その最恐、まだまだ懲りない
わざわざ抜け道なんて使ってやって来たのは、前章から引き続きあの連中。
「こ、この真下にか!? コルタ学長! 何か覚えは!?」
「下にはスーサイド全体を張り巡る水道はあるがのう……。わ、儂も何か気配を感じるが、ネズミではなさそうじゃな……」
シード卿もコルタ学長の肩を支えながら、倉庫の下へ意識を向けている。魔法に長けているからなのか、コルタ学長も気配には敏感だ。
さっきまでスペリアス様の銅像やらコルタ学長の体調やらで大変だったのに、またまた嫌な予感がしてしまう。お願いだから、コルタ学長の心臓に負担がかかりそうなビックリだけはやめてほしい。
「……そこの丸い蓋。あそこから何か迫ってる」
「ど、どど、どうすればいいですの!?」
【落ち着け。ここは俺とミラリアに任せて、シャニロッテちゃん達は下がってくれ……!】
物音はゆっくりながらも少しずつ大きくなって近づいてる。得体の知れない何かがこちらへ向かってるのは明白。
怖いけど、状況からして私とツギル兄ちゃんが出るしかない。みんなには下がってもらい、腰を落として魔剣を構える。
丸い蓋の下から何か出てきても、驚かず冷静に対応するべき。コルタ学長をビックリさせないよう注意を払って――
「よっしゃぁあ! ようやく出てこれたでぇえ! 見たか、トラキロ! ウチの言うた通りやったろ!?」
「潜ったり上がったり……面倒でしたなァ。ここまでコソコソするんだったら、素直におとなしくしてりゃァいいのによォ……」
「ふえええええぇぇ!?」
【お、お前達は……レオパルにトラキロ!? ま、またかよ!? ロードレオ海賊団!?】
――いたんだけど、出てきた人達を見て、思わず過去最高にふえっとしちゃう。
丸い蓋を持ち上げて現れたのは、まさかまさかの見知った顔。だけど、驚かずにはいられない。魔王軍より最恐で最悪の相手だ。
イルフの里から始まったトトネちゃん救出作戦において、最終的に最後の壁となったロードレオ海賊団。その船長レオパルさんと副船長トラキロさん。
よりにもよってこんな場面で出くわすなんて、最悪以外の何ものでもない。ついついパニックになりそう。
「ニャホッ!? ようやく外に出れたと思うたら、まさかまさかのミラリアちゃん!? こらまた、追ってきた甲斐があったなぁ! やっぱ、ウチとミラリアちゃんは運命の赤い糸で繋がっとるで!」
「わざわざここまで私を追ってきたの!? そんな鼻血臭そうな糸は嫌!」
「じれったいこと言うなや~! それによう見ると、こらまた可愛いお嬢ちゃんもご一緒か? カーッ! 苦労した甲斐もあって、ごっつラッキーやないかぁあい!!」
なんてことだ。どうやら海の上で戦った後、私のことを追ってスーサイドまでやって来たらしい。
頭おかしい。ここまで私を追ってきた理由にしても、例のニャンニャンパラダイスに決まってる。
わざわざそんなことのためにスーサイドへ潜り込むなんて、普通どころかレオパルさん以外の人間はやらない。頭おかしい。
――この情熱、もっと別のことへ向けられなかったのかな?
「な、何ですの!? この頭のおかしそうな眼帯の女性は!? わたくしのことをいやらしく見てますし、ミラリア様達の仲間……では、少なくともありませんよね!?」
【ああ、その通りだ! この二人はロードレオ海賊団! 海を股にかける最恐最悪の変態どもだ!】
「ちょっと待てェ! そっちの魔剣よォ! その言い方だと、オレまで変態みてェじゃねェかァ!?」
【うるさい! ほぼ半裸の時点で同列だ! 同列!】
とはいえ、今は余計なことも考えていられない。私だけでなく、シャニロッテさんにまでいやらしく狙いを定めるレオパルさん。
魔剣のツギル兄ちゃんもお構いなしにしゃべくり回るし、倉庫の中はまたしても大混乱。トラキロさんの異議申し立ても入るし、ここが魔法学都スーサイドであってもしっちゃかめっちゃか。
――とりあえず、トラキロさんにはレオパルさんを止められるよう努力してほしい。上司なんだろうけど、少しは頑張って。
「ロードレオってことは、かつてカムアーチを恐怖のどん底へ陥れたパンティー怪盗の……!? コルタ学長! 下がっていてください! 連中は危険すぎます!」
シード卿もかつてカムアーチを恐怖で襲ったパンティー怪盗レオパルさんのことは知ってる。だからこそ、腕で制するようにコルタ学長を後ろへ下げ、腰にあった剣を抜いて構え始める。
かつて影の怪物に憑りつかれてた時とは違うものの、構え自体は様になってる。仮にもカムアーチの貴族として、戦いの心構えは学んでるってことか。
ならば好都合。ここは頼りにさせてもらう。私とツギル兄ちゃんでは、ロードレオのサイボーグ二人を相手にするのは厳しい。
こんなところまで急に現れてやることなすこと言いたいこともたくさんあるけど、一つだけ明確に分かることがある。
――この二人は私達の敵。こうも連続で戦うのは予想外だったけど、向かってくるなら斬り倒すしかない。
「……おやおや。いきなり誰かと思えば、レオパル君じゃったか」
「んげぇ!? こ、この声にそのヨボヨボじいさんスタイルは……ま、まさか……コルタ学長!?」
そう思って気合を入れてた中で、割って入るように口を挟んできたのはコルタ学長。さっきまでの持病も収まったらしく、シード卿の肩を借りずに前へと出てくる。
危ないと思うけど、その様子はどこか妙。コルタ学長だけでなく、レオパルさんの方もおかしい。
あの変態で可愛い子がいれば問答無用で襲い掛かるレオパルさんが、コルタ学長に対してはどこかビクビクしてる。こんな姿は初めてだし意外過ぎる。
――この二人、もしかして何かあったの? お互いのことを知ってるし、知り合いなのは確かだよね?
「風の噂には聞いておったが、まさか本当にロードレオ海賊団の船長をしておったとはのう。……スーサイド一番の問題児だった君は、卒業しても相変わらずか」
レオパル。実はスーサイドを卒業した元学生。




