そのパーティー、まだ懲りない
いい加減しつこ過ぎるし、やってることはミラリアの逆鱗に触れる。
「むっ!? よく見ると、またアホ毛の小娘か!?」
「この少女と同じような服装に着替えてるな? どっちみち、俺らの邪魔が狙いか?」
「本当にしつこいわね! 服装からして、この耳の長い種族に肩入れしてるってこと!?」
「タタラエッジでもそうだったけど、人間のくせに魔王軍や異民族に肩入れするなって……ねえ?」
Sランクパーティーの方も私に気付いたらしく、四人揃って顔を向けてくる。
嫌味ったらしく言葉を飛ばしてくるけど、もう何を言われても関係ない。
「ミ、ミラリアお姉ちゃん! 助けて!」
【オ、オイラのことは構わない! トトネ様だけでも頼む!】
「お、おい! トトネちゃんとカミヤスが捕まってるぞ!?」
「だが、どうする!? 里中に火の手が上がってるし、避難もしないと……!?」
今もトトネちゃんとカミヤスさんは捕らえられたままだし、里だって燃え盛ってて大混乱。こんなことをしでかして、よくも平然と語れるものだ。
私のことを『人間のくせに人間の味方をしない』とか言ってるけど、こっちからすればお門違いも甚だしい。
――Sランクパーティーの方こそ人間じゃない。人間の心がない。
「トトネちゃん、カミヤスさん。少しだけ待ってて。私が必ず助け出す……!」
「チィ、また鉢合わせになるのは想定外だったか。……まあ、こちらにも収穫はあったんだ。後はこの森がどうなろうと知ったことではないし、連中からもらったアレを使わせてもらうか」
「お? 爆弾よりもヤバいアレか。もう逃げるだけだし、すばしっこい小娘を撒くには最適か」
私が居合の構えをして睨みつけても、Sランクパーティーはどこか余裕そう。これまでの実力差が理解できてないのかな?
向こうは少し離れた高台にいるけど、この程度の距離なら私にとっては造作もない。魔剣の魔法と縮地の合わせ技で一瞬にして詰められる。
もう容赦する気もないし、さっさと片付けてトトネちゃん達を――
「後はこの瓶の中身に任せるだけさ! 全員! この場から離れるぞぉおお!!」
「ッ!? その瓶の中にある黒いのは……まさか!?」
――助け出すため動こうとするも、リーダーさんが手に持って掲げた瓶を見て思わず止まってしまう。
遠目になるけど、あの黒い中身は旅の中で何度も見てきた邪悪な力。ゼロラージャさんが言うには『神の苦痛』と呼ばれる全てを蝕む闇。
――間違いない。闇瘴だ。それをリーダーさんは地面へ叩きつけ、燃え盛る里の中へ飛散させてくる。
パリィン――グゴォォオオンッ!!
「な……なんてことをするの!? 里を火事にしただけでなく、闇瘴までばら撒いて……!?」
「こうすれば、いくら君でも簡単には追って来れないだろう? 長耳の少女と精霊だけでも確保したんだ。これにて失礼するよ!」
「ミ、ミラリアお姉ちゃん!」
「ま、待って! トトネちゃ――うぐぅ!? ほ、炎と闇瘴が……!?」
そのせいで、逃げるSランクパーティーを追うことさえできない。燃え盛る炎に闇瘴が混じり、壁となって遮ってくる。
トトネちゃんとカミヤスさんも連れ去られたままだし、すぐにでも追いかけたい。でも、簡単に追うこともこの場を放置することもできない。
あらかじめ逃走の段取りもしていたのか、逃げる手際もいい。瞬く間に炎と闇瘴の向こうへと、Sランクパーティー達の姿が消えてしまう。
「ミ、ミラリア!? 君は無事だったか!?」
「長老様! ト、トトネちゃんとカミヤスさんが攫われた! 追いたいけど、このままだと里が……!」
「くぅ!? 炎についてはまだ何とかなる! もうじき煙に引き寄せられた雨雲が集まり、この一帯へ降り注ぐだろう! だが、闇瘴はどうするべきか……!? 巫女であるトトネが攫われてしまっては……!?」
逃げ去る姿を目で追いつつも、里の方だって大変なままだ。長老様は無事だったらしく、私を見つけて駆け寄ってくれる。
大変な状況だけど、どうにか頭を回して状況の打破を考えてくれる。火事については以前にSランクパーティーが爆弾で燃やした時と同じく、森の力でいずれは消化できるとのこと。
ただ、問題は闇瘴の方だ。
「トトネはイルフの巫女として、闇瘴を浄化する術を身に着けている! だからこそ、これまで闇瘴の脅威にイルフ人が怯えることはなかった! なのに、そのトトネがいないとなると……!?」
「だったら、私がなんとかする! どんどん広がってるし、早くしないと大変! ツギル兄ちゃん!」
【ああ! 任せろ!】
やっぱり、トトネちゃんというか巫女さんには聖女だったフューティ姉ちゃんと同じ力が備わってたみたい。闇瘴を浄化できる力なんて、それこそ限られてくる。
ユーメイトさんの時みたいにマナの聖水を使いたいけど、拡散してるせいで量が足りない。ならば、ここはゼロラージャさんと同じような形で行こう。
魔剣に宿すは回復魔法の聖なる力。この力で斬り払えば、闇瘴を浄化することもできる。
だけど、これでも範囲が足りない。Sランクパーティーがばら撒いた闇瘴は、里全体へと広がっている。
――ならば進化させた理刀流の技を融合させ、有効範囲を拡大させるのみ。
「聖天理閃・霞!!」
この技自体は即席だけど、融合元となった技は事前に試してある。回復魔法を付与した魔剣を抜刀し、周囲に放つ聖なる斬撃は広がる霞の如し。
刃界理閃・煌による多数斬撃の距離延長。反衝理閃・周による全方位斬撃。
この二つを融合させて放つ聖天理閃・霞ならば、この里一帯を効果範囲とすることもできる。
魔剣の性能も向上してるし、威力だって調整した。里のみんなにはちょっとチクッとする程度で、何よりも闇瘴を消し斬ることを目的とした一閃。
――その目論見通り、広がっていた闇瘴は斬撃によって消し飛んでいく。
「お、おお……! 理刀流の技は私も聞いたことがあるが、これほどのものだったとは……! 雨雲も近づいてくるし、ひとまずどうにかなりそうだ」
「長老様、理刀流を知ってるの?」
「ああ、まあな。……その辺りも含めて、まずは君に話したいことだってある。トトネの件も含めてになるが、少し力も貸してほしい」
「任せて。私だって、このままでいいとは思ってない」
とりあえず、今できることはここまで。本当はすぐにでもトトネちゃんやカミヤスさんを追いたいけど、もうどこに行ったのかも分からない。
それに、長老様の言うことも気になる。理刀流も楽園の技らしいから、知っていてもおかしくはない。そこの話は聞いてみたい。
ただ、何より優先すべきは攫われた二人の救出。そのためならば、私はこの魔剣を振るい抜く。
――トトネちゃんやカミヤスさんを、フューティ姉ちゃんと同じ結末にはさせない。
波乱万丈イルフの里編。再び戦いの渦中へ。




