その緑、裏側を語る
「キャプテン・サラダバー」って、名前が長いんだよ。もう「緑」でいいだろ。
「……むう? 一緒に捕まってたのなら、どうしてあなただけ出てこれたの? トトネちゃんは一緒じゃなかったの?」
「トトネちゃんというのは、もしや耳が長くて紅白の衣装を着た少女のことかい? ……まあ、そのことはこっちに来れば分かる。カモン、ヘルシー」
私と離れ離れになった後、ノムーラさんもSランクパーティーに捕まってたことは分かった。でも、それだと妙な話も出てくる。
攫われた人は近くの倉庫にいるらしいけど、そんな簡単に抜け出せるものなのかな? 閉じ込められてたんじゃなかったの?
そんな疑問については、何やら理由があるらしい。ノムーラさんも手招きしてくれるし、一度おとなしくついて行くのが一番か。
【な、なあ。あの全身緑のヘンテコな人間は何者だい? 言う通りにして大丈夫なのやい?】
「大丈夫。あの人は役にハマりすぎて全身緑な衣装の痛い変なだけで、悪い人じゃない。トトネちゃんが捕まってる場所も知ってるっぽいし、今はついて行くのが一番」
【オ、オイラとしては、あまりに異質過ぎてさっきの四人より不気味なんだが……? 人間ってのは、あんなにおかしな格好をするもんなのやい?】
「あの人が特別変なだけ。……自分で言いたくないけど、私よりよっぽど変」
ただ、ノムーラさんと初対面のカミヤスさんは警戒心マシマシ。正直、仕方ないと思う。
ノムーラさんって、私から見てもおかしくてヘルシー。そもそも『ヘルシー』を連呼する時点で変人確定。
ただでさえ外の世界の人間に慣れてないのに、ノムーラさんはあらゆるインパクトが強すぎる。
【お前だってあんまり人間と関わらない方がいいなら、ここから先は俺達に任せておけ。近くにイルフ人達の乗った箱舟もあるし、先に戻って長老様へ連絡してもくれないか?】
【は、箱舟を動かしたのか!? トトネ様のためとはいえ、長老様も思い切ったもんだい。……どうやら、お前達兄妹のことも信用されてるみたいだし、ここはオイラも下がった方が良さそうだ。トトネ様のことは任せるやい】
そんなわけで、カミヤスさんには先に戻っていてもらおう。Sランクパーティーも完全にダウンしたし、また襲われる心配はない。
カミヤスさんも私達を信用してくれてるし、ここは責任をもってトトネちゃんの方を任されよう。ノムーラさんがいる中でカミヤスさんも一緒というのも都合が悪い。
「俺を含めて三人があの四人組に捕らえられていてね。三人とも、この倉庫の中に収穫されたキャベツの如く押し込められていたのさ」
「それは分かった。なら、早く中に入る。トトネちゃんをすぐにでも助けたい」
カミヤスさんはタケトンボの姿で場を離れ、残ったのはノムーラさんと私にツギル兄ちゃん。そして、Sランクパーティーも言ってた倉庫の中には捕らえられた人達がいる模様。
早速とばかりにノムーラさんが外から鍵を開けて扉を開け、中へ入ってみると――
「ふえっ!? な、何これ!? 壁に大きな穴が!?」
【う、海へ続いてるのか!? 元からあった穴じゃないよな!?】
――どういうわけか、倉庫の中には大きな穴が開いていた。近くの海が見えるし、これでは捕らえてるとは言えない。
その気になれば逃げ出せそうで、ノムーラさんもここから出てきたと見える。助けに入ってくれた理由は納得したけど、こんな穴がある意味が分からない。
「実は君が外で戦い始めた頃、別の連中がこの倉庫へ海から船ごと押し入ってきてね。あろうことか、一緒に囚われていた耳の長い少女を連れ去ってしまったんだ……。俺ではとても歯が立ちそうにない人数だったし、歯痒くも見ているだけしかできなかった……。バッド、ヘルシー!」
「えっ……!? トトネちゃんが……別の人に攫われたの……!?」
その理由についてもノムーラさんは語ってくれるけど、さらに最悪な事実まで突き付けられる。
せっかく助け出せると思ったトトネちゃんだけど、なんと今度は別の人に攫われてしまったらしい。まさか、誘拐された先でさらに誘拐されるとは予想外だ。
倉庫の穴についてもトトネちゃんを攫った連中の仕業であり、しかもかなりの人数がいるとのこと。私達が戦ってるどさくさに紛れ、まさに漁夫の利を得た一団がいたなんて。
「ノムーラさん! そのトトネちゃんを攫った人達、何者なの!? トトネちゃん、どこへ行ったの!?」
「お、落ち着きたまえ! クールダウン、ヘルシー! ……俺も何が何だか分からず、とりあえずどさくさに紛れて君へ加勢することしか思いつかなかった。新しく出てきた人攫いの連中にしても、俺には地中に眠る芋の大きさの如く理解できない……」
ともかく、落ち着いてなんていられない。ノムーラさんの体へしがみつき、事の真相を聞き出さないと気が済まない。
だけど、攫った相手が誰なのか分からない。トトネちゃんだって、今どこにいるのかも分からない。
ようやくと思ったのに、まさかこんなことになるなんて。
「……連中の正体なら俺が知ってる。アホ毛のお前だって知ってるはずだ」
「ふえ? だ、誰かいるの?」
動揺してどうすればいいのか困惑してると、倉庫の奥から誰か別の声が聞こえてくる。
男の人の声だけど、いったい誰だろう? とりあえず、敵意はなさそう。
「ああ、そうだった。俺と長耳の少女の他に、もう一人捕らえられてた男がいてね。さっきの四人と同じ冒険者らしいが、同じ冒険者同士でも容赦がないのはノット、ヘルシー」
「こいつ、本当に『ヘルシー』を言わねえと気が済まないのか? つうか、全身緑男。お前もそのアホ毛剣士の知り合いだったのか。……本当にとんだ奇縁の巡り合わせだな」
「むう? 巡り合わせ?」
そういえば、ここに捕らえられてるのは三人なんだっけ。さらに攫われたトトネちゃんの他にノムーラさんときて、もう一人いたんだった。
振り向いてみれば、冒険者らしき装いの男の人が一人。背中には豪華な装飾の槍を背負ってるのが見える。
ただ、その語り口がどうも気になる。てか、私も何か頭に引っかかる。
なんだか、どこかで一度会ったような――
「ポートファイブ以来だな。あの時は俺の闇瘴を浄化してくれたのに礼も言えなかったが、ありがとうよ。まさか、こんなタイミングで再会するとは思わなかったがな」
「……あっ!? あなた……ポートファイブで会ったAランクパーティーのリーダーさん!?」
かなり久々に登場するのは、かつてミラリアともいざこざがあったAランクの冒険者。




