その少女、授業を受ける
なお、正規の学生ではない。
「ルーンスクリプトに繋がるかもしれない話に興味はある。是非とも聞きたい」
「わたくしもタタラエッジでお会いした時は、まだ授業で習ってませんでしたの。もしかすると、この授業でやるかもしれませんの」
「そうだとありがたい。ちょっと期待してみる」
シャニロッテさん曰く、これから行われる授業は魔法に関する深い歴史についてとのこと。ルーンスクリプトについて聞ける可能性だってある。
ルーンスクリプトはこれまでの旅でも度々目や耳にし、私も知ってる魔法とは一線を画してる。元々は楽園から伝わってるものと思われるし、少しでも話が聞けるなら願ったり叶ったり。
「……でも、私まで授業に参加して大丈夫なの? 私、スーサイドの学生じゃないよ?」
「学生服を着てますし、授業を受ける学生は多いですの! 先生だって気付かないですの!」
「……いいのかな? これって不正……だよね?」
【確かにそうだが、もう席に着いてる以上は今更だ】
ただ、今の状況が大丈夫なのかは心配。私は現在、椅子に魔剣を立てかけてシャニロッテさん達ミラリア教団と一緒に授業のために席へ着いている。
確かに今の私はスーサイドの学生服を着てるけど、別に本当の学生になったわけじゃない。ダメだとは理解しても、気になるから結局流されて席に着いちゃった。
――でもまあ、いっか。周囲の学生も何も言ってこないし、大丈夫ならそれでいい。
「皆さん、集まりましたね。それでは、授業を始めます。今回は『魔法の歴史と創世』についてお話します。実際に魔法を扱うわけではありませんが、過去を学ぶことも大変重要です。しっかり授業を聞いて、今後へと活かしてください」
しばらくすると、教員や先生と呼ばれる眼鏡の大人な女性が前方へ姿を見せる。この部屋自体が大きな扇形の舞台のようになってて、眼鏡の先生へ周囲の視線が自然と集まる。
私もエスカぺ村でお勉強はしたけど、こんな大勢で一人の先生の授業を聞くのは初めて。いつもスペリアス様一人に対し、私とツギル兄ちゃんだけだったし。
だからこそ、私一人が紛れ込んでてもバレてないのか。眼鏡の先生も気にせず授業を始める。
お勉強は苦手だけど、明確な目的があるなら話は別。しっかり視て聴くことで、楽園へのヒントを掴もう。
「皆さんが普段から使っている魔法ですが、その歴史には諸説あります。楽園から伝わったとも、古代の人間が発明したとも、神が与えたギフトだとも。詳細は未だ謎に包まれていますが、スーサイドには起源に関する文献も残っています。本日はその点について学んでいきましょう」
「ミラリア様! やはり、この授業には価値がありそうですの!」
「……シャニロッテさん。授業中は私語を慎み、お静かに願います。隣のアホ毛の女学生は真剣に話を聞いてます。彼女を見習ってください」
「も、申し訳ございませんの……」
授業が始まると、最初の内容からして何かしらの手掛かりはありそうに感じる。
ここはアホ毛をビンビンにしつつも静かに集中。シャニロッテさんも隣で同調の声を上げるけど、今は授業中だからお返事は無理。
先生もその態度に注意を促し、シャニロッテさん自身もしょんぼりしつつ素直におとなしくなる。これだけ大きな授業だけど、個人的なお喋りがダメなのはエスカぺ村と変わらない。
――というか、先生は本当に私が学生じゃないって気付いてないみたい。食堂でもそうだったし、コルタ学長といった人達の記憶力が特別だったのか。
「気を取り直していきます。まず魔法を使う時、皆さんも慣れていない時は詠唱を行いますよね? 魔法と言葉には密な関りがあり『口にすること』で魔法を発動させやすくします。詠唱の代わりに杖を用いるのも同じ原理ですね。言葉の代わりに道具を介することで魔法の発動を簡略化させてます」
「成程。魔剣についても同じ原理なのか」
「そうして発動させた魔法は『魔法陣という理』を介することで、実際の力を示せるというわけです」
まあ、授業を聞けるならおとなしく聞かせてもらおう。私としても興味のある内容だ。
これまで何気なく使ってた魔剣による魔法にしても、かつてツギル兄ちゃんが言ってた通り。居合が『火打石のように魔法を発動させる条件』となることで、魔法を扱いやすくしてくれる。
一部の簡単な魔法は居合なしでもツギル兄ちゃんの意志で発動できるし、そのことをこうして授業で再認識できるのは興味深い。お勉強は苦手だけど、自分と深い分野の話なら自然と頭に入ってくる。
「また、詠唱や道具を介することは魔法発動の補助のみならず、より高位な魔法を扱うためにも重要です。どれだけ鍛錬を積んだ魔術師であっても、上級魔法を使うために根本となる詠唱は外せません。『言葉の力』とは、魔法の土台と言えます」
【これについても魔剣の力が当てはまるな。ミラリアも技を使う時、技名を叫ぶだろ?】
「うん、理解できる。あれも詠唱の一種で、魔剣の力を最大限に活用できるのか」
ツギル兄ちゃんとも一緒になり、先生の授業を聞いてフムフムとなる。これまでは『技名を口にした方がカッコいい』って感じでやってたけど、あれにも意味があったってことか。
これまで自然とやってたことの中にも意味があり、それを知ることは大変興味深い。私、初めて勉強が楽しいって思えたかも。
「そして、この『詠唱の言葉』については現在世界に出回ってるものとは別にもあります。これこそかつて存在した古代文明のものとも言われ、使える術者は世界でも限られたものです。今、その一例を黒板に記しますね」
こうなってくると、この先の授業内容にもますます興味が湧いてくる。先生も後ろにあった黒板へ、魔法で浮かせたチョークで何かを記し始める。
みんなに見えるように書かれていく大きな字。ただ、私が普段に読み書きしてる字とは違う。クニョクニョとした字で何て書いてるのかは分からない。
――ただ、あの字には見覚えがある。
「あの文字って、エスカぺ村のお社地下にもあった古代文字……?」
【まさか……あの文字こそがこれまで何度も耳にした『ルーンスクリプト』なのか……?】
古代エデン文明の力、そこに記されり。




