その学長、ようやく対面する
結構間に色々起こってるのな。
「つうか、俺としてはそろそろ倉庫に向かいてえな。コルタ学長もいるらしいし、銅像がどんなものかも気になるからな」
「うん、私もそうしたい。シャニロッテさん、案内をお願い」
「かしこまりましたの! 皆々様! あそこの倉庫まで一列に整列ですの!」
「お任せ!」
「ください!」
「です!」
流石にここまで色々と寄り道が過ぎたかも。シード卿もしびれを切らしてるし、私だってコルタ学長や銅像のことは気になる。
そこからそこまでの距離だけど、軽くシャニロッテさんへお願いすれば他の人と一緒に道の両脇へ立ち、倉庫の方へ手招きしてくれる。
――やることが大袈裟。別に声かけなくてもよかったかも。
【シャニロッテちゃんはサークルのギスギスは避けてるようだが、内部でかなり暴走してるな……】
「もう私は関わらない。シャニロッテさんが人を傷つけないならそれでいい。それだけで十分」
【……そうか。ミラリアがそう言うなら、俺もこれ以上は口を慎むか】
毎度の如く口はないけど、ツギル兄ちゃんは口の挟み方を心得てくれる。アーシさんやカーダイスさんと違い、シャニロッテさんはギスギスが嫌いみたい。
ならばそれで良しとしよう。何より、今は倉庫へ向かうのが優先だ。深くてグニグニしてそうな物事は忘却の彼方へさようなら。
「あっ!? ミラリア様! 危ないですの! 歩いた先に小石が落ちてますの! わたくしが拾うので、少々お待ちを!」
「……それぐらい、避けられる」
■
「ここが倉庫か。思ったより埃っぽくはないし、整理もされてるんだな」
「仮にもあのお方の銅像を保管する場所ですの。汚かったら大問題ですの」
「シャニロッテさんがそこまで言うほど偉大な人の銅像なんだ。コルタ学長もだけど、そっちもますます気になる」
大袈裟に案内されながらも、私達は倉庫の中へ足を踏み入れる。なお、今回はシャニロッテさんのサークル仲間は外で待機だ。
整理はされてるけど、そこまで広い場所でもない。大勢で押しかけて棚が崩れたりしても大変だし、シード卿、シャニロッテさん、私&ツギル兄ちゃんだけで中へ入っていく。
せっかくの学生服が汚れるか心配だったけど、倉庫と言うわりに中は綺麗。急いで掃除したようにも見えるけど、綺麗なのはいいことだ。
「むう? 奥にあるのがさっきの銅像? 布がかけられたままだけど……その前に誰かいる?」
「コルタ学長ですの! すみませーん! お客さんがお見えですのー!」
「ほう? この声は……シャニロッテ君じゃったか。相変わらず元気が良くて、儂のような年寄りも励まされるわい」
そんな倉庫の奥に佇むのは、私もさっき見た銅像。まだ布で隠されてるけど、しっかりした形で保管されてるみたい。
その銅像の前にいた人にシャニロッテさんが声をかけると、こちらへ振り返ってくれる。立派な帽子と右側だけの眼鏡をかけたおじいさんで、穏やかな風貌の中に隠れた威厳を感じる。
この人こそ、シード卿も会いたがってたコルタ学長みたい。シャニロッテさんは『厳しい人』って言ってたけど、今のところは凄く優しそう。
――これで厳しさも備えてたら、まるで男性版スペリアス様みたい。
「あなたがコルタ学長ですか。俺はカムアーチ貴族のシードと言います。スーサイドに視察としてやって来て、あなたともお話をしたく願いました」
「おお、これはすまんかったのう。儂も話は通っておったが、急用のせいで出迎えができんかったわい」
「急用……というのは、こちらにある銅像の移動に関してで?」
とりあえず、シード卿は一番会いたかった人に会えたわけだ。普段私に見せる軽い調子は鳴りを潜め、丁寧な態度でコルタ学長へ挨拶してる。
その際に銅像についての話も出てくるし、これについては私も気になる。シャニロッテさんのオススメだし、まずは拝見してみたい。
「初めまして、コルタ学長。私はミラリア。シード卿と丁度一緒にやって来た冒険者」
「ほう? 冒険者の少女がまた、どうしてスーサイドの学生服を着ておるのかのう? それに、ミラリアという名は確か……?」
「このお方こそ、わたくしどもミラリア教団が崇めるお方ですの! コルタ学長への礼儀として、学生服を着てもらいましたの!」
「……それは何やら方向性を間違えておるのう。まあ、シャニロッテ君のやることなら構わんか。ともかく、ミラリア君もこの銅像に興味がありそうじゃな?」
「うん、興味ある。布を取って見せてほしい」
「まあ、隠すようなものでもないからのう。むしろあんな要望がなければ、ずっと目立つ広場に飾っておきたかったんじゃがな」
ペコリとお辞儀をしながら自己紹介。やはり、最初の印象は大事。
学生服のことでちょっと渋い顔をされたけど、特に問題なく話を進めてくれる。割って入るシャニロッテさんも軽く流すあたり、どこか慣れた雰囲気。
――シャニロッテさん、スーサイドではどんな評価を受けてるんだろ?
「この銅像はかつてスーサイドに君臨し、様々な知見を残した大魔女のものじゃ。ミラリア君も是非記念に見ていってくれ」
気になる銅像についても見せてくれるらしく、覆っている布へ手をかけるコルタ学長。そのまま一気にバサッとはぎ取り、ようやく銅像とご対面。
案内されてから異様に長かったけど、その分だけ期待も高まる。魔法学都と呼ばれるスーサイドに名を残すなんて、さぞかし高名な大魔女で――
「……えっ!? う、嘘!? こ、この銅像って……!?」
【た、確かにイルフ人から聞いてはいたが、まさかこんな形で……!?】
――あると思われたというか、大魔女で当然だ。少なくとも、私とツギル兄ちゃんにとっては。
布がとられて全身が露わとなった銅像を見れば、私とツギル兄ちゃんは驚かずにはいられない。そして、間違えるはずもない。
私達兄妹にとって、この人こそが全ての原点にして頂点にして、目指すべき終着点。
――まさか、こうして銅像でその姿を見れるなんて思わなかった。
「ス、スペリアス様……!?」
スーサイドの学長が見せるのは、目指すべき母の姿をした銅像。




