その女海賊、最後の悪あがき
ロードレオ海賊団船長レオパル。ここに来てまさかまさかの悪あがき!
「じ、自爆スイッチ!? まさかこの船、爆発するの!?」
「ニャーハハハ! ミラリアちゃんに長耳ちゃん! どうか天国でウチと一緒に仲良うなろやぁあ!」
【アホか!? なんでお前の心中に付き合わなきゃいけないんだ!? 一人で地獄に堕ちてろ!】
レオパルさんの行動には毎度の如く驚かされるけど、今回ばかりは冗談じゃない。
まさか、私とトトネちゃんが自分のものにならないからって、一緒に船ごと爆発して死のうってこと? そんなの嫌すぎる。
これにはツギル兄ちゃん共々大ブーイング。そもそも、レオパルさんは天国へ行けない気がする。
「お、お願いです! 私、まだ死にたくありません!」
「レオパルさん! 今すぐ自爆を止めて! 私もこんな結末は嫌!」
「ニャーハハハ! 無駄や無駄や! もう自爆スイッチは押してもうたし、あと数秒で船ごとドッカーンやぁああ! ニャッハハハー!」
「く、狂ってる……!?」
トトネちゃんと一緒にレオパルさんへ願い出るも、まるで聞き入れてもらえない。焦点の合わない眼で笑い、元々狂ってた頭がさらに狂っちゃったみたい。
こんなことをして何の意味があるのか分からない、きっと本人でさえ理解できてない。狂気を孕んで病んだ笑い声を上げるばかりだ。
「と、とにかく海へ逃げる! あなた達も急い――」
「レオパル様~!」
「私達も一緒するし~!」
「どこまでお供します!」
「レオパル様がいない世界なんて……嫌!」
「よし! 私達だけで逃げよう!」
【賢明な判断だ!】
一応はレオパルさんの取り巻きへ声をかけるもダメみたい。さらに狂ったレオパルさんへすがりつき、泣きながら一緒の道を歩もうとしてる。
もうこれは仕方ない。本当に仕方ない。見捨てる形になるけど、ここまで毒された時点で引き返せない。
――さよなら、みんな。そして……ごめんなさい。
「トトネちゃん! 掴まって! 転移魔法でできる限り遠くの海に!」
ヒュン――ザブゥウン!
「プハァ! ここまで来れば大丈夫ですか!?」
【まだ分からん! とにかく、少しでも遠くへ泳ぐんだ! 時間もないぞ!】
心の中で手っ取り早く別れを告げると、こっちはトトネちゃんと一緒に転移魔法で海の上へ。もう急いで逃げるしかない。
カミヤスさんがいないから、トトネちゃんは水中で息を続けられない。それでもなるべく遠くへ泳いで逃げ、爆発に巻き込まれないことだけ考える。
どこまで逃げればいいのか分からないけど、もうじき船の爆発が――
ヒュ~~……パァァアン!
「……すみません。空に打ち上がったあれが自爆なのでしょうか?」
「……ううん、違う。あれは……花火?」
【船……全然爆発してないぞ?】
――始まると思ったのに、聞こえてきたのは気の抜けるような音。そして、思わず振り返って確認したくなる光景。
夜空に浮かぶのは、さっきまでいた船から打ち上げられた花火。こんな状況だけど、とても綺麗。
肝心の船についても自爆などしておらず、何一つ問題はない。
ディストール王城での光景が軽く脳裏へ蘇ってたのに、あまりに拍子抜けする光景だ。どうして爆発じゃなくて花火が打ち上がったの?
「ニャーハハハ! マイスイートキャッツがおるのに、船を自爆させるわけあらへんやろ!? これは散々やられたウチからミラリアちゃん達への最後の仕返しサプライズや! ありえへん自爆にビビるとかアホちゃうか!? バーカ! アーホ!」
「キャ~! レオパル様~!」
「やっぱり、私達のことを考えてくれてたし~!」
「……なんかムカつく」
どうやら、最後の最後で一杯食わされたみたい。自爆なんてのは嘘で、最初から花火を打ち上げて脅かすのが目的だったみたい。
あの狂気的な笑みにしても演技だったらしく、レオパルさんはいつもの調子に戻って離れた船の上からこちらを嘲笑ってくる。普段から狂気的だから完全に騙された。
――何より腹が立つ。こんなことなら、最後にもう一回斬っとけばよかった。
「せやけど……ミラリアちゃん! ウチはまだ諦めへんでぇえ! 今回は勝ちを譲ったが、次こそは必ずミラリアちゃんをウチのモンにしたる! ミラリアちゃんが加わってこそ、真のニャンニャンパラダイスが完成するんや! 首洗って待っとけやぁあ!」
「負けたくせに、よくあそこまで大口を叩ける……」
「あの……今はもういいんじゃないでしょうか? 私としても、早くイルフ人のみんなのもとへ帰りたいです……」
【……だな。色々とムカつくが、もう放っておくしかない。丁度、箱舟もこっちを見つけてくれたみたいだ】
レオパルさんを倒してトトネちゃんも取り返したのに、最後で微妙に負けた気分。海に浮かびながらもプンプンで体が熱くなってくる。
まあ、もうどうでもいいや。ロードレオ海賊団の相手をしてると、余計な労力ばかりかさばってしまう。
花火のおかげなのか、箱舟もこっちへ向かってくれてる。今は無事に帰れたことだけ喜ぼう。
「あの……ミラリアお姉ちゃん。色々ありましたが、助けてくれてありがとうございます」
「気にしないで。私はトトネちゃんのお姉ちゃん。お姉ちゃんは妹を助けるもの」
「フフフ。本当にミラリアお姉ちゃんが私のお姉ちゃんだったらよかったんですけどね~」
「ッ!? トトネちゃん!?」
海を漂って箱舟を待ってると、トトネちゃんも喜びからか私へギューッとしがみついてくる。
苦しくはない。むしろ心地よい。お姉ちゃん呼びも相まって、私の中に熱い感情が流れ込んでくる。
――これが『萌える』ということか。海の冷たさなんかよりずっと熱い。
「ぬぬっ!? ミラリアお姉ちゃん、沈んでません!?」
【おい!? もうちょっと踏ん張れよ!? ……気持ちは分からなくもないが】
ミラリアの敗因:萌えた




