その少女、魔法の地へ踏み出す
いざ、新章。魔法学都スーサイド編。
イルフ人とも別れ、ミラリアとツギルは母の足掛かりを追う。
「長老様、トトネちゃん、カミヤスさん、それにみんな。ここまで送ってくれてありがとう」
【帰りも気を付けてください。またロードレオ海賊団が襲ってこないとも限らないので】
箱舟に揺られて海の上を進むこと数日。私達はようやく目的地のある大陸へ辿り着いた。
地図を見るに、位置的にはタタラエッジの方が近いみたい。私は結構グルリと遠回りした形になるし、これは本当にシャニロッテさんの方が先に着いてるかも。
「我々もトトネやカミヤスの件で世話になった。もしもスペリアスと会えた時は、イルフの長老が礼を述べていたと伝えてくれ」
「ミラリアお姉ちゃん! 絶対にまた会いましょうね!」
【オイラも楽しみにしてるやい!】
服装も巫女装束から着慣れた旅装束へ戻り、アイテムポーチといった荷物も万全。イルフ人のみんなも上陸までは心が進まなかったみたいだけど、箱舟から手を振って私達を見送ってくれる。
こちらも軽く後ろを向いて手を振りつつのお別れ。やっぱり寂しいけど、今はこの新たな道を前へ進みたい。
――魔法学都スーサイド。スペリアス様も訪れたらしいこの地ならば、楽園に関する新たなヒントだってあるかもしれない。
「ちょっと遠くに建物が見える。かなり高そう。多分、あれが魔法学都スーサイド」
【周辺が海なのも一致してるし、地図的に見ても間違いなさそうだ】
少し海岸を離れれば、木々の間に何やら建物の姿が見える。どうやら、あれが目指すべきスーサイドみたいだ。
魔法の研究が盛んな場所と聞いてるし、盛んってことはそれだけ町全体も大きいはず。地図で見てもかなり大きい場所っぽい。
私達が今いる場所からでも大きさは見て取れるし、少し歩けば辿り着ける。
「行こう、ツギル兄ちゃん。スペリアス様がいたと言われる地へ」
【ああ。子供の俺達だけで訪問するのも、感慨深い話だよな】
こうして、私達兄妹はかつて母が訪れた地へ向かって足を進めていった。
■
「ん? 冒険者か? 悪いが、スーサイドは選ばれた学生や関係者しか入れない。町へ行きたくば、他所をあたってくれ」
「ま、まさかの門前払い……!?」
しかし、実際に中へ入れるかは別問題。入口の門まで来ると、槍を構えた門番さんに待ったをかけられてしまう。
見上げれば大きな壁どころか、全体が大きくて高い建物になってる町。ここがスーサイドで間違いはないらしい。
だけど、門を守る門番さんは完全に私を通せんぼ。門を開けてくれる様子もないし、これではせっかく来た意味がない。
長老様も流石にこの辺りの事情は知らなくて当然か。どうにも、中へ入るには許可がいるみたい。
「私、ここに住んでるシャニロッテちゃんとお友達。だから入っちゃ……ダメ?」
「シャニロッテって、確かあのお転婆お嬢ちゃんだったか? 最近は別方向にお転婆が加速してると聞いてるが……って、そんなことは関係ない。仮に本当に彼女の友達だったとしても、それだけで中へ入っていい理由にはならん。知人がいるならば、学生ではなく教官クラスの案内が必要だ」
「そ、そんな……」
この対応には私のアホ毛もションボリしなびる。せっかくかつてスペリアス様もいた場所まで来れたのに、門前払いは非常に萎える。
かといって、門番さんが言うような知り合いなんていない。そもそも『キョーカン』って何? 共感できない。
シャニロッテさんみたいな学生とはまた違うみたいだけど、スーサイドでも特に偉い人のことかな? カムアーチの貴族みたいな。
「わ、私、どうしても中へ入って調べたいことがある! お仕事とか必要なことがあればやるから、どうか入れてほしい!」
「ダメと言ったらダメだ。例外を認めてたら、門番としての意味がなくなる」
「う、ううぅ……! ふえ、ええぇ……!」
それでもどうにか頼み込んでみるも、事態は一向に進展しない。門番さんにはシッシッと手であしらわれ、私も思わず泣き出しそうになってしまう。
このスーサイドにこそ、私の求めるヒントが眠ってるはずなんだ。泣いて困惑などしてる場合でもないし、頑張って別の方法を――
「ようやくスーサイドに着いたと思ったら、なんとも運命的な再会じゃねえか。……しかもこの光景、最初に会った時を思い出すな」
「おお! カムアーチから参られましたか! ささっ、あなたはどうぞ中へ!」
――探そうとしてると、今度は後ろから誰かの声が聞こえてきた。どうやら、私と同じようにスーサイドを訪れた人が来たみたい。
ただ、門番さんの対応は私と大違い。後ろの人のことは快く招き入れようとしてる。
いっそこの隙に中へ潜り込もうかとも考えたけど、それはとってもお行儀が悪い。何より、後ろからした声には聞き覚えがある。
「そっちの冒険者の少女だが、俺の連れってことで一緒に中へ入れてくんねえか?」
「え? し、しかし……?」
「安心しな。その子の身元なら俺も知ってる。何より、あんたもカムアーチの貴族に邪険にされるのは嫌だろ?」
後ろの人と門番さんの話を聞きつつも、ゆっくり後方へ振り返ってみる。なんだか、こういうやりとりも過去に経験したものだ。
あれは確かカムアーチでフルコースのお店の前での出来事だったか。振り返ってみれば、あの時と同じように若い男の人が二人のメイドを連れてこちらへ歩いてきてる。
――なんだか、ちょっとドキドキする。まさか、こんなところで再会するとは思わなかった。
「よっ、久しぶりだな。俺はずっと会いたかったんだぜ? ……ミラリア」
「シ、シード卿……?」
【ゲェ……!? キザ貴族……!?】
ここで再登場するのは、ミラリアに惚れたカムアーチの貴族シード。




