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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
244/503

その種族、人間を恐れる

なお、ミラリアにとっては「言葉が通えばみんな人」という定義。

「人間って、変わった触角が生えてるんだな……」

「これは触角じゃない、アホ毛。私の髪の毛」

「そ、そうなのね。でもまるで、伝承にある女神エステナの触角みたい……」


 一度私達も川から上がり、集まって来た他のイルフ人ともお話してみる。だけど、その態度はどこか余所余所しい。

 私にとってはイルフ人の方が珍しいけど、イルフ人にとってはその逆。こんな立派なアホ毛が生えた人間なんて初めて見たのだろう。このアホ毛自体、私ぐらいしか持ってないけど。

 ただそれとは別に、ちょっとだけ怖がってる感じもする。別に私は何もしてないのに、何が怖いのだろうか? アホ毛?


「すみません、ミラリアさん。イルフ人にとって、人間はかつて『楽園で奴隷として使って来た種族』という認識が強いのです。なので、どうしても怖がる人までいて……」

「……そう。それは仕方ない。でも、ちょっと不思議。みんな私のことを『人間』と一括りにするけど、イルフ人は人間じゃないの?」

「かつて奴隷として扱われた歴史を顧みると、私達イルフ人は『人間として扱われなかった』という名残もありまして……」


 昨日の話とも照らし合わせてみれば、確かにイルフ人には外の人間を恐れる理由があった。いくら楽園への手掛かりが眠ってると言っても、その関係は良好とは言えない。

 私自慢のアホ毛も女神エステナの触角っぽく見えたらしく、かえって怖がらせてしまう。いつもはピョコピョコさせたくなるけど、今はおとなしくさせておこう。アホ毛で怖がらせちゃいけない。


 ――女神エステナにも困ったものだ。世界の創造主だか楽園の神様だか知らないけど、私とのキャラ被りは勘弁してほしい。


「……とはいえ、アホ毛の人間は長老様も目をかけている。きっと、何かしら重大な意味があるはずだ」

「そこを教えてもらうため、しばらくは滞在させてもらう。大丈夫。私はここのみんなに危害を加えないって約束する。必要ならば、何かお仕事のお手伝いもする」

「……フフフ。人間って怖いものとばかり思ってたけど、あなたみたいに純粋で優しい子もいるのね。気持ちだけで十分よ。……何より、こちらとしても丁重にお迎えするべきでしょうね。未完成の箱舟を見せてもらえた人間なんて、ただ者じゃないのは確かだからね」


 ちょっと恐れられはするけど、タタラエッジで疑われた時みたく邪険にされるまではいかない。長老様の私への扱いからか、不思議そうにしながらもむしろ好意的。

 相応の理由はあるんだけど、こっちはこっちで不思議な気分。確かに楽園の手掛かりからこの里までやって来たし、知り合いとの関りだってある。

 とはいえ、そこまで『丁重に』なんてレベルで出迎えてもらう話なのかな? イルフ人にとっては楽園も人間も畏怖の対象なのに、どうしてここまでしてくれるのかな?


「さて、ミラリアさん。お話もいいですが、泳ぎの練習も続けましょう。皆さんも失礼します」

「ああ。トトネちゃん達も気をつけてな」

「あんまり客人を振り回しちゃダメよ?」

「大丈夫。私も泳ぎについては強くレクチャー願う」


 気になることはあるけれど、今はトトネちゃんに泳ぎを教えてもらってる最中。話に区切りをつけると、私とトトネちゃんは再び川の中へ。

 その時のイルフ人が笑顔で見送る様子から、トトネちゃんが慕われてるのがよく分かる。もしかすると、私のこともトトネちゃんが一緒でクッションになってるのかも。

 エフェイルさんも叱ることはあったけど、みんなの間に入ってクッションみたいな役割をしてくれる人だった。巫女さんってそういうものなのかもしれない。


「次は少し遠くまで泳いでみましょう。ちょっと案内したい場所もあるんです」

「それは興味ある。私も頑張る」

【ミラリアがこうして食べ物以外で興味を抱くのも珍しいな。まあ、いい気晴らしにもなるか】


 泳ぎの練習もまだ続くけど、ツギル兄ちゃんが言ってることには私も同感。タタラエッジでは魔王軍との激闘もあったし、こうやって別のことをすると気持ちも切り替わってくる。

 長老様が準備してる私への話ってのは、ちょっとだけ恐ろしくもある。また昨日みたいにスペリアス様の影を感じ、泣いちゃわないか不安になる。


 ――でも、今は泳ぐことに意識を向けたい。トトネちゃんとだってもっと仲良くなりたい。





 ザッパァァンッ!!



「むむ~……プルプル! すぐに乾く巫女装束とはいえ、アホ毛の水分までは簡単に乾かない」

【だからって、雨に濡れた犬や猫みたいに体を震わせるか? まだ練習は続くんだし、あんまり気にしない方がいいんじゃないか?】

「でも、ミラリアさんは凄い上達ですよ。もうこれ以上は私が教えなくとも、自然と泳ぐ中で上達できますよ」


 しばらく川の中を泳いだ後、ピチピチと打ちあがる魚のように水面からジャンプ。そのまま地面へ着地し、体をプルプルして水を払う。

 私もだいぶイルフ人式泳法に慣れてきた。元々ナンバの動きは習得してたし、コツを掴めば問題ない。

 まだまだ油断は禁物だけど、先生であるトトネちゃんからも高評価。確実な成長を実感できる。


「ところで、ここはどこ? 上が空いてるけど、どこかの洞穴? コケとかがどこか神秘的」

「私にとってお気に入りの場所です。ここから見える空を、ミラリアさんにも見てもらおうと思いまして」


 泳ぎはさておき、連れてきてもらった場所も実に興味深い。フューティ姉ちゃんの秘密の場所のように神聖で、エスカぺ村のお社に近い空気を感じる。

 ただ、壁に囲まれた周囲から空が見えるのは新鮮。なんだか、小さなタタラエッジみたい。


「……ふえ? あそこの空……何か見えない?」

【本当だな……。雲でもないし、何かが浮いてるのか?】


 ただ、見上げた空には奇妙なものが写ってる。近くに雲が漂ってるけど、雲ではない何かまで浮かんでる。

 あれって何だろう? 太陽でも月でもないし、島のようにも見えるけど?




「一説によると、あれこそが『楽園』ではないかと言われてます。……ミラリアさんが目指してるのも、あそこかもしれませんね」

その里、まさに楽園との接続点。

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