表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
246/503

その少女、萌えに燃える

ミラリアは萌えてるところですが――

「ミ、ミラリアさん? 大丈夫ですか? やっぱり、お姉ちゃんはダメですか?」

「……ううん。ダメじゃない。まずは呼び方だけでも認める」

「あ、ありがとうございます! ミラリアお姉ちゃん!」

「こ、これは……凄い破壊力……!」


 どうにか川から上がり、再びトトネちゃんの傍へヨロヨロとお座り。お姉ちゃんという言葉の破壊力、実に恐ろしい。

 あの時、フューティ姉ちゃんが暴走した理由が今になって分かる。私だって、今にもフューティ姉ちゃんのように暴走したい衝動に駆られる。


 ――でも、ここは我慢。下手に暴走すれば、今度はレオパルさんみたいになっちゃう。トトネちゃんを傷つけたくない。


「……よし。私もフューティ姉ちゃんのように、お姉ちゃんとしての自覚を持とう。頑張る。何を頑張るのか知らないけど」

【まあ、ミラリアも旅を通して成長はしてる。戦うこと以上に、一人の人間としてだ。そういった自覚を持てるなら、下手に俺も口を挟まないさ】

「じゃあ、まずはツギル兄ちゃんに『お姉ちゃんについて』をレクチャー願いたい。私のお兄ちゃんだから参考になる」

【俺に聞くな。こういうのは語るより経験だ。経験】

「むう……世知辛い」


 まあ、今はまだお姉ちゃんと呼ばれるだけ。でも『だけ』で終わらせたくない気持ちだってある。

 何をどうすればいいかは不明なままとはいえ、これからは私もお姉ちゃんの立場。フューティ姉ちゃんみたいな立派なお姉ちゃんになれるよう、心構えはしっかりしておこう。


 ただ、ツギル兄ちゃんはどこか突き放し気味。とはいえ、別に悪気は感じない。聞くより身をもって知れということか。

 こういった距離感もまた、お兄ちゃんお姉ちゃんには必要な要素なのだろう。多分。


「さてと、そろそろ戻りましょうか。お昼ご飯の時間ですし、長老様も色々と調べ終わってるかもしれません」

「確かに。泳ぎについてはまた練習するけど、長老様の方も気になる。何より、お腹空いた」

【絶対に食べることだけは忘れないんだよな。まあ、腹が減っては何とやらとは言うけど】


 トトネちゃんのお姉ちゃんとしての振る舞いについては、今後経験の中で学んでいこう。私自身、経験の中で痛かったり辛かったりしながらも成長してきた。

 それに、いつまでも泳ぎの練習とはいかない。やるべきことは他にもある。

 長老様のお話に、お昼ご飯に――




【……ん? あれ? 何やら、空に黒い煙が……?】

「むう? 本当。雲じゃないし、何の煙……?」

「ッ!? こ、この方角は……まさか!?」




 ――やるべきことを考えてると、頭上の穴から見える空に黒い煙が差し込んでくる。

 風で流れてきたらしく、どこか焦げ臭い。これって多分、何かが燃えてるってことだよね?


 ――トトネちゃんはいち早くそれに気づき、川へ飛び込んで里の方角へ泳ぎ始める。


「わ、私達も急ぐ! これ、ただ事じゃない!」

【あ、ああ! 何やら嫌な予感がする……!】


 一足遅れて、私もツギル兄ちゃんを携えて川へダイブ。今できる全速力で泳ぐものの、トトネちゃんの姿はもう見えなくなってる。

 それだけ急いでるってことだし、急ぐだけの理由がある。私の脳裏にも、かつての光景が否応なく焼き付いてくる。


 ――ディストール王国に焼かれたエスカぺ村の悲劇。その光景が蘇ってしまう。




「プハァ! トトネちゃん! ……ッ!? こ、これってやっぱり……!?」

【イルフの里が……燃えてる……!?】




 どうにか川を泳いで戻ってみれば、想像していた最悪の光景が広がっていた。森の木々を利用して作られたイルフの里が、轟々と燃え盛る炎に包まれてる。

 イルフ人も逃げ惑ってるし、トトネちゃんの姿も見えない。何から何まで不安と恐怖にしか映らない。


 ――エスカぺ村での悲劇が、またしても眼前で広がっている。私の足も思わずすくむ。


「ようやく見つけたぞ! あまり時間はかけられないし、適当な子供でも攫うんだ!」

「安心しな、リーダー! ついさっき見つけたこの少女とか、かなりいい値で売れそうだぜ!」

「い、いや! 放して! 助けて!」

「ッ!? ト、トトネちゃん! それに……あなた達は!?」


 川から上がって眼前の惨状に立ちすくむばかりだったけど、少し離れた位置から聞こえてきた声で我に返る。

 その方角へ目を向ければ、男二人に取り押さえられるトトネちゃんの姿。男二人に関しては耳が長くないし、イルフ人じゃない。でも、見覚えはある。


 ――人攫いを生業とするSランクパーティーのリーダーさんとタンクさんだ。


「リーダー! こっちも珍しい奴を捕らえたよ!」

「多分、この辺りに伝わる精霊ってこいつのことね。変な形で飛んでたけど、こいつはこいつでエステナ教団辺りに需要がありそうよ」

【だ、出せ! オイラをここから出せ! トトネ様だって放せぇぇえ!】

「カ、カミヤスさんまで……!?」


 さらにはヒーラーさんとウィザードさんの手により、タケトンボの姿をしたカミヤスさんまで捕らえられている。必死にもがいてるけど、檻に入れられてるせいで身動きも何もない。

 里に火をつけ、ここまで大惨事を起こしての誘拐。こんなの、見過ごせるはずがない。


「……あなた達、いい加減にして。私、もう怒った。今度こそ全力で立ち上がれないぐらい叩きのめす」

【……ああ、やってやれ、ミラリア。今回は加減も何も必要ない】


 エスカぺ村の悲劇と同じ光景を目にして怖気てもいられない。こんな勝手が許されていいはずがない。

 フューティ姉ちゃんを殺された時と同じく、今にも腰の魔剣を抜刀したくて仕方ない。凶刃でも何でも構わない。

 私だってトトネちゃんのお姉ちゃんだ。妹は絶対に助け出す。かつてツギル兄ちゃんがそうしてくれたように、今度は私が動く番だ。


 ――この人達のことは、謝ったって許さない。

このパーティー、とことん外道になっちゃったなー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ