その海賊、ひたすらしぶとい
ロードレオ海賊団二強、レオパル&トラキロ
捕らえられてるけど、前章の大ボスコンビなんですぜ……これで。
「叫ぶな、ロードレオの変態船長。お前達二人の処遇については、現在コルタ学長もさらに堅牢な牢屋を準備中だ。そこに収められるまで、ここでおとなしくしてろ」
「なんでや!? なんでスーサイドの卒業生であるウチが、カムアーチの貴族に見張られなアカンのや!?」
「カムアーチとしても、お前が起こしたパンティー怪盗事件で縁がある。何より、お前達の相手は並の教員でも苦しい。……これでも魔法や剣術には覚えがあってな。捕らえられてるロードレオの船長と副船長を見張る分には問題ねえよ」
「……方々でヘイトを振りまくから、こんな面倒なことになるんでさァ」
どうやらシード卿は現在、コルタ学長に頼まれてレオパルさんとトラキロさんの見張りを任されてるみたい。シード卿とは影の怪物に操られてた時に一度戦ったけど、あの時とはまた違う気迫を感じる。
シード卿が鋭い目つきで警戒してるから、牢の二人も迂闊に派手な真似はできない様子。一応は縁もあるし、妥当な人選と言えよう。
元々はスーサイドへ視察に来ただけのシード卿なのに、随分と面倒に巻き込まれたものだ。それでも素直に依頼をこなす辺り、性根がいい人なのは見て取れる。
まあ、そんなことはカムアーチの頃から知ってる。面倒見の良さがシード卿のいいところだ。
「シード卿、なんだかごめんなさい。この二人、元々は私を追ってここまで潜り込んで来た。シード卿が面倒に巻き込まれたのは私の責任でもある」
「そんなことねえよ。むしろ、愛しい女を守れる機会に巡り合えたのなら、それはそれで本望ってもんだ」
「……そう言われると照れる」
一応は私が事の発端だし、頭をペコリとして謝罪。それでもシード卿は気にすることなく、優しく笑顔で応じてくれる。
カムアーチでの一件からか、どうしてもシード卿のことを意識してしまう。悪い気はしないけど、どうにもくすぐったい。これが恋というものなのだろう。
「あっ!? コラッ!? そこのカムアーチ下流貴族! ウチのミラリアちゃんに色目を使うなやぁぁあ!!」
「……いつからレオパル船長のものになったんですかねェ? こんなことなら、無理矢理にでもオレは同行を断るべきだったかァ」
対して、牢の中はレオパルさんが騒がしく、トラキロさんは座り込んで半ば諦め気味。自分の上司が揉めてるのに、トラキロさんは淡々としたものだ。
どうにも、今回のトラキロさんは完全に巻き込まれた形みたい。抵抗する様子もなく、私も同調できる言葉を口にしてる。
――大変な船長を持ったことにちょっぴり同情。
「おい、トラキロ! お前ももっと抵抗せいや! 逃げ出されへんかったら、ロードレオ海賊団もおじゃんやぞ!?」
「今ここで下手に頑張っても無意味でさァ。少しは機を伺ってみたらどうですかァ?」
「……この二人、いずれ脱出する気満々ですの」
「私はこの二人のしぶとさを知ってる。正直、この程度で終わるとは思えない」
「ミラリアがそう言うなら、マジにしぶてえんだろうな……。とはいえ、俺はここで見張りを続けるか。コルタ学長との約束だしな」
今はあくまでシード卿が警戒してくれてるから安全なだけで、この二人が本気を出せば強固な牢でも破壊できそうな気がする。
一応はコルタ学長もさらなる対策を考えてはいるらしいけど、二人に内蔵されたサイボーグの力は計り知れない。高度な魔法でも通用するか危うい。
とはいえ、私では対策なんて思いつかない。今はただ、シード卿に見張られておとなしくしてもらうしかない。
「そういえば、シード卿はコルタ学長とどんなお話をしてたの? 視察も含めて、大事なお話だったんじゃないの?」
「ん? あ、ああ。そのことか。いやまあ……俺もちょっとミラリアには説明が難しいっつうか、何つうか……」
「むう? シード卿にしては珍しく歯切れが悪い」
「と、とりあえず、また後日コルタ学長もミラリアには会いたいそうだ。今日のところはスーサイドで一泊させてもらえ。今は学生に紛れ込んで上手くやれてるみてえだし、最悪コルタ学長の名前を出せばどうにでもなる。ミラリアだって、たまにはゆっくりしてえだろ?」
「う、うん。そうさせてもらう」
そんなスーサイドのために動いてるシード卿自身のことも尋ねてみたけど、珍しく歯切れが悪い。私にはいつもハキハキ言いたいことを口にするのに、どういうわけか口ごもってる。
気になるけど、今回のシード卿はカムアーチを代表して視察でスーサイドに来てる。私個人との付き合いとは違い、貴族としての立場もあるのだろう。
カムアーチでは私への恋だ何だで熱かったのに、こういうところは切り分けられるんだ。ちょっと意外。
「シード卿の話だと、コルタ学長に今から会うのは厳しい。やっぱり、今はおとなしくお休みして明日を待つ」
「コルタ学長も明日になれば話を取り次いでくれるかもしれねえし、今はミラリアも旅の疲れを癒してな」
「では、当初の予定通りわたくし達と一緒にお休みしますの! もういい時間ですし、まずはみんなでお風呂に行きますの!」
てなわけで、本日の活動はここまで。シード卿やシャニロッテさんにも促され、スーサイドで一泊する運びとなった。
まあ、私もここに至るまでロードレオ海賊団との戦いや箱舟の船旅で疲れは残ってる。たまにはゆっくりしたい。
何より、みんなでお風呂というのも興味深い。
「シャニロッテさんからお聞きしたミラリア様に会えただけでなく、一緒にお風呂にまで入れるなんて……!」
「これは学生生活の思い出になります!」
「私、感激です!」
「うん。私も楽しみ。こういうのは初めて」
ミラリア教団の面々もノリノリだし、私だって内心ノリノリ。だって、同世代の女の子と一緒にお風呂に入るなんて、エスカぺ村にいた時でさえなかったことだ。
旅先で初めて経験することは怖いこともあるけど、みんなでワイワイというのは心が躍る。今は待つ時間だし、純粋にお風呂を楽しもう。
「あっ、そうだ。みんなでお風呂ってことは、ツギル兄ちゃんはお留守番。シード卿、ちょっとツギル兄ちゃんを預かっててもらえる? 魔剣として、見張りの役にも立つと思う」
「ああ、構わねえよ。ミラリアだってたまには同世代の女の子と楽しみてえだろ。なんだったら、魔剣の兄貴は俺が一晩預かっててやるさ。その方が気兼ねなく楽しめるだろ?」
「それはありがたい。いざという時はシード卿にもらったブレスレットもあるし、今夜はお願いする」
なお、ツギル兄ちゃんとはここでいったん別行動せざるを得ない。私だってみんなと一緒に気兼ねなく過ごしたいし、シード卿なら預けても信頼できる。
そうと決まれば腰の魔剣も今は取り外そう。引き寄せ用のブレスレットだってあるし、このままシード卿に手渡して――
「……あれ? 魔剣が手首にくっついて離れない?」
「手首っつうか……俺が渡したブレスレットにくっついてねえか?」
【…………】
――おこうとしたんだけど、どういうわけか魔剣がくっついて離れない。多分、ツギル兄ちゃんの意志で。
……このエロ兄貴。




