その守護者、肉体を変異させられる
これこそ、ツクモと呼ばれる種族――カミヤスの能力。
「ッ!? リーダー! そこの物陰に誰かいるみたいよ!」
「ああ!? あのアホ毛はまさか!? またあんたなの!? 隠れてるみたいだけど、憎らしいアホ毛が飛び出してるわよ!」
「ふえっ!? 見つかった!?」
ついついカミヤスさんの変貌した姿に驚き、声を上げたのがマズかった。体は隠れてたけどアホ毛は飛び出してたらしく、そのせいでヒーラーさんとウィザードさんに見つかってしまう。
こうなっては隠れる意味がない。降参はしないけど、おとなしく姿は見せよう。
――何より、私もしっかりとカミヤスさんの姿を確認したい。
【お、お前!? まさか、オイラ達を追ってここまで来たのか!?】
「私はトトネちゃんのお姉ちゃん。妹を見捨てるような真似はしない。カミヤスさんだって助ける」
【くうぅ……泣けることを言うアホ毛だい! ただ、今この場面で見つかったのはマズいかもな……】
「そうかもしれないけど、気になることもある。カミヤスさんのその姿……どうなってるの? デプトロイドみたいにゴツゴツしてるけど?」
カミヤスさんも私に気付き、視線をこちらへ向けてくる。――そう。『視線が向いてる』って分かるような姿を今のカミヤスさんはしてる。
これまでのタケトンボに宿った姿じゃない。全体的に人の形をしていて、顔だってついてる。
ただ『人間の肉体』ではない。周囲に散らかってる鉄といった廃材がくっつきあい、人の姿を形作ってるだけ。
そのどこか歪な姿は、エスカぺ村を襲ったデプトロイドに近い。サイズも大きくて、まるでゼロラージャさんを彷彿とさせる。
返事からカミヤスさんだって分かるけど、どうしてこんな姿をしてるの?
「どうやら、君もこの精霊の能力を見るのは初めてみたいだね。彼に肉体という概念は乏しく、周囲にあるものにならば何にでも乗り移れるらしい。試しにやらせてみたら、このように面白い姿をしてくれたよ」
「一緒に連れ去った少女が大事らしく、ちょっと脅せば素直に従ってくれたぜ。こいつは高く売れそうな奴を攫えたもんだ」
リーダーさんとタンクさんの言葉から察するに、これこそがカミヤスさんの『ツクモと呼ばれる種族』が持つ能力っぽい。思い返してみれば、ポートファイブでランさんもそんなことを言ってた気がする。
これまではタケトンボに宿ってただけで、乗り移ろうと思えば他のものにだって乗り移れる。ツギル兄ちゃんが魔剣へ宿ったのと同じく、ツクモという種族自体が魔法で憑依して肉体を維持してるっぽい。
カミヤスさんの場合、その対象も自由自在。他の部分をくっつけて、新たな肉体にすることもできるってことか。
「……あなた達、もう喋らないで。話を聞いてると、苛立ちが抑えられなくなってくる。こんなことをして何が楽しいの? カミヤスさんがかわいそうとか思わないの?」
「ああ、思わないね。彼は人間じゃないし、どちらかと言えば魔物のようなものだ。君だって、魔物相手に容赦も情けもかけないだろう? かの魔王とだって、戦って打ちのめしたそうじゃないか?」
「ゼロラージャさんとの戦いは決闘。生死を決めるのではなく、お互いで道を決めるため正々堂々と戦った。……すぐに逃げたあなた達が、知った口を利かないで。狩りにしても決闘にしても、戦いや命の中には意味がある。あなた達のやってることは、そんな命への冒涜。久しぶりに吐き気を覚えてきた」
とはいえ、今重要なのはカミヤスさんの能力に関する詳細じゃない。何より私を苛立たせるのは、そんなカミヤスさんの能力を遊びながら眺めてること。
ツクモという種族が精霊と呼ばれ、どういう経緯でこんな能力を持ってるのかは関係ない。当人が望んでもいないのに能力を使わされるのを見て、とてもいい気なんてしない。
――この怒り、レパス王子の時を思い出す。この人達は私にとって、魔王軍なんかより人間じゃない。魔王軍の方がお話もできたし、分かり合える場面だってあった。
「これ以上の口論は無駄。私はあなた達を斬る。ハッキリ言って、そっちに勝ち目なんてない。私はあなた達よりずっと強い。……一人で四人とも相手してあげる。トトネちゃん達はその後解放する」
【ア、アホ毛のちびっ子……】
「フン、やはり僕らと君は相容れないか。こっちも商売があるし、そう何度も負けてるとSランクの沽券にかかわる。……手段は選ばないさ。君にも価値はありそうだったが、今この場で完全に息の根を止めてやろう」
「やってみれば? できもしないくせに」
正直、今でも内心の怒りですぐにでも斬りかかりたい。とはいえ、完全に怒り任せの剣技は不用意な隙を作る。
見立てでこっちが上だと分かっても、一応はSランクパーティー。冒険者の中では上位に位置する人達だ。
森で再会した時だって、罠で私をハメてきた。ああいうのは私も苦手だし、今はどうにか堪えるのが得策。カミヤスさんだっているし、下手に暴れれば巻き込んでしまう。
――でも、チャンスが来たらその時がSランクパーティーの最後。凶刃でも構わないから、もう二度と立ち上がれないぐらい斬り伏せる。
「おい、カミヤスだったか? お前があの小娘の相手をしろ。逆らえば、そこの倉庫にいる主と慕う少女がどうなるか……分かるよな?」
【なっ……!? オ、オイラに戦えってのかい!? そ、それは……だが……!?】
「カ、カミヤスさんと私を……!?」
ただ、リーダーさんがとってきた作戦は私も予想してなかった。全身を金属で構成してデプトロイドのようになったカミヤスさんを、私の相手として差し向けてくる。
おまけにトトネちゃんを人質に取り、カミヤスさんの心を抉るような真似までしてくる。そんなことを言われれば、いくらカミヤスさんでも心を揺らがさずにはいられない。事実、体の向きを私の方に向け始めてる。
カミヤスさんはトトネちゃんの守護者だ。私なんかより、トトネちゃんん方が大事で当然。
「おっ、いいな、それ。俺も精霊の力がどこまでのものか興味あるし」
「さあ、やっちゃいなさい! あんたの主が痛い目を見たくなかったらね!」
「これだけ頑丈で大きければ、あの奇妙な剣士の小娘でも一網打尽よ!」
それにしても、つくづく腹が立つ人々だ。やっぱり、レパス王子と被って見える。
そんな怒りがフツフツと煮えたぎっても、今は届かせることさえできない。自分達はガラクタの上へと避難し、私とカミヤスさんを向かい合わせて高みの見物を決め込み始める。
私だってこんな戦いは嫌。でも、もう止められそうにない。
――あくまで『トトネちゃんのため』にも、カミヤスさんは今にも私へ襲い掛かろうとしてくる。
【す、すまねえ……アホ毛のちびっ子。オイラにとっては……トトネ様の身が第一なんだぁぁああい!!】
望まない戦いまでさせられ、ミラリアの怒りは頂点へ。




