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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
256/503

◇ロードレオ海戦・前編

VS ロードレオ海賊団本隊


今回は相手の規模が規模だけに、こっそり潜入お邪魔します。

 箱舟から海へ飛び込み、トトネちゃんに教わった泳ぎで目指すのはロードレオ海賊団の海賊船軍団。

 あんなたくさんの船を相手になんかできないし、波の音に紛れながら静かに近くへと接近する。


「……まだバレてない? 顔出して大丈夫?」

【今はまだ大丈夫だ。とりあえず船の一隻には辿り着いたが、トトネちゃんはどこにいるんだろうな?】


 そうして泳いで接近し、どうにか海賊船の一つに手を付けられるところまでは来れた。アホ毛までしっかり海に潜ってたからバレてない。

 ただ、肝心のトトネちゃんがどの船に乗ってるのかも分からない。これって多分、一隻一隻見て回るしかないよね?


「まずはこの船を調べてみる。トトネちゃんがいればいいんだけど……」

【時間はかかるが、慎重に動くしかなさそうだな】


 夜の海って冷たいし、下手に浸かり続けると漬物にならなくても体温を奪われる。そういう意味でも、あんまり長々と泳いで捜索とはいかない。

 まずは一隻目の側面へ張り付き、ゆっくりと上の方へ上って探ってみる。こうやって慎重に行かないと見つかってしまい、交戦となればこっちが不利。

 敵は数も多いし、何より海の上。圧倒的アウェイな状況だからこそ、より一層の慎重さが求められる。




「……む、むう!? 船の中から、何やら美味しそうな匂いが……!?」

【お、おい。こんな時まで食い意地を張らすな】




 それでも食べ物の気配を感じ取ると、ついつい反応するのが私の性分。船の上には誰もいないみたいだけど、中から何やら気配がする。

 おまけにとっても美味しそうな気配。アホ毛の感度もビンビンだし、この中に絶対美味しい料理がある。私のアホ毛に狂いはない。


「……違う。今はダメ。ご飯よりトトネちゃん優先」

【……まあ、ミラリアにしてはよく耐えたな。気にはなるだろうが、食べに行こうとか考えるなよ? ここは敵陣だぞ?】

「もちろん。……でも、この匂いの先には行く必要がある。トトネちゃんもいるかもしれない。これは仕方のないこと」

【確かにそうなんだが、なんだか不安だ……】


 ただ、今はご飯の時間じゃない。どれだけお腹が空いていても、トトネちゃんを救出することが今の全て。

 お腹の虫が鳴りそうだけど、ここはグッと堪えて我慢。人の気配に気を付け物音を立てず、ゆっくりと船内へ入り込む。


 別にご飯を探してるわけじゃない。探してるのはトトネちゃん。

 頑張れ、私。ご飯は全部終わるまで我慢だ。


「この部屋からご飯の――誰かの気配を感じる」

【おい、一瞬また食い意地に意識が逸れてたぞ? まあ、誰かいるのは確かみたいだが……】

「ちょっとだけ中を見てみる。……見るのは中の様子でご飯じゃない」

【そうやって自分に言い聞かせないと、すぐにでも思考が逸れるのか……】


 とりあえずは怪しそうな部屋を見つけ、扉の前で一呼吸。幸い、ここまでは誰もいなかった。

 ついついご飯に意識が向かうし、ご飯の気配も扉の向こうからする。でも、目的を違えるわけにはいかない。

 この中には確実に誰かいるし、下手すれば交戦も避けられない。ともかく慎重に様子を伺い、落ち着いて対応を――




「てやんでい! だからオッレは言ってるだろがい! サンボマンボウの旨味を一番活かせるのは、刺身に決まってんだろうが!」

「ただ生のままとは、実に野蛮な考えですねい。相手は生魚に慣れてないわけですし、ここはアッシの提案する焼きサンボマンボウこそが最善ですねい」




 ――しようと思ったんだけど、少し開いた扉の先の声でちょっと気が抜けちゃう。

 覗いてみれば、二人の男の人が何かを言い争ってる。二人ともエプロンをしてるし、ロードレオ海賊団のコックさんなのかな?

 部屋自体も調理場みたいで、お鍋や包丁がいっぱい並んでる。海賊団にしてはかなりの設備だ。基準、よく知らないけど。


「……あの人達、何を揉めてるの?」

【いや、俺にも分からん。ただ、まな板の上に魚が見えるな。あれが関係してるのか?】


 見張りとか戦いを予想してたのに、お料理の場面に出くわすとは予想外。コックさん二人は言い争ってこそいるけど、別に乱暴な気配はない。

 むしろ、拍子抜けするぐらいに平和とも言える。ここまで意気込み勇んで来たのに、私の気合を返してほしい。


「てやんでい! ネモト料理長はなんでも火を通せばいいと思ってて、素材そのものの味が活かせてないでい!」

「それは心外ですねい、ヤカタ料理長。素材にひと手間加えてこその料理人ってもんでしょう? なんでもかんでも、そのままがいいとは言えませんねい」

「後、前から思ってたんだが、なんでロードレオ海賊団は料理長が二人もいるんでい!? だからこうして口論になるんでい! てやんでい!」

「そこについてはアッシも同意ですねい。レオパル船長にも進言し、どっちが上かハッキリさせたいですねい」


 とはいえ、向こうが私に気付いてないのは行幸。口喧嘩のせいでそれどころとは言えない模様。

 話を聞いていくと『てやんでい』なヤカタさんと『ですねい』なネモトさんはロードレオの料理長らしい。料理長なのに何故か二人いるけど。

 そして、お互いに料理の方針が合わずに言い争ってるみたい。当人の間では重大なんだろうけど、私としてはどうでもいい。

 トトネちゃんもいないみたいだし、この場所は外れっぽい。


「……それにしても、やっぱりお料理が気になる」


 強いて言うならば、あの二人がどんな料理を作るのかってこと。まな板の上に変わったお魚が置かれてるし、あれをどう料理するのかが議題なのだろう。


 ――気になる。凄く気になる。気になるし食べたい。


 でも、ここは頑張り時。ご飯の誘惑に打ち勝ち、別の場所へトトネちゃんを探しに――




 クキュルルル~~!



「……あっ。お腹の虫さんが」

「て、てやんでい!? 誰かいるんでい!?」

「調理中、この船への立ち入りは禁止なんですがねい……!」




 ――行こうとしたら、お腹の虫さんが鳴ってしまった。言い争ってた二人にも聞こえるぐらいの音量で。

何やってんだ、こいつら?

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