◆代理霊兵デプトカミヤス
VS 代理霊兵デプトカミヤス
本来助けるべき相手が、脅しのもとに牙を剥く。
【く、くっそぉぉお! オイラだって本意じゃないのに……本意じゃないのにぃぃいい!!】
「カ、カミヤスさん!?」
【マ、マズいぞ!? あいつ、本気でこっちを潰すつもりだ!】
私だってこんな戦いはしたくない。でも、カミヤスさんの立場からすると戦う以外に選択肢がない。
あの人にとってはトトネちゃんが一番大事。トトネちゃんを守るためならば、イルフ人でもない私達のことならば敵に回す。
――事前にどれだけお話してても関係ない。巨大な鉄人形の姿のまま、両腕をこちらに振り下ろしてくる。
ドッゴオォオンッ!!
「ふ、ふえ!? す、凄いパワー! 体が大きくなっただけじゃない!」
【カミヤス! 落ち着いてくれ! 俺達はあんたを助けに来たんだ! 戦いたくはない!】
【んなこと、オイラだって分かってるやい! で、でも、トトネ様を守るためには……こうするしかないんだぁぁあい!!】
カミヤスさんの本意など関係なく、ここで戦わないとトトネちゃんが危ない。Sランクパーティーの四人は高所からニヤつきながら様子を伺ってるし、下手にカミヤスさんが手を緩めればいつでもトトネちゃんに危害を加えるつもりなのが見て取れる。
おそらくは近くの倉庫に捕らえられてるんだろうけど、相手の目を掻い潜ってそこへ辿り着くのも厳しい。こっちも逃げて回避ばかりとはいかない。
――不本意でも襲い掛かるデプトロイド型カミヤスさんは強い。気を抜けば本当にやられてしまう。
「ッ……! カミヤスさん! ごめんなさい! 私だって、やられるわけにはいかない! ……反衝理閃!!」
ガンッ――ズパァァアンッッ!!
【うぐっ!? 鉄で組み上げたオイラの体を……!?】
今の私にできることなんて、不本意ながらカミヤスさんの相手をするのみ。Sランクパーティーの思惑に乗るのは癪だけど、今のカミヤスさんは手加減してどうにかなる相手じゃない。
私も魔王軍との戦いを経て、理刀流の技に磨きがかかってる。これだけ大きな鉄の巨人が相手でも、技を繰り出すタイミングを見切れるようになった。
即座に魔剣を鞘ごと眼前へ構え、鉄の拳を受け止めての反衝理閃。カウンターのエネルギーを全部カミヤスさんへぶつけ返し、その鉄でできた肉体を両断。
カミヤスさんには悪いけど、今は倒れてもらうしか――
「おい、精霊。まさか、これで終わりじゃないだろうね? 君の主がどうなってもいいのかい?」
【ッ!? ま、まだだ! オイラはまだ戦える!】
――ないんだけど、これで終わりとはならなかった。リーダーさんの言葉に脅され、カミヤスさんはさらなる手に打って出てくる。
両断された肉体をガチャガチャとくっつけ直し、再び人の姿へ修正。予想はしてたけど、カミヤスさんをただ斬るだけでは大きなダメージにならない。
元々のタケトンボの姿にしてもただ宿ってるだけ。その気になれば、どんなものにでも憑依できるのがカミヤスさんというツクモの真髄。
――純粋な斬撃だけでは倒せない。カミヤスさんの魂という本体を捉えることなどできない。
「カミヤスさん! もう止めて! 私、あなたと戦いたくない!」
【オ、オイラだって……こんな戦い認められないやい……! トトネ様だって、お前のことは気に入ってたんだい……! 傷つけたくないやい……! それらを全部知っても、今のオイラが戦わないと……トトネ様が……!】
【カミヤス……!】
一応、打開策がないわけじゃない。魔剣で魔法効果を付与すれば、カミヤスさんの魂ごと肉体を斬り刻むことだってできる。
だけど、私の目的はカミヤスさんに勝つことじゃない。そんなことは相手であるカミヤスさん自身も理解してる。
どっちも目的はトトネちゃんの救出。そんなお互いが戦わないとトトネちゃんが危ないなんて、無情な因果も極まってる。
「さあ、精霊! 早くそのアホ毛小娘を始末しろ! 僕の期待を裏切れば、その瞬間に君の主は最期を迎えることになるぞ!?」
【ぐ、ぐうぅ……許せ! アホ毛剣客! オイラにはこうするしか……道はないんだぁぁああい!!】
ガチャン! ガチャン! ガチャン!
「ふ、ふえっ!? さ、さらに大きくなった!?」
【あいつ、まだ周囲の金属と合体できるのか!? ここまで大きくなると、もうドラゴンか何かだぞ……!?】
そして、リーダーさんに因果も情も関係ない。ただただ無情に脅しの言葉を投げかけ、カミヤスさんへさらなる戦闘を求めてくる。
カミヤスさん自身もその言葉に従うしかない。ツクモとしての能力をさらに行使し、周囲の鉄くずをさらに取り込んでいく。
そうして組み立てられた姿は、最早人の形とも違う。顔には大きな口と牙が出来上がり、背中には広がる翼。後ろからは尻尾も生えてる。
私もタタラエッジで見た魔王軍のドラゴンの姿。サイズもさっき以上で、大きさまで再現している。
集まりに集まった鉄を組み上げた肉体は、それだけで圧倒的な威圧感を伴ってる。私も見上げて少し後ずさりしてしまう。
――こんな相手と戦う事実と戦いたくない想いがせめぎ合い、草履を履いた足元を震わせてくる。
【く、くそぉ……! オ、オイラには……オイラにはぁぁああ!!】
「ッ!? やるしか……ないの!?」
【今はとにかく集中しろ! ミラリア自身も守ることに徹するんだ!】
ジリジリと草履を滑らせ後ろに下がってしまうも、私だってこのままやられるわけにはいかない。
魔剣のツギル兄ちゃんに手を当てながらその声を聞き、必死に鉄のドラゴンとなったカミヤスさんへと身構える。
やろうと思えば、私の剣技で斬り刻むことはできる。でも、それでカミヤスさんにもしものことがあったらダメ。
私はこの人だって助けるためにここまで来たのに――
ジャカジャカジャン、ジャッジャ~ン! ジャカジャカジャン、ジャッジャ~ン!
――そんな窮地の中、どこからともなく軽快でポップなメロディーが流れてきた。
こ、この場違いなメロディーラインは……!?




