その王子、本性を見せる
ミラリアの故郷エスカぺ村を襲った、忌まわしき元凶の王子。
本当に最悪の想像がそのまま当たってしまった。振り向いた先にいたのは、どこか邪悪笑みを浮かべたレパス王子と兵隊さん達。
デプトロイドを使ってエスカぺ村を滅茶苦茶にしたのは、想像通りディストール王国の仕業だった。
私の生まれ育った村にこんな真似をされれば、眼前の絶望も一気に怒りで塗り替えられる。
「なんで!? なんでこんなことするの!? エスカぺ村の人達、何か悪いことしたの!?」
「悪いことと言えば、エデン文明や楽園に関する情報をひた隠していたことだね」
「それは悪いことじゃない! レパス王子がワガママ言ってるだけ! エスカぺ村、関係ない!」
「……やれやれ。下手に思考を働かせてくれたものだ。ただおとなしく勇者ともてはやされていれば、僕も都合よく利用できたんだけどね?」
「り、利用って……?」
今目の前にいるのは私のよく知るレパス王子じゃない。でも、別人ってわけでもない。
これまで私に見せてた姿が紛い物で、今こうして見せてる姿こそが本物。そう言いたくなるような様相。
まるで虫か何かを見るような目で私を見つめながら、疑問に答えるように言葉を紡いでくる。
「君の剣技も実力も非常に魅力的で、おまけにエデン文明の鍵まで握っていた。だからこそ、僕は君をどうにか手元に置いておきたくてね。わざわざ父上に頼み、勇者の称号まで与えて丁重にもてなしたのさ」
「わ、私が勇者になったのも、全部レパス王子の用意したまやかし……?」
「当たり前じゃないか。身元不明でポッと出の人間なんかに、勇者の称号は簡単に渡しはしない。最初のブルホーンにしたって、君が出張らなければ十分に対処可能な話だった。そんな君を勇者と称してもてはやしたのも、全てはエデン文明を――強いては『楽園の力』を手に入れるため。君はそのための手駒に過ぎなかったのさ」
レパス王子にとって、私の存在は利用するだけの駒に過ぎなかった。
チヤホヤしていればおとなしく従ってくれて、都合のいい情報も握った馬鹿な子供。それがレパス王子が影で抱いていた私の印象。
きっとエスカぺ村に帰る算段だって、もっと早くにできてたんだ。なのに私を逃がしたくないから、わざと黙って機を伺っていたんだ。
スペリアス様が私に語った言葉の意味も、今なら理解できる。私は本当に大事なことが何も見えてなかった。
――その挙句、エスカぺ村をこんな目に遭わせてしまった。
「まさか、こんな村にエデン文明の鍵が眠っていたとはね。まあ、収穫は十分すぎるほどあった。この先の僕の計画を邪魔されたくもないし、用済みとなったこの村には消えてもらわないとね」
「それが楽園の力を手に入れるため……!? エスカぺ村を襲ってまでして、レパス王子は何をしたいの……!?」
「ミラリアの貧弱な脳みそでは理解できないだろうが、楽園の存在は世界を左右するほどだ。もしも実際に辿り着いてその技術が手に入れば、それこそ世界を支配できる力となる」
そうして私を手駒として楽園を目指したのも、全てはレパス王子の野望のため。私が求める幸せとは全然違う。
力に固執し、全てを支配する。自由なんてものはどこにもない。
もし本当にそうなれば、エスカぺ村のような悲劇は増え続けるばかりだ。
「楽園の力が手に入れば、ディストールはより屈強な国となる! そのためならば、僕はどんな手を使ってでも辿り着いてみせる! 馬鹿な勇者も愚かな聖女も、全ては僕の礎となればいいのさ! ハハハ!」
「聖女って……まさか、フューティ様も!?」
「今更君に他人の心配をする余裕なんてないだろう? 君の実力は分かっているが、所詮は世間知らずな子供の域を出ない。最新式のデプトロイドと王国の騎士団が揃えば、君を含むこんなチンケな村など簡単に滅ぼせる。……変に帰る気を起こさなければよかったのに、僕の手で操れないなら仕方ない。君もこの村と一緒に消えてもらおうか」
レパス王子の独りよがりは頭にくる。だけど、とても私では対抗できる状況にない。
周囲を囲むのはディストール王国の兵隊だけでなく、村全体を焼き払った大型デプトロイド軍団。こいつらにしても、レパス王子がその野望のために用意した手駒だったってことか。
こんなことなら、もっと早く素直になってればよかった。外の世界になんて出なきゃよかった。
私のことを心配してくれたフューティ様も見当たらない。私のせいでみんなを巻き込んでしまった。
――私の存在が、たくさんの人を犠牲にしてしまった。
「さあ、者ども! かかれ! 愚かな勇者ミラリアを始末しろぉお!」
憎悪さえも塗り直してしまう絶望。私の頭も真っ白になる。
もう嫌だ。何も考えられない。戦う気力も湧いてこない。
兵隊とデプトロイドが一斉にこちらを向き、レパス王子の号令で襲い掛かろうとしてくる。でも、私には何もできない。
――こんなことなら、冒険なんてしなきゃよかった。
ドゴォン! ドゴォォオンッ!
ズパァァアンッッ!!
「ッ!? 何事だ!? デプトロイドに何があった!? 整備不良だとでも言うのか!?」
完全に諦めてしまった私の耳に、突如爆音と斬撃音が響いてくる。だけど、兵隊やデプトロイドの攻撃じゃない。
目を凝らせば、むしろデプトロイドが次々と爆炎に巻かれて崩れ落ちていくのが見える。これって、誰かが戦ってくれてるってこと?
もしかして、ツギル兄ちゃん? いや、いくらツギル兄ちゃんでもここまで大規模な魔法は使えないし、斬撃に関してはツギル兄ちゃんは使えない。
だったら誰が? 誰がこの絶体絶命の状況で戦ってくれてるの? 誰かが私を助けようとしてくれてるの?
「……ようもここまでやってくれたものじゃ。ディストール王国とは、大層野蛮な国のようじゃのう」
その正体は、声と共に私の眼前に降り立ってくれる。腰には私と同じように刀を携え、銀髪をなびかせた魔女装束の姿。
そうだ、この人ならできる。ツギル兄ちゃんの魔法も私の剣術も、全てはこの人に教えてもらったものだ。
「流石にワシも堪忍袋の緒が切れたわい。住む村を焼き払われた上、娘にまで手を出されてはのう……!」
「ス、スペリアス様……!?」
娘を危機にさらされ、黙っている母親などいない。




