その少女、萌えに燃える
ミラリアは萌えてるところですが――
「ミ、ミラリアさん? 大丈夫ですか? やっぱり、お姉ちゃんはダメですか?」
「……ううん。ダメじゃない。まずは呼び方だけでも認める」
「あ、ありがとうございます! ミラリアお姉ちゃん!」
「こ、これは……凄い破壊力……!」
どうにか川から上がり、再びトトネちゃんの傍へヨロヨロとお座り。お姉ちゃんという言葉の破壊力、実に恐ろしい。
あの時、フューティ姉ちゃんが暴走した理由が今になって分かる。私だって、今にもフューティ姉ちゃんのように暴走したい衝動に駆られる。
――でも、ここは我慢。下手に暴走すれば、今度はレオパルさんみたいになっちゃう。トトネちゃんを傷つけたくない。
「……よし。私もフューティ姉ちゃんのように、お姉ちゃんとしての自覚を持とう。頑張る。何を頑張るのか知らないけど」
【まあ、ミラリアも旅を通して成長はしてる。戦うこと以上に、一人の人間としてだ。そういった自覚を持てるなら、下手に俺も口を挟まないさ】
「じゃあ、まずはツギル兄ちゃんに『お姉ちゃんについて』をレクチャー願いたい。私のお兄ちゃんだから参考になる」
【俺に聞くな。こういうのは語るより経験だ。経験】
「むう……世知辛い」
まあ、今はまだお姉ちゃんと呼ばれるだけ。でも『だけ』で終わらせたくない気持ちだってある。
何をどうすればいいかは不明なままとはいえ、これからは私もお姉ちゃんの立場。フューティ姉ちゃんみたいな立派なお姉ちゃんになれるよう、心構えはしっかりしておこう。
ただ、ツギル兄ちゃんはどこか突き放し気味。とはいえ、別に悪気は感じない。聞くより身をもって知れということか。
こういった距離感もまた、お兄ちゃんお姉ちゃんには必要な要素なのだろう。多分。
「さてと、そろそろ戻りましょうか。お昼ご飯の時間ですし、長老様も色々と調べ終わってるかもしれません」
「確かに。泳ぎについてはまた練習するけど、長老様の方も気になる。何より、お腹空いた」
【絶対に食べることだけは忘れないんだよな。まあ、腹が減っては何とやらとは言うけど】
トトネちゃんのお姉ちゃんとしての振る舞いについては、今後経験の中で学んでいこう。私自身、経験の中で痛かったり辛かったりしながらも成長してきた。
それに、いつまでも泳ぎの練習とはいかない。やるべきことは他にもある。
長老様のお話に、お昼ご飯に――
【……ん? あれ? 何やら、空に黒い煙が……?】
「むう? 本当。雲じゃないし、何の煙……?」
「ッ!? こ、この方角は……まさか!?」
――やるべきことを考えてると、頭上の穴から見える空に黒い煙が差し込んでくる。
風で流れてきたらしく、どこか焦げ臭い。これって多分、何かが燃えてるってことだよね?
――トトネちゃんはいち早くそれに気づき、川へ飛び込んで里の方角へ泳ぎ始める。
「わ、私達も急ぐ! これ、ただ事じゃない!」
【あ、ああ! 何やら嫌な予感がする……!】
一足遅れて、私もツギル兄ちゃんを携えて川へダイブ。今できる全速力で泳ぐものの、トトネちゃんの姿はもう見えなくなってる。
それだけ急いでるってことだし、急ぐだけの理由がある。私の脳裏にも、かつての光景が否応なく焼き付いてくる。
――ディストール王国に焼かれたエスカぺ村の悲劇。その光景が蘇ってしまう。
「プハァ! トトネちゃん! ……ッ!? こ、これってやっぱり……!?」
【イルフの里が……燃えてる……!?】
どうにか川を泳いで戻ってみれば、想像していた最悪の光景が広がっていた。森の木々を利用して作られたイルフの里が、轟々と燃え盛る炎に包まれてる。
イルフ人も逃げ惑ってるし、トトネちゃんの姿も見えない。何から何まで不安と恐怖にしか映らない。
――エスカぺ村での悲劇が、またしても眼前で広がっている。私の足も思わずすくむ。
「ようやく見つけたぞ! あまり時間はかけられないし、適当な子供でも攫うんだ!」
「安心しな、リーダー! ついさっき見つけたこの少女とか、かなりいい値で売れそうだぜ!」
「い、いや! 放して! 助けて!」
「ッ!? ト、トトネちゃん! それに……あなた達は!?」
川から上がって眼前の惨状に立ちすくむばかりだったけど、少し離れた位置から聞こえてきた声で我に返る。
その方角へ目を向ければ、男二人に取り押さえられるトトネちゃんの姿。男二人に関しては耳が長くないし、イルフ人じゃない。でも、見覚えはある。
――人攫いを生業とするSランクパーティーのリーダーさんとタンクさんだ。
「リーダー! こっちも珍しい奴を捕らえたよ!」
「多分、この辺りに伝わる精霊ってこいつのことね。変な形で飛んでたけど、こいつはこいつでエステナ教団辺りに需要がありそうよ」
【だ、出せ! オイラをここから出せ! トトネ様だって放せぇぇえ!】
「カ、カミヤスさんまで……!?」
さらにはヒーラーさんとウィザードさんの手により、タケトンボの姿をしたカミヤスさんまで捕らえられている。必死にもがいてるけど、檻に入れられてるせいで身動きも何もない。
里に火をつけ、ここまで大惨事を起こしての誘拐。こんなの、見過ごせるはずがない。
「……あなた達、いい加減にして。私、もう怒った。今度こそ全力で立ち上がれないぐらい叩きのめす」
【……ああ、やってやれ、ミラリア。今回は加減も何も必要ない】
エスカぺ村の悲劇と同じ光景を目にして怖気てもいられない。こんな勝手が許されていいはずがない。
フューティ姉ちゃんを殺された時と同じく、今にも腰の魔剣を抜刀したくて仕方ない。凶刃でも何でも構わない。
私だってトトネちゃんのお姉ちゃんだ。妹は絶対に助け出す。かつてツギル兄ちゃんがそうしてくれたように、今度は私が動く番だ。
――この人達のことは、謝ったって許さない。
このパーティー、とことん外道になっちゃったなー。




