その少女、処刑される
さらば、剣客少女ミラリア。
エスカぺ村がレパス王子達の手で焼き払われ、村のみんなも殺された。生き残ったのは私だけ。
その私にしてもディストール王国の兵隊に連れられて、今はお城へと戻ってきてしまった。
両手は縄で固く結ばれて動かせない。御神刀も奪われて武器もない。
途中城下に入った時、人々から『裏切者』だとか『よくも騙したな』とか言われて、石を投げつけられたりもした。
これまでの立場が一気に逆転。私の周りに味方なんていない。
――いや、本当に味方と言える人達を私は突き放してた。その人達だってもういない。私の愚かな選択が、この結末を招いてしまった。
「見損なったぞ、ミラリアよ。我が息子レパスの嘆願で勇者の称号を与えたのに、よもやディストールに牙を剥く真似をするとはな」
「お、王様……」
そうして私が連れてこられたのは、お城にある玉座の間。前方では王様が拘束されて膝をつく私を睨み、周囲は大量の兵隊で包囲されている。
逃げ出すことなどできない。そんな気さえ起きない。
私はただただ、かけられる言葉に耳を傾けるしかない。
「その方が生まれ育ったエスカぺ村という地は、古来より言い伝えられるエデン文明をひた隠していたそうだな? しかもその力を使い、我がディストール王国へ蜂起の準備をしていたと?」
「ッ!? そんなことしてない! エスカぺ村、ただみんなで平和に暮らしてただけ! それをディストール王国が滅茶苦茶にした!」
「そのような妄言、信ずるに値せぬな。その方がディストール王国に滞在していたのも、全ては内偵のためだったそうではないか? レパスから全て聞いておるぞ」
「違う! そんなの全部嘘! レパス王子がエスカぺ村を襲った! みんなを殺した!」
しかも王様が語るのは、根も葉もない嘘偽りの事象ばかり。エスカぺ村が悪者で、ディストール王国が被害者なんてはずがない。
私は見た。実際にデプトロイドや兵隊が村を蹂躙し、レパス王子がみんなを殺す場面を。そのことをいくら語っても、王様は聞く耳を持ってくれない。
「分かったかい、ミラリア? ここに君の味方は誰一人としていない。ただ反逆者としてここで処刑される以外に道はないのさ」
「レ、レパス王子……! 私、あなたを許さない……! 許したくない……!」
「今更吠えたところで何も変わりはしないさ。用済みとなった人間には、おとなしく退場してもらわないとね」
そんな私に対し、レパス王子が顔を覗き込みながら小声で語りかけてくる。その表情は邪悪そのもの。その顔を見ると、私の中で眠っていた怒りがフツフツと沸いてくる。
私のせいでこうなったのは事実。それでも、レパス王子のことは許せない。こいつがエスカぺ村を滅ぼしたのだって事実だ。
――どうしようもないほど黒い感情が、私の身を焦がしてくる。
「さて、君の処刑方法だが、このエデン文明を元にした剣によってこの場で首を跳ねるとしよう。ミラリアにとっても、それが本望だろう?」
「ご、御神刀……!? い、嫌! やめて!」
だけど、その感情をぶつけることもできない。それどころか私から奪った御神刀を使い、斬首による処刑を執行しようとしてくる。
レパス王子が鞘から御神刀を抜き取れば、そこにあるのは私には見慣れた刃。居合で相手に見せることはほとんどないけど、いつも手入れはしっかりしてある。
「僕も刃を見るのは初めてだが、片刃の剣か。これまた珍しく、エデン文明によって打たれたものなのだろう。君の首を跳ねた後は『楽園に繋がる証』として、ディストール王国の宝とするのも悪くないか」
「その御神刀、エスカぺ村の宝物! そんなことに使わないで! な、何より……私を殺さないで……!」
「命乞いなど見苦しいことは止めたまえ。もう君に選択肢はない」
その刃が、村のみんなが授けてくれた力が、今まさに私の首を斬り落とそうとしている。
私は前方に両手をつき、四つん這いで頭を差し出す態勢を兵隊によってとらされる。抜かれた御神刀はレパス王子によって頭上で掲げられ、後は振り下ろされるだけ。
御神刀を使われたことも悔しい。私がエスカぺ村を巻き込んだことも悔しい。このまま何もできないことだって悔しい。
憎悪も後悔も入り混じり、私の頭の中は完全にグチャグチャ。でも、一つだけ明瞭に願ってることがある。
――私は死にたくない。
「さあ……終わりだ」
「い……嫌だぁぁああ!!」
振り下ろされた御神刀に構わず、私は目を閉じて必死に叫んでしまう。やっぱり、死ぬのは怖い。
ここまでエスカぺ村を巻き込んで、村のみんなに死んで償いたい気持ちはある。でも、私は生きたい。
――それがたとえ、私のワガママであってもだ。
【死なせないさ、お前だけは。何より、死んで逃げるような真似は兄として許さない】
ズウゥゥンッ!
「な、なんだ!? 剣が突然重く!?」
そんな想いも虚しく、私の首は御神刀で斬り落とされるはずだった。なのにレパス王子は狼狽え、私の首に刃が当たった感触すらない。
恐る恐る目を開けてみれば、そこに見えるのは床に突き刺さった御神刀。しかも私の両手を縛っていた縄を切断する形で突き刺さってる。
これって、何がどうなってるの? なんでこんなに都合よく御神刀が私を躱したの?
これじゃまるで、御神刀に意識があるような――
【どうやら、ミラリア自身も驚いてるみたいだな。まあ、無理もないか。……俺だよ。お前の眼前に突き刺さる御神刀に、俺の魂は宿ってる】
「え……? も、もしかして……ツギル兄ちゃん……?」
いやまあ、まだ終わりませんけどね。




