その貴族、再び同行する
カムアーチ以来の再会。
ミラリアにホの字の貴族、シード。
「メイドの二人は滞在予定の部屋の整理を頼む。俺はミラリアと一緒に挨拶して回る」
「かしこまりました、シード卿」
「初めての場所ですので、どうかお気をつけて」
門の前で再会したのは、まさかのシード卿。メイドさん達ともいったん別れ、ツギル兄ちゃんを除くと二人きりになってしまった。
カムアーチでのことを思い出すと、どういうわけかドキドキして上手く話せない。
そんな私のことを丁寧に後押しする形で、シード卿は一緒にスーサイドの中へと案内してくれる。私としてもあのままだと立ち往生だから助かった。
――ただ、久しぶりにシード卿と会ってから心臓の音がうるさい。ちょっと苦しい。
「あ、あの……シード卿はどうしてスーサイドに……?」
「カムアーチの貴族として、スーサイドの魔法研究や街の作りは今後の発展のためにも興味があってな。アキント卿の勧めもあったし、後学のためにもやって来たのさ」
「そ、そう。アキント卿とも仲良くできてそうで……何より」
「そんなに緊張しねえでくれよ。俺だって、ミラリアを苦しめるつもりはねえんだからさ。……それとも、俺に会うのは嫌だったか?」
「い、嫌では……ない」
せっかく優しく私を招き入れてくれたのに、心臓のバクバクで上手く話せない。久しぶりあったからなのか、その後も旅の中で色々経験したからなのか、今思い出すとあの時のことが恥ずかしくも思えてくる。
私、どうして別れ際にシード卿のほっぺに口をつけたんだろ? これまでたくさんの人と出会ってたくさんの感情に触れてきたせいか、あの時より自分の気持ちに整理がつかない。
――変だけど嫌ではない。これがシード卿の言ってた『恋』の先ってこと?
【……おい、キザ貴族。俺はまだあんたとミラリアの交際を完全に認めてないからな】
「『完全に』ということは『少しは』認めてくれたということかな? 魔剣の兄貴殿?」
【最終的な判断はミラリア自身の問題だ。俺も兄とはいえ、当人の意志までは無視できない】
「それはごもっともで。……ミラリアもどうか以前のように接してくれねえか? 今度は俺の調子まで狂っちまう」
「……うん。頑張ってみる。まずはスーサイドへ入れるようにしてくれてありがとう」
「ハハハ。そういうお行儀の良さこそ、ミラリアらしいってもんだ」
きっと、シード卿は今でも心の奥底で私に惚れてる。向こうは以前と変わらない態度なんだし、私だってあの時と同じ態度で接するのが礼儀な気がする。
とりあえずはスーサイドへ入れたことでお礼のペコリ。その姿を見れば、シード卿もカムアーチと同じ笑顔で接してくれる。
やっぱり、私もこの距離間の方がいい。気持ちを入れ替え、頑張って接してみよう。
「それにしても、ここが魔法学都スーサイド……。町全体が大きな建物中に収まってて、上の方までずっと続いてる」
「俺も話には聞いてたが、スーサイドは巨大な塔の中に全ての施設を収めてるらしい。魔物といった脅威から守る効果がある上、陽の光も上手く差し込んでくるな。これも魔法研究で培った技術か」
落ち着きながら辺りを見回し直せば、スーサイドとはまた変わった町みたい。
タタラエッジも洞窟の中に住居を作り、天井に空いた穴から陽の光が注いではいた。スーサイドもそれに近いけど、違う部分も多い。
ここは洞窟とかじゃなくて、全部人の手で作られた建物だ。壁や天井には窓もあるし、陽の光もいっぱい注いで明るい。
暗いどころか丁度いい明るさだ。何かしらの調整が入ってるのは理解できる。『魔法学都』なんて呼ばれるだけのことはあり、いろんな技術も進んでるのだろう。
――こういうのを見ると、ワクワクと同時に期待も高まる。ルーンスクリプトといった楽園の魔法も、知ってる人なら知ってるかも。
「どこかに魔法に詳しい人っていないかな? シャニロッテさんみたいな……学生? じゃなくて、もっと偉い人とか」
「ミラリアのことだから、楽園に関わることだろうな。学生よりも詳しいとなると、それこそ教員になるか」
「教員って……何?」
「うむ……ミラリアの言葉を借りるなら『魔法の師匠』といったところか」
「成程。そういう人にこそ尋ねてみたい。どこにいるのかな?」
「俺もまだ来たばかりだし、そういった人物にも挨拶するからついてくるといいさ」
シャニロッテさんはルーンスクリプトを知らなかったけど、教員と呼ばれる人なら知ってる可能性大。期待も胸にシード卿の後をついて行き、スーサイドの中をテクテクしていく。
まだちょっと心臓がドキドキするから距離は置くけど、別に不快とかはない。シード卿もスーサイドは初めてらしいし、離れ離れで迷子にならないように気をつけよう。
【まったく……どうしてまたシード卿なんかと一緒になるんだか……】
「文句言わないで。それとも、ツギル兄ちゃん的にはお供のメイドさんの方がよかった?」
【お、俺だってそこまで節操なしじゃない。ただ、どうせならシャニロッテちゃんと一緒の方がよかったか……】
「それは魔術師の先輩として? それとも下心?」
【ぜ、前者に決まってるだろ】
なお、ツギル兄ちゃんはカムアーチから時間が経っても相変わらず。少しはシード卿のことを認めた発言もしてたのに、ツンツン傾向はそのままだ。
まあ、ちょっとしたコソコソ話もこの程度にしておこう。せっかくシード卿のおかげで機会が巡って来たのだから、下手に事を荒立てる真似はしたくない。
いくらここが魔法学都と呼ばれていても、喋る魔剣は珍しいはず。下手に誰かにバレたくない。
「むむっ!? あそこに見える神聖なアホ毛に腰の魔剣は……まさか……!?」
「ふえ? 誰かがこっちを見てる?」
「本当だな。どうやら、スーサイドの学生みてえだ」
ちょっと心配になって口を慎んでると、今度は誰かの声が少し離れた位置から聞こえてくる。
しかも、ツギル兄ちゃんが『魔剣である』ことを知ってる口ぶり。バレたのかとも思ったけど、同時にこの声には聞き覚えがある。
シード卿とも一緒になって、その方角へ目を向けてみれば――
「ミラリア様! ミラリア様ですの! 会いたかったですのぉぉおお!!」
「やっぱり、シャニロッテさんだ。……むう? 『ミラリア様』って……何?」
さらにはミラリア教団(仮)創設者、シャニロッテ再び。




