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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
243/503

その少女、泳ぎを教わる

天ぷらでパワーをチャージし、今度は水泳の練習だ。

「長老様にも確認しましたが、今は少し調べ物の最中みたいです。なので、その間に泳ぎの練習をしてみましょう」

「うん、お願い。ちゃん先生」

「……とうとう『トトネ』という名前が消えてしまいました。やっぱり、そこは普通に『トトネちゃん』でお願いします」

「分かった、トトネちゃん」


 天ぷらをご馳走になった翌朝、約束通り近くの川でトトネちゃんに泳ぎを教えてもらうことになった。

 長老様は何やら準備があるらしく、まだ話の続きとはいかないみたい。まあ、その分こっちも泳ぎの練習ができるし、今はまだ慌てる時間じゃない。


「そういえば、服は巫女装束のままでいいの?」

「大丈夫です。この巫女装束、濡れてもすぐに乾く素材で作られてますので。何よりいざという時のことを考えると、着衣水泳の方がミラリアさんのためにもなると思います」

「成程。確かに旅の中で逐一服を脱いで水泳とはいかない」


 私もエスカぺ村水泳大会チャンピオンの実績があるとはいえ、トトネちゃんの実力はそれ以上。基本的な部分にしても、まずは先生として納得のいく説明をしてくれる。

 今着てる巫女装束にしたって、確かに肌触りが普段のものと違ってスベスベ。このおかげで濡れてもすぐ乾くらしい。だからトトネちゃんも巫女装束のままで泳いでたのか。


「ではまず、水の中で呼吸をする方法について説明しますね」

「ふえ? 水の中で呼吸? そんなの、私にはできない。私はイルフ人じゃない」

「イルフ人だって、何も水中で息ができるわけではありません。そこについては、魔剣さんの力をお借りすることになります」

【え? 俺の力を使うのか?】


 そうして始まる練習だけど、最初からかなり高難易度っぽいことを述べてくる。私はイルフ人でもお魚さんでもないから、水の中で息をしようものなら溺れちゃう。

 だけど、そこの心配は無用とのこと。魔剣であるツギル兄ちゃんがいるからこそできる技があるらしい。


【魔剣兄ちゃん。今からオイラがやるのと同じように、アホ毛娘の体を魔力で覆うんだい。一般的な魔力解放と同じ要領だから、そこまで難しくはないやい】

【初歩的な風系統魔法の応用か……。それぐらいなら、ミラリアの居合で発動させずともできるな。アテハルコンで強化されてるし問題ない】


 カミヤスさんも協力してくれて、まずはツギル兄ちゃんへちょっとした魔法のレクチャー。強化もされてるからか、居合以外でも能力を発揮できる場面が増えたのも大きい。

 トトネちゃんへカミヤスさんが魔法を使うのと同じ要領で、ツギル兄ちゃんも私へ魔法をかけてくれる。普段攻撃に使うのと違い、薄い魔力の膜が体に纏われるのを感じる。

 ちょっと不思議な感覚。特に口の辺りが微妙にモゴモゴする。


「これで水の中でも少しは呼吸ができるようになり、長時間の水泳も可能です。水中で会話もできますよ」

「会話ができるのは助かる。泳ぐ中で声を聞いて教えてもらえる」

「はい。私もそれが大事だと思いましたので、一番最初にお教えしました。では早速、川の中へ入ってみましょう」

【オイラはここで待ってるだい。魔剣兄ちゃんは一緒に連れてやるといいやい】


 違和感はあるけど、これにて準備は完了。まずはトトネちゃんが川へ飛び込んだので、私も後を追うようにダイブしていく。

 カミヤスさんはお留守番だけど、私はツギル兄ちゃんと一緒。まだ初心者だし、いつ術が切れるか分からない心配もあるのだろう。

 最初はかけてもらった魔法のことも忘れて、思わず普段のように息を止めてしまう。やっぱり、いきなり水中で口を開けるのは怖い。

 だけど、恐る恐るも口を開けてみれば――




「……ぷえっ!? 息ができる!?」

【ほ、本当だな。ミラリアも俺と同じように、水中で会話までできてるぞ。こんな魔法の使い方があったのか……】

「まずは大丈夫そうですね。これなら安心です」




 ――なんと、問題なく息ができる。それどころか言葉も話せるし、ツギル兄ちゃんやトトネちゃんの声まで聞き取れる。

 体は普段の水中通りプカプカするのに、目も口も開けられるから地上にいる時と変わらずに交流できる。旅をしてて不思議にはいっぱい遭ったけど、今回が一番不思議かも。

 水深は結構なもので、全身が水に浸かっても足をバタバタさせて高度を維持させないといけないぐらい。私は結構必死だけど、トトネちゃんの方は優雅に川の中で舞っている。


 ――本当にお魚さんみたい。イルフ人って、まるで自然と一体化したような動きができるのか。


「さて、ここからはミラリアさん自身の頑張りです。私と同じように動けますか?」

「こうやって見てお話もできるならなんとかなるかも。ちょっとやってみる」

「体の無駄な力を抜き、全身が左右同時に動くように意識してみてください。そうすることで、水に対しても無駄なく力を発揮して――」


 そんなお魚さんのような動きこそ、今から私が習得することになる泳ぎ方だ。トトネちゃんは動きに言葉を交え、分かりやすくレクチャーしてくれる。

 動き自体も私には少し覚えがある。右半身と左半身をねじらず、ぞれぞれ一本の線としたこの動き。エスカぺ村でも修行した『ナンバ』という動きだ。

 成程。確かにこの動きはスタミナの消耗が抑えられる。縮地や居合を使う時にも応用してるし、私にできないこともない。

 その通りに体を動かして泳いでみれば、私もトトネちゃんと同じくお魚さんのように素早く泳げる。息の心配もいらないので、近くのお魚さんへ『こんにちは』する余裕もある。


 ――でも、まだ時間的には朝だった。『おはよう』だった。



 ザブンッ



「凄いですね、ミラリアさん! もうほとんど泳ぎ方をマスターしてませんか!?」

「似たような動きはよくやってる。まさか、その動きを泳ぎにも応用できるとは思わなかった。これはエスカぺ村水泳チャンピオンの私も目から鱗」

【もう少し練習すれば、トトネちゃんと同じぐらい泳げるかもな】


 少しの練習を終え、ひとまずは水面へ顔を出して小休止。トトネちゃんも認めてくれた通り、しっかりと教えてもらった泳ぎができている。

 水に逆らわないから体力の消耗も少なく、何より素早く泳げる。まるで私自身が居合で抜刀された刀の気分。

 これだけ泳げれば、泳ぐこと自体も楽しくなってくる。今も上手く体の力を抜き、プカプカ川の中で漂うのが気持ちいい。




「おや? トトネちゃんじゃないかい? そっちにいるのは……人間か?」

「長老様からも聞いたが、人間の少女がこの里へ来たそうね。私も見るのは初めてだわ」




 そうして水面でプカプカしてると、近くの橋から声をかけられる。

 どうやら、トトネちゃんや長老様以外のイルフ人みたい。そういえば、他のイルフ人と面と向かうのは初めてだった。

エスカぺ村自体が結構イルフの里と共通点が多い。

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