その女海賊、泳げない
某有名海賊漫画と同じく、海賊とはそういうものだ! ……とは違う。
「……レオパルさん、生きてる?」
「ゼェ……ハァ……。ど、どないかな……」
【結局、ミラリアに繋がれたまま引き上げる羽目になったか。……海賊のくせに、なんで泳げないんだよ?】
あのまま水中戦になるか思われたものの、レオパルさんが盛大に溺れたので勝負は中断。流石に溺れて苦しんでるのはかわいそう。変態だけど。……変態であっても。
右足を掴まれたまま引き剥がさず、泳いで船の上まで戻ってきた。一応、生きてはいるみたい。
それにしても、私もツギル兄ちゃんと同意見だ。海賊って、海を縄張りにしてるんだよね? なのに泳げないとか、根本的におかしい。
「ウ、ウチやトラキロはサイボーグ化することで常人以上のパワーアップを可能としたが、そのせいか水に浮かへんようになってもうたんや……。多分、本来人間が持ってる皮膚や内臓が生んでた浮力が、ウチらには適用されへん……」
「よく分かんないけど『サイボーグは泳げない』ってこと? ……だったら、海賊辞めたら?」
「そ、そうはいかへん……。ウ、ウチのニャンニャンパラダイスが……」
「……凄い執念」
どうやら、サイボーグというのもそこまで都合よくはいかないみたい。人間を超えたパワーアップ分のデメリットは付いてくるのか。
やっぱり、全部が全部おいしい話なんてないものだ。私も教訓としておこう。
――レオパルさんの執念についても一周回って凄い。参考にしたくないけど心得ておこう。
「ミラリアお姉ちゃん……終わりました?」
「あっ、トトネちゃん。うん、まあ……終わった。一応、私の勝ち」
「さ、流石です! なんだか凄い戦いの音だけは聞こえてました!」
「……うん。確かに凄い戦いだった」
何はともあれ、これで勝負はついた。トトネちゃんも無事だし、レオパルさんも倒して一件落着だ。
トラキロさんの『お灸を据えてほしい』ってお願いについては、レオパルさんを見る限り効果が薄い。まあ、これ以上は無理だ。トラキロさん、ごめんなさい。
「レ、レオパル様~!?」
「し、しっかりしてほしいし~!」
「ちょ、ちょっと!? レオパル様がやられたの!?」
「よ、よくも私達のレオパル様を……!」
「あなた達も相変わらず。……てか、増えてる」
【Aランクの二人以外にも乗ってたらしいしな……。つうか、全員レオパルの虜なのか……】
勝負が終わったことを聞きつけ、Aランクの二人を含むレオパルさんにメロメロな女性陣も駆け寄ってくる。
みんなして倒れ込んだレオパルさんの心配をし、私へ敵意の眼差しを向けてくる。実際に敵なのだから当然と言えば当然。
――なのに、この微妙に反論したい感情は何だろうか?
「よ、よすんや……ウチのかわいいスイートキャッツ……。ミラリアちゃんとは正々堂々とした勝負の末にウチが負けた……。ミラリアちゃんを責めるのはお門違いや……。い、言うなれば……これは戦いの中で育んだ強敵との友情……!」
「レ、レオパル様……!」
「流石はレオパル様! とっても痺れる憧れる~!」
「……だから、どこに?」
ただ、負けたレオパルさん自身が止めてくれて事なきを得た。それはそれで助かった。
でも、私とレオパルさんは友達じゃない。友達認定しないでほしい。私はレオパルさんの変態性を認めたくない。
「……もういいや。私達、帰る。トトネちゃん、行こ」
「そ、そうですね……。私も外の世界は初めてですが、この人には関わらない方がいい気がします……」
「それで正解。外の世界――特に海は危険がいっぱい。トトネちゃんも教訓にするべき」
もうここであれこれ語る意味もない。レオパルさんに毒された人達は別として、トトネちゃんだけでも早く連れて帰ろう。
これ以上はトトネちゃんも毒される危険がある。お姉ちゃんとして、トトネちゃんだけは守るべき。
【とはいえ、どうやって帰る? イルフ人の箱舟はまだ近くに見当たらないぞ?】
「あっ、そっか。……もしかして、ちょっと待つしかないの?」
「多分、長老様達も遠方から確認してるとは思います。それでも、少しは待つしかないでしょうね」
ただ、問題となるのはどうやって帰るかだ。状況なんて読めなかったし、そこまで考えてなかった。
まあ、トトネちゃんが待ってればいいと言うならば、待ってれば大丈夫だろう。イルフ人は目がいいし、ちょっとすれば見つけてくれるっぽい。
それまでこの船に残るのは癪だけど、もう少しだけお邪魔して――
「……ニャハハハ。そうか。ミラリアちゃん達はまだ、素直にお帰りとは行かへんのやな……!」
「ッ……!? レオパルさん、まだ何か考えてるの……!?」
【いい加減懲りろよ!? 頼むから!?】
――いようと思ってたら、レオパルさんがヨロヨロと立ち上がりながら不敵な笑みを浮かべてくる。
もうそんな状態で戦えるはずないし、私やトトネちゃんをどうにかできるとは思えない。なのに、この背筋が凍る感覚は何だろうか?
相手がレオパルさんだからこそ、まだまだ底の見えない何かを感じてしまう。
「ここでミラリアちゃんや長耳ちゃんをマイスイートキャッツに加えられへんぐらいなら、ウチかて手段は選ばへん……!」
「な、何……!? 今更になって、何をするつもり……!?」
【な、何か取り出したぞ……!? 以前に雪山地下で見た突起物にも似てるが……!?】
よろめきながらもレオパルさんは右手にポチポチしたものを持ってこちらへ向けてくる。
ライフルとかの武器には見えないけど、嫌な予感だけはビンビンする。アホ毛も思わずピリピリだ。
どこか『このまま逃がすぐらいなら……!』みたいな気迫も感じるけど――
「死なば諸共や! この自爆スイッチでニャンニャンパラダイス号ごと……ウチと一緒に沈んでくれやぁぁああ!!」
何てことしやがるんだぁぁああ!?




