてられます!」
「厳しくも美しい兄妹愛です!」
魔剣は私の武器である以上に兄。ここでシャニロッテさん達の厚意に甘えて一緒にお風呂へ連れていけば、私まで甘々でダメな妹になってしまう。
ツギル兄ちゃんにレオパルさんと同じ道は歩ませない。魔剣のまま牢屋の中なんて未来だってあり得る。
――そもそも、変態な魔剣を腰に携えるのも嫌。
【ぐぬぬぬ……!? ミ、ミラリアはこういう時だけやけに厳しい……! だが! そのブレスレットがある限り、俺はこのままくっつくことができる! 俺だってたまには可愛い女の子に囲まれたい!】
「……なんや、あの魔剣。発言が地味にヤバないか?」
「それ、レオパル船長が言いますかァ?」
「人のフリ見て何とやら……ってか。とはいえ、ブレスレットに魔剣の兄貴がくっついたままじゃ、ミラリアだって面倒だろうな。せっかく長旅の間に休める機会だってのに……」
確かにカムアーチを後にしてから、ツギル兄ちゃんはシャニロッテさんに魔法を教えたり魔王軍やロードレオ海賊団との戦いだったりで、一番キンキンしてはいた。
振るってたのは私だけど、一番体を張ったのはツギル兄ちゃんとも言える。そんなストレスの中でスーサイドで女の子に囲まれ、妙なハッスルをしてしまったのだろう。
だからと言って、他の女の子とのお風呂は認められない。レオパルさんやトラキロさん、果てはシード卿まで呆れかえってるし恥ずかしい。
――第一、魔剣がくっついたままじゃお風呂にも入れない。
「あっ、そうだ。ミラリア、魔剣の兄貴ごとブレスレットを俺へ託してくれねえか?」
「ふえ? シード卿が預かってくれるの?」
【ま、待て! ブレスレットまで渡したら、流石にミラリアがもしもの時に対応できないだろ!?】
「邪な理由がありそうだが、言ってることは確かだな。だが、それについても問題ねえよ」
そんな困った状況の中で何か思いついてくれたのはシード卿だ。胸元から何かを探しながら、魔剣をブレスレットごと渡すように手招きしてくる。
確かにブレスレットさえなければ、ツギル兄ちゃんに付きまとわれることはない。でも、私としてもいざという時の対策がないのは怖い。
とはいえ、シード卿のことは信頼してるし、代替案も用意してくれるみたい。
「こいつはミラリアにプレゼントしたそのブレスレットと同じブレスレットだ。今、同じように魔剣の兄貴を引き寄せられるようにリンクさせた。ただし、今回は『ミラリアの意志以外では引き寄せ不可』ってオプションでな」
「それって……つまり?」
「こうして自分の魔力だけでくっつくことはできねえってことだ。今のブレスレットごと俺が預かり、新しいブレスレットをミラリアが身に着けておけば問題ねえだろ?」
【なっ……!? シ、シード卿……てめぇぇええ!?】
成程、理解した。要するに磁石みたいなものってことか。磁石を魔力に置き換えた感じで。
今まで身に着けてたブレスレットの方が力は強力で、新しくもらったブレスレットの方が弱い。ただ、そのおかげでツギル兄ちゃんもくっつくことはできない。
引き寄せ自体は私の意志だけでできるし、新しい方を身に着けておけばいざという時も問題ない。ツギル兄ちゃんには古いブレスレットごとシード卿に預かっててもらおう。
「それなら、後のことはシード卿にお願いする。ツギル兄ちゃんを見張ってて」
「ああ、ゆっくりしてきな。今夜一晩ぐれえはミラリアだって歳の近い同性と息抜きするといいさ」
【お、おい、シード卿!? お前にだって俺の気持ちが分かるはずだろ!? ミラリアと一緒に風呂に入りたいとか考えるだろ!? それと同じなんだって! 理解してくれよ!?】
「生憎、俺は愛する女が本気で嫌がることはしない主義でね。ちょっとしたイタズラはしても、望まれないならそれまでってもんだ」
【真面目か!? お、おい! ミラリア! 待ってくれぇぇええ!!】
もう無駄に時間も費やしたくないし、後のことはシード卿の言葉に甘える。私だってミラリア教団のみんなと早くお風呂を楽しみたい。
ハッスルにブレーキの利かなくなったツギル兄ちゃんが喚いてるけど、もうそんなことは関係ない。
こっちはこっちでシャニロッテさん達と一緒になり、お風呂場へと案内される。
「……オレら、どういう光景を見せられてんですかねェ?」
「知るか。……それよか、さっさと脱出考えんぞ。ミラリアちゃんの風呂かて覗きたい」
「させねえつってんだろ。ほれ。魔剣の兄貴も妹のためにこいつを見張れ」
【ぐぬぅ……くっそぉ……!?】
もう後ろの喧騒は知らない。心も濁った気分がするし、早くお風呂で綺麗にしたい。
今更ですが、スーサイド編は登場キャラ多め。




