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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
245/503

その浮島、楽園の可能性

目指すべき場所は、はるか彼方の空の上。

「あ、あれって……楽園なの……!? あの浮かんでる島こそが……!?」

「と言っても、そう言われてるだけですね。本当にあれが楽園なのかは不明です。周囲を覆う雲のせいで、この位置からしか見えないのですよ」

【もし仮に楽園だとしたら、空を飛んでいかないと辿り着けないな……!?】


 トトネちゃんが語るには、はるか頭上に浮かんでる島こそが楽園かもしれないとのこと。ただ、これについては『かもしれない』ってだけの話。

 イルフ人自体、かつて楽園の奴隷だったらしい種族。楽園と接点があっても、あまり強く関わろうとはしない。あんな上空にある島が楽園かどうかなんて、なおのこと調べる気にもならないだろう。


 ――スペリアス様、もしかしたらあそこにいるの?


「ねえねえ、トトネちゃん。水の中じゃなくて、空を泳ぐ方法とかないの?」

「それ、完全に空を飛んでますよね? 流石にそういうのはちょっと……」

【あの高さだと、鳥でも辿り着けないだろうな。……ただ、まさかアレがその手段になるのか?】

「ツギル兄ちゃん? アレって何?」


 本当に楽園があんな上空にあるならば、辿り着くための手段がない。イルフ人も空を泳ぐことまではできない。

 ここから見るだけでも、鳥さんでさえ難しいってのが分かる。魔王軍のドラゴンさんとかなら可能なのかな?

 それと、ツギル兄ちゃんも何か心当たりがあるみたいだけど――




「昨日、長老様に見せてもらった箱舟……。あれが本当に空を飛べれば、あの空飛ぶ島にも辿り着けるんじゃないか?」

「も、もしかして、箱舟が作られてる目的も……!?」




 ――それこそ、まさに昨日私達が見せてもらったものとの接点。確かに箱舟が空を飛べれば、楽園らしき浮島へ辿り着ける可能性だってある。

 イルフ人は楽園と関連する種族だし、そう考えると妙な信憑性もある。流石はツギル兄ちゃん。目はないのに目の付け所がいい。


【ただ、そう考えるとおかしい点もあるんだよな。イルフ人はかつて楽園の奴隷ったらしいし、先祖は逃げ出してこの里へ移り住んだそうじゃないか。なのに箱舟が楽園へ行く手段となるならば、どうして逃げ出した場所へもう一度行こうなんて考えるんだ?】

「あっ、確かに変。だったら、この仮説は間違い?」

「そう決めつけるのも早いとは思いますよ。あの浮島が本当に楽園かも不明ですけど、箱舟が作られてる理由も私はまだ知らされてません。もしかすると、今はその辺りのことで長老様も悩んでるのかもです」


 そうは言いつつも、ツギル兄ちゃん自身も発言に疑心暗鬼。もっとも、あんな上空にあるのが本当に島はどうかも疑心暗鬼。

 かなり高い位置にあるし、もしかしたら別の何かかもしれない。楽園かどうかも不明だし、今ここで色々と語るのは早計に過ぎる。

 ここについても長老様のお話待ち。時間はかかるけど、焦っても仕方がない。


「……ねえ、ミラリアさん。私はイルフの巫女として、この里に留まる役目があります。どれだけ旅立つことを夢見ても、叶わないのが現実です」

「むう? トトネちゃん、どうしたの? 急に神妙になった。……でも、自分のいるべき場所を理解するのは大事。トトネちゃんの考えは立派」

「ありがとうございます。……ただ、こうして外の世界の人間であるミラリアさんに会えたのは何かの縁です。ご迷惑でなければ、一つだけお願いがあるのですが? あっ、エフェイル様とかの件とは別です」

「私もトトネちゃんに泳ぎを教えてもらった。他に何か要望があるなら、可能な限りお応えする」


 ちょっとの間ボーっと空に浮かぶ楽園らしき何かを眺めていると、トトネちゃんがどこか申し訳なさそうに口を開いてきた。どうやら、これまでと別のお願いがあるみたい。

 私だって色々とお礼はあるし、トトネちゃんなら余程無茶なことを言うとは考えにくい。巫女としての立場とあり方は理解してるし、中身はもしかすると私より立派。

 ここは変に身構えず、広い心で受け入れられるようにしよう。




「実は……ミラリアさんに私のお姉さんになってほしいんです!」

「ふえええっ!? わ、私がトトネちゃんのお姉さんに!?」




 なお、その内容はどれだけ心を広くしても収めるのが難しかった。ついついいつも以上にふえっと驚いてしまう。

 まさか、私がトトネちゃんのお姉ちゃんに? 確かにトトネちゃんは可愛いし、悪い気はしないけど?


「イルフ人って数も少ないですし、私ってずっと一人っ子なんです。だから、お姉さんみたいな人にずっと憧れてて……。ミラリアさんみたいに外の世界の話を語ってくれて優しい人なら、種族が違ってもピッタシです」

【ミラリアがお姉ちゃんとか……ビックリするほど似合わん】

「凄く失礼なことをツギル兄ちゃんが言ってる気もするけど、何故だか言い返せない。……私もお姉ちゃんってほど立派じゃない」


 トトネちゃんなりに私を慕ってくれるのは嬉しい。でも、お姉ちゃんってのは私には似合わない。不覚にもツギル兄ちゃんと同意見。

 そもそも、お姉ちゃんってのはフューティ姉ちゃんみたいな人にこそ相応しい。もっと清らかで優しく包み込むような空気こそ、お姉ちゃん的アクセントと私は思う。

 トトネちゃんは他の人をあんまり知らないから、こう言ってるだけで――




「じゃあ、ミラリアさんのことを『ミラリアお姉ちゃん』と呼ばせてください! 気持ちだけでも!」

「~~~~ッ!?」



 ザッブゥゥウンッ!!



 ――だけど、私もそういう呼ばれ方をするとこみ上げる感情を抑えられない。ヤカンみたいな声も勝手に出ちゃう。

 トトネちゃんの曇りなき眼と合わさる『ミラリアお姉ちゃん』というどこか甘美な響き。思わず顔が熱くなり、どうにか熱を覚まそうと川へ飛び込んでしまう。

 魔剣も岸に置いたままで、一人プクプクと川の上にアホ毛出して沈まずにはいられない。


「ミ、ミラリアお姉ちゃん!? どうしたんですか!? やっぱり、ダメなんですか!?」

【……おそらく、萌えたんだろうな。今度はミラリアの方が】

「も、燃えた……? 火傷ですか?」

【近いけど遠い】


 このやりとり、今でも覚えてる。私がフューティ姉ちゃんを最初に『フューティ姉ちゃん』と呼んだ時の反応と同じだ。

 ただし、今回は私が前回におけるフューティ姉ちゃんの立場。あの時はよく理解できなかったけど、今ならよく理解できる。

 いきなり『お姉ちゃん』なんて呼ばれると、心の奥底から悶えるような嬉しさがこみ上げてくる。顔も体も火照ってくるし、実に強烈。効果は抜群。




 ――これが『萌える』ということか。理解した。

ミラリアの経験がまた一つ増えた。

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