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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
258/503

◇ロードレオ海戦・前編Ⅲ

戦え! 敵同士だぞ!?

「どっちが気に入ったってのは……どういう意味?」

「言葉通りの意味でい。付き人のアホ毛ちゃんなら、レオパル船長の連れてきた娘っ子の好みも分かるはずでい」

「アッシらもロードレオ海賊団の料理長として、客人には最高のもてなしをしたいもんでねい。ここは忖度(そんたく)せず、ハッキリとどちらの料理を出すべきか選んでもらいましょうかねい」


 ついつい美味しいお料理に流されてたけど、思えばここってロードレオ海賊団の船内だった。敵陣のど真ん中だった。

 再度思考を戻して話を読み解くに、ヤカタさんとネモトさんの言う『客人』とはトトネちゃんのことなのだろう。そして、私は同じ巫女装束を着てるから『付き人』だと勘違いされた。

 この二人はトトネちゃんに出すお料理で揉めていたらしく、付き人だと勘違いした私に判断を求めてきた……と。

 多分、こんな感じ。でも、本当に合ってるのかな? つい不安になるぐらいには微妙な推測。


 ――そもそも、どうして攫ったトトネちゃんにこんな手厚いお料理で歓迎しようとしてるの? もうさっきからずっと意味分かんない。


「……ツギル兄ちゃん」

【……俺に聞くな。こんな状況、普通ならありえない。魔王軍と戦うよりありえない。なんで敵同士で認識できてないんだよ……】

「……どうすればいいの?」

【とりあえず……正直に選べばいいんじゃないか? 勘違いしてくれてるなら、騒ぎを起こすのも避けれるし……】


 この意味不明な状況、当然の如くツギル兄ちゃんも理解が追い付いてない。それで当然。私だって難儀してる。

 とはいえ、いきなり斬りかかるのも無礼。敵とはいえ、美味しいお料理も提供してくれたんだ。

 トトネちゃんにも出すつもりらしいし、ここは一度割り切ってお返事しよう。戦いとご飯は別々だ。


「むう~……悩ましい。トトネちゃんも生のお魚が食べたいとは言ってたけど……」

「てやんでい!? だったら、オッレの刺身で決まりかい!?」

「でも、いきなり生のお魚はインパクトが強すぎるかも。トトネちゃんは森に住んでるし、少し馴染み深い方が……」

「だったら、アッシのムニエルの方がいいってことですかねい?」

「そこもまた悩みどころ。火の通ったお魚なら、トトネちゃんも慣れ親しんでる。ここは新しい味わいも交えて……」


 とはいえ、お料理の判断自体も悩みどころ。トトネちゃんならどっちがいいかなんて、私にだって分からない。

 強いて言うなら、どっちも美味しいということ。両方出せばいいとも思えど、ヤカタさんとネモトさんは納得してくれそうにない。

 あくまで『どっちがより相応しいか?』という一点に着眼し、双方譲れない気迫を表情から感じる。これは本当に困ったものだ。


 ヤカタさんの刺身のように生で素材そのままの味わいも捨てがたく、ネモトさんのムニエルのように熱を加えた味わいも捨てがたい。

 この選択は過去最高に悩む。ゼロラージャさんとの戦い方より悩む。

 私としては、両方のいいところを選べればいいけど――




「……あっ、そうだ。ちょっと台所借りてもいい? 私、一つ思いついた」

「てやんでい? それは構わねえが……」

「何をするつもりですかねい?」




 ――それができそうな料理が私の脳裏に浮かんできた。試す価値はあると思う。

 出された料理もまだ全部食べ切れてないけど、まずはこっちを試してみたい。二人の料理長にもお願いし、巫女装束の袖をまくって準備にかかる。


「これがサンボマンボウの肉……白く透き通ってて綺麗。火はこのカチカチで出すの?」

「あ、ああ。使ってもらって構わねえが、曲がりなりにも客人の付き人に料理をしてもらうってのは……」

「船長から後で何か言われそうですねい。まあ、アッシらも客人が一番満足してもらえるのが一番ですし、しばらく見てますかねい」


 材料や台所の使い方も教えてもらい、やりたいことは十分可能。ヤカタさんもネモトさんも、手を出さずに見守ってくれる。


 私がやること自体は簡単。サンボマンボウの肉を網で挟み、浮かせながら火で炙るのみ。

 この時、肉の奥まで火が通りすぎないように気を付ける。焼くのは表面だけで、軽く焼き色がついたら完成だ。

 後は味付けとしてお塩を少々。二人の料理には負けるけど、何かしらのヒントになると思う。


「できた。二人も食べてみて」

「て、てやんでい……!? 表面はこんがりと香ばしく焼き上がってるのに、中身は刺身のような食感を維持してるでい……!?」

「熱を使わないでもなく、使い過ぎないでもない……! サンボマンボウの脂が内側に凝縮され、アッシとヤカタ料理長の料理をいいとこどりしたようですねい……!」


 みんなで一緒に食べてみれば、なかなかどうして悪くない。味付けについてはまだまだ改良の余地があるけど、思った通りの出来栄えだ。

 刺身の『生の味わい』とムニエルの『焼いた味わい』のハイブリッド。外はヤキヤキ、中はナマナマ。

 二人の反応も上々だ。


「これなら、トトネちゃんも満足すると思う。二人の料理の真ん中だから、親しみやすくも新鮮なはず」

「こ、これは目から鱗でい……! オッレとしたことが、刺身にこだわりすぎてたでい……!」

「アッシも同じくですねい。変に意地を張るのではなく、いいところを取り込んでこその料理ですねい」

「てやんでい。その通りでい。これからはお互いのいいところを認め合い、さらなる料理の発展に務めるでい」

「アッシこそ意地を張っててすみませんでしたねい。では早速、このアホ毛ちゃんの料理を参考にレシピを考察しますかねい」


 結果として、これで良かったんだと思う。ヤカタさんとネモトさんは固く握手を交わし、お互いのことを認め合っている。

 お料理にしたって、いがみ合ってばかりはいけない。お互いの良いところを認め合い、新しい可能性を見出すことも大事。

 まだ時間はかかるだろうけど、これでトトネちゃんも満足できるご飯ができそうだ。私も一安心。

 安心したらお腹も減ってきたし、残りのお料理を平らげ――




「ヤカタ料理長にネモト料理長! いつまでかかってるんでヤンスか!? そろそろ攫った少女の料理を出さないと、レオパル船長にどやされ――って!? お、お前は!? そのアホ毛と腰の剣は!?」




 ――ようと思ったんだけど、重大なことを忘れてた。ここって、ロードレオの海賊船の中だった。

あーもう、無茶苦茶だよ。

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