その少女、いざ敵本船へ
内心、トラキロもレオパルには痛い目を見てもらいたいと考えてる。
私とツギル兄ちゃんで最後の船へ向かう方法を模索してると、助け舟を出してくれたのは意外にもトラキロさん。
私に負けはしたけれど、この人だってロードレオ海賊団の副船長。そう簡単に敵を助けていいのだろうか?
「まァ、オレもあの人の女好きと横暴には呆れてたからなァ。ぶっちゃけて言えば、ここでミラリアちゃんに灸を据えてもらうのも悪くねェ話とは思っててよォ」
「副船長がそこまで言うほど酷いんだ。これはトトネちゃんのことも心配。急ぎたい」
「今はまだ大丈夫だろうが……あんまり時間もかけねェ方がいいなァ。……それに送ると言っても、レオパル船長はミラリアちゃんのことも狙ってらァ。逆に捕まったら元も子もねェぞォ」
「……そう考えると、トラキロさんの言葉が罠に聞こえるような聞こえないような。ともかく、向かえるならばすぐにでも向かう。トラキロさん、お願い」
どうやら、トラキロさんとしてもロードレオ内部で思うところがあるらしい。私に負けたのは事実だし、いっそ最後まで辿り着いてくれた方が都合がいいっぽい。
正直『レオパルさんにお灸を据えたい』ってのが本音だと思うし、罠であっても関係ない。早速トラキロさんの言う方法とやらで、最後の船へ向かうとしよう。
「……よし。準備完了だァ。ほれ、ミラリアちゃん。ちょいとオレに担がれてくれェ」
「……担いで何する気?」
「決まってんだろォ。ミラリアちゃんを船長の船まで投げ飛ばすんだァ」
ただ、その方法については異議を申し立てたい。私を遠くの船まで投げ飛ばすって、どうすればそんな手段に行きつくの?
いつの間にかトラキロさんの右腕も元の腕に戻ってるし、肩を回して私を投げ飛ばす気満々。そんなことより説明を求める。
「レオパル船長の船には、下っ端どころかオレでさえも迂闊に近寄れねェ。お楽しみタイムの邪魔をしたら、盛大にどやされるもんでなァ」
「『ご飯を持ってきました』とかで忍び込むのもダメ?」
「それができればいいんだが、どういうわけかヤカタとネモトっていうロードレオの料理長が騒動を起こしててなァ。飯を運ぶとかそんな話も持ち出せねェんだよォ」
「……そう。それは大変」
とりあえずの理由として、同じロードレオ海賊団でも迂闊にレオパルさんの船へは近づけないとのこと。ご飯の理由を付けて忍び込もうにも、そのご飯を作る料理長の二人がドタバタしてて上手くいかないらしい。
ヤカタさんとネモトさんの件については、私も盛大に関わってる。あの二人、無事なのかな?
「ヤカタさんとネモトさんだけど、あんまり怒らないであげて。あの二人は誇り高い料理人。ロードレオ海賊団に必要な人達」
「まァ、広い海を回っても、あの二人ほどの料理人はいねェからなァ。下手に切り離す真似はしたくねェ。オレも詳しく話を聞いてから判断するかァ。……って、なんでミラリアちゃんが二人を知ってんだァ?」
「そこは気にしないで。お料理とご飯で繋がった友情とだけ理解して」
「……全然分からねェが、どっちみち後の話だァ。ほれ、とにかくオレに担がれなァ」
「……『投げ飛ばす』って移動手段は変わらないんだ」
少しだけヤカタさんとネモトさんのことで口を挟みつつも、結局のところ移動手段は変わらない。ダメージが回復してないトラキロさんだけど、右腕が戻れば私を投げ飛ばすこと自体は造作もないらしい。
待ってほしいとも思うけど、待ってられる状況でもない。無茶苦茶だけど、今はトラキロさんを信じよう。
――レオパルさんにお灸を据える役目も託されたし。
「それじゃァ……後はそっちに任せたぜェェエエ!!」
ブオォォオンッ!!
「本当にどこまでもとんでもないパワー。私、鳥になったみたい」
【デタラメもここまで来ると清々しいな。とはいえ、確かに船へは飛べてるし、着地ぐらいならなんとかなるか】
そんなこんなで、海の中を潜ったりしたと思ったら、今度はしばし空の旅。投げ飛ばされただけだけど。
ただ、方角と距離は完璧。パワーだけでなく、見事なコントロールだ。
レオパルさんの船へどんどん近づいていくし、後は着地だけどうにかすればいい。そこについても、魔剣の魔法があればどうとでもなる。
「そろそろかな? 揚力魔法陣展開。ブレーキ発動」
ある程度近づいて来れば、揚力魔法を使って速度を落とす。投げ飛ばされた勢いも殺し、高度も上手く落としていく。
そして問題なく着地。船長の船というだけのことはあり、他の船より大きい。後、装飾が豪華。
「むう? 外には誰もいないのかな?」
【トラキロの話だと、この船はレオパルのお楽しみ用らしいからな。余計な邪魔も入れられたくないんだろう。……問題は中の様子か。レオパルが何をしているのやら】
船の外は静かなもので、他の船からも大きく離れてるからか、さっきまでの喧騒が嘘みたい。レオパルさん、よっぽど邪魔を入れられたくなかったぽい。
とはいえ、中の様子はまた別なのだろう。外には大きな扉があるだけで、他に入れそうな道はない。
「……中から声が聞こえる。レオパルさんやトトネちゃんも、きっとこの先」
【なら、どうする? 道は一つしかないし、裏から回り込むなんて真似もできないぞ?】
「こうなったら、正面から堂々と突撃する。敵も残りはレオパルさん一人だし、真っ向勝負で決着をつける」
【まあ、おあつらえ向きってやつか。だったら、下手に怯まず突撃しろ。レオパルの度肝を抜くようにかましてやれ】
ここが最後のステージだ。まどろっこしい真似はやめにしよう。
トトネちゃんを助け出すためにも、レオパルさんの撃破は必須。トラキロさんとの連戦で疲れるけど、弱音を吐いてもいられない。
――長かったけど、ようやくトトネちゃんまで届いたんだ。後は気持ちの力で乗り越える。
バッタァァアアン!!
「レオパルさん! 覚悟! トトネちゃんを返して!」
獅子奮迅の如く声を上げ、扉を勢いよく開いて中へと踏み入る。最終決戦に挑むだけの心構えも十分だ。
きっと、中では『お楽しみ』という名のレオパルさんの横暴が繰り広げられてる。でも、今回はパンティーを盗まれた時みたいに怖気ない。絶対にトトネちゃんを魔の手から救い出してみせる。
そんな気持ちを胸にレオパルさんを驚かせるぐらいの気迫で叫び、前方へ目を向けて見れば――
「レオパル様~! 新しい子なんかより~、私のことを可愛がってくださいよ~!」
「こっちもお願いしたいって感じ~!」
「ニャーハハハ! ホンマに可愛い子猫ちゃん達やで! そないに甘えた声を出さんでも、ウチの愛はマイスイートキャッツには等しく平等やで~!」
「……何これ?」
【……どういう状況だ?】
――レオパルさんが玉座に座り、左右のお姉さんに甘えられてる光景が飛び込んで来た。
久々の登場になるレオパルですが、こいつはれっきとした女です。




