その魔女、魔法学都で語り継がれる
ミラリアが見つけたのは、追い求める母の銅像。
「ミ、ミラリア様? もしや、この銅像――スーサイドに伝わる大魔女、スペリアス様をご存じですの?」
「ご存じとかそんなレベルじゃない! この人、私のお母さん! 私、スペリアス様に会いたくて旅してる!」
「な、なんじゃと……!? き、君が……彼女の娘と……!?」
私の反応を見てシャニロッテさんやコルタ学長は驚いてるけど、私達の方がずっと驚いてる。
ツギル兄ちゃんもついつい声が出ちゃうほどの衝撃。だって、銅像の元となった人は誰よりも知ってる人だもん。
――私達兄妹の育ての親にしてお師匠様。楽園を目指す旅のきっかけにもなったスペリアス様こそ、スーサイドで大魔女と語られる銅像の正体だった。
「ミラリアの母親だって? だが、見た目的にはかなり若いよな? ……コルタ学長。この方はいつ頃の時代の人ですか?」
「そ、そそ、そのことじゃが、儂も詳しくは知らん」
「え? そうですの? でも、コルタ学長はいつもこの銅像を眺めて、何か懐かしむような――」
「ッ!? こ、この話は置いておいてくれぬか!? わ、儂からは何も語れぬ!」
私にとっては母であり懐かしいスペリアス様だけど、スーサイドにおける詳細は知らない。イルフ人の長老様からも聞いたけど、まさか銅像が作られるほど偉大で語り継がれる存在だとは思わなかった。
その詳細についてはスーサイドの人こそ詳しいだろうし、一番詳しいはずなのはコルタ学長だろう。スーサイドでも偉い人らしいし、お年寄りだから昔のことにも詳しいはず。
なのに、あからさまに誤魔化すように話題から逃げてる。シード卿とシャニロッテさんが問い詰めても、凄く下手くそに話を逸らしてくる。
――普段ならあんまり迷惑なことはしたくないけど、これは問い詰めずにはいられない。コルタ学長は何か知っている。
「ねえねえ、コルタ学長! スペリアス様について何か知ってるなら教えて! 私、どうしてもこの人に会いたい! 私の大切なお母さんに……ごめんなさいって言って……! う、うああぁぁあ……!」
「こ、これこれ!? 泣くでないぞ!? 儂も困ってしまうじゃろうが!?」
【……ええい! もうこの際だ! 俺だって黙って見てるだけとはいかない! 頼むから教えてください! 俺達兄妹にとって、何よりも大切な人なんです!】
「ぬおっ!? け、剣が喋ったじゃと!? こ、これは驚きの数々が怒涛の如く……!?」
しらばっくれて後ずさりコルタ学長に対し、失礼ながらも学生服姿でピョンピョン跳ねながら猛抗議。感情も昂ってしまい、涙まで流れ出てしまう。
ついには腰に携えられた魔剣のツギル兄ちゃんも耐えきれず、自ら言葉を発して一緒に言葉攻めへ参加する。
失礼なのは分かってる。無礼なのは全部承知。だけど、そこまでしてでも聞き出したい理由が私達にはある。
――楽園を目指すこの旅は、全てスペリアス様に会うためのもの。その手掛かりをこうして見つけた今、居ても立っても居られない。
「ま、待ってほしいのじゃ……!? い、いかん……ヒュー、ヒュー……! あ、あまりの衝撃と動悸で、し、心臓の持病が……!?」
「ミ、ミラリア様にツギルさん! 流石にこれ以上はマズいですの!? コルタ学長は高齢なためか病気がちで、興奮すると命に関わりますの!」
「ふえっ!? そ、そうだったの!?」
【す、すみません! こっちもつい興奮して……!】
ただ、命まで関わってくると流石にやめざるを得ない。胸元を抑えて苦しみ始めたコルタ学長の背中を、シャニロッテさんが優しくさすって息を整えてる。
一応は大丈夫みたいだけど、これ以上は流石にマズい。スペリアス様のことを聞くためにコルタ学長の命が危ないなんてシャレにならない。
これは反省ものだ。私もツギル兄ちゃんも必死になりすぎた。
「ヒュー、ヒュー……す、すまぬな、シャニロッテ君。儂も年齢には勝てぬようじゃ……。ミラリア君と……えーっと……そっちの剣は何じゃろうか?」
「こっちは魔剣のツギル兄ちゃん。それより、必死になりすぎてごめんなさい。魔剣のことはまた後で話すから、今はコルタ学長の体調が一番大事」
【俺も急に失礼しました……。スペリアス様のことについても、落ち着いてからで構いません。今は休んでください】
「お、お言葉に甘えさせてもらおうかのう……ヒュー、ヒュー。……しかし、よもやこのタイミングで彼女の子供がスーサイドへ現れるとは……」
シャニロッテさんが背中をサスサスしたおかげなのか、コルタ学長の息も整ってきた。でも、これ以上尋ねるのは流石に無理。
私もツギル兄ちゃんも揃ってごめんなさい。こういう時こそ、話は落ち着いて段階を踏むべきであった。
勢いで魔剣の説明も必要になっちゃったし、焦って失敗するのはいけないこと。旅の中で成長したつもりでも、私もツギル兄ちゃんもまだまだ青い。
「わ、儂も気持ちの整理がついたら、話をさせてもらうかのう……。何より、今はそちらの御仁とも先約があるのでな……」
「俺のことですか? まあ、こっちもカムアーチから遠路はるばる来てる身なので、話を伺いたいのは山々ですが……明日にしません?」
「い、いや……そなたがカムアーチの貴族であるならば、耳に入れてほしい話もある。こんな老いぼれのヨボヨボですまぬが、上層階にある学長室へ向かうかのう……」
「……本当に大丈夫なんですかね? まあ、俺も容態は気になりますし、傍にいた方がいいでしょうが……」
結局、今はスペリアス様のことも聞けずじまい。コルタ学長はヨボヨボになりながらもシード卿を手招きし、そっちの話を進めようとする。
それはそれで構わないけど、本当に大丈夫なの? シード卿も心配してるし、日を改めた方がいいんじゃない? 私達のせいだけど。
とりあえず、これ以上はコルタ学長の身に負担がかからないことを祈るのみ。私も今は身を引くしかない。
おそらくこの後はシード卿とコルタ学長でのお話になるだろうし、私の方はシャニロッテさん達から事情を聴いて――
ガコ ガコン
「ッ!? 待って! 何か物音がする!」
「コルタ学長の体調だけでも大変なのに、まだ何があると言うですの!?」
――と思った矢先、どこからか不自然な物音がして咄嗟に身構えてしまう。シャニロッテさんもコルタ学長の体調を心配しつつ、一歩下がって様子を伺ってる。
わずかな物音だったけど、聞こえてきたのはこの倉庫の真下。アホ毛の感覚を研ぎ澄ませば、ただの気のせいでないことも分かる。
――私達の真下に誰かが潜んでる。
コルタ学長の持病だけでも大変な中、さらなる狂気が忍び寄る。




