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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
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その巫女、当代と先代

イルフの巫女トトネにとって、同じく巫女だったエフェイルの存在は気になるところ。

「エスカぺ村の巫女さん……エフェイルさんのこと? そういえば、トトネちゃんも同じ巫女装束を着てる。それとも関係あるの?」

「私、エフェイル様の次の代の巫女なんです。エフェイル様は先代で、私も話は少し聞いただけです。イルフの巫女として、先代様がどういう人だったのか気になります」


 トトネちゃんが私へ尋ねたのは、エスカぺ村の巫女さんだったエフェイルさんについて。どうやらあの人、元々はこのイルフの隠れ里で巫女さんをしてたらしい。

 少し話を聞くに、この里での巫女さんはフューティ姉ちゃんみたいな聖女様と同じ扱いみたい。とりあえず、信仰の象徴のよううな感じ。ツクモのカミヤスさんはそれに仕える立場で、かつてのユーメイトさんに近い。

 その巫女さんの先代がエフェイルさんで、当代がトトネちゃん。ならば気になって当然か。


「私とエフェイルさん、よく追いかけっこしてた。理由は私のイタズラで、今思い出すと悪かったと反省してる。……その反省も遅すぎたけど」

「故郷を焼かれて、その時に亡くなったんですよね……」

「……うん。あの時の私は愚かだった。エフェイルさんが守ってくれたのに、それまでにきちんと優しさに応えることもできなかった。どれだけイタズラしてもちゃんと優しく戒めてくれたのに、その気持ちを理解できてなかった……」

「……辛い話なら、無理に語らなくても大丈夫ですよ。それより、楽しかったことを思い出しましょう」


 ただ思い出しながら語る中で、どうしても暗い気持ちがまたこみ上げてくる。口調も落ち込んじゃうし、トトネちゃんにまで心配されちゃう。

 そんな様子を見て言葉を交えてくれるあたり、トトネちゃんは見た目よりずっと大人だ。私も見習わないといけない。

 とりあえず、エフェイルさんとの楽しかった思い出だって語りたい。ここは話題を切り替えるべき。




「エフェイルさんはオッパイが大きかった。巫女装束の上からでもハッキリ分かるぐらい。後、見た目はお姉さんだけど、どこか年寄り臭い。スペリアス様と一緒になって、縁側でお茶を飲んでた姿とか――」

「あー……ミラリアさん? なんだか、私の想像してた『楽しい思い出』と微妙にズレてるような……?」




 そんなわけで話題を『エスカぺ村でのエフェイルさんの日常』に切り替えたんだけど、トトネちゃんはどこか微妙な反応。

 かなり日常的な部分に切り込んでみたけど、オッパイや年寄り臭いは失言だったかな? また何かズレちゃった?


【な、なんで話題がそんな急転換するんだい? おい、魔剣兄ちゃん。あんた、曲がりなりにもこいつの兄貴なんだろ? どういう教育を受けてたんだい?】

【俺だって同じ親に育てられたが、ミラリアは昔から色々と周囲とのズレが大きかったんだよ。……このセリフ、何度目だ?】

「でも、巫女をやるにはオッパイが大きくないといけないのですか? 私、ペッタンコです……。後、年寄り臭くもない……」


 やっぱり失言だったみたい。カミヤスさんは呆れた声でツギル兄ちゃんを問い詰め、ツギル兄ちゃんはゲンナリした声でお返事。これまたいつもの光景。

 トトネちゃんは自分の胸に手を当てたり袖に鼻を当てたりしてるけど、別に気にすることはない。エフェイルさんが色々と立派だっただけ。

 何より、トトネちゃんはまだまだ発展途上。今後の成長に期待。



 クキュルル~~



「あっ、いけない。お腹の虫がご飯を求めてる」

【お前の腹の虫、もはや時計か何かだな。どんな場面でも関係なく割り込んでくるし……】

【き、気の抜ける腹の虫の音だい……】

「そろそろ夕飯時なのは事実ですし、私も準備しますね。ミラリアさんみたいなお客さんは初めてですし、腕によりをかけて作ります!」


 どこか気の抜けた空気の中で流れてしまったのは、ペコペコになってた私のお腹。思えば、森に入ってから何も食べてなかった。

 持ってた食料も滝に突っ込んだせいで半分ぐらいダメになってるし、ご飯がいただけるならいただきたい。ちょっと暗かった気持ちも、ご飯があれば満たされるかも。

 トトネちゃんも家の中へ入り、張り切りながら食事の準備をしてくれる。イルフの里に来てからお言葉に甘えてばかりだけど、今は私も心の整理がつかない。


 ――落ち着いたら何か恩返しもしたい。この場所は私にとって、エスカぺ村とも繋がる大事な場所だ。





「はい、できました! 川魚と野草の天ぷらです! ミラリアさんのお口に合えばいいのですが……」

「おおぉ……! これはまた、見た目にも煌びやかな料理……!」


 トトネちゃんとちょっとした話を終えると、早速始まるご飯の支度。小さな台所でトントンとトトネちゃんが料理を作り、出来上がったものが並べられる。

 どんな時でもご飯は大事。食べることこそ元気の源。作ってもらったからには、食べることこそが最大の礼儀。


 何より、トトネちゃんが作ってくれた料理は実に興味深い。魚や野草が黄金色のカラカラしたものに包まれ、見た目にも香りにも食欲を注ぐ。

 この感じ、ポートファイブで食べたタツタ揚げに近い。料理してる時、どこかジュージューと似たような音がしてた。


「天ぷらは初めてですか? こっちのツユで食べてくださいね」

「ツユ……これはエスカぺ村でも覚えがある。一押しの美味しさが欲しい時の万能調味料……!」


 用意してもらったツユはエスカぺ村でも覚えがあり、私もよくお料理で使ったものだ。これの旨味はあらゆる料理に精通すると言ってもいい。

 食器も懐かしいお箸だし、エスカぺ村とイルフの里は食文化に共通点も多い。そんな中で天ぷらという新境地は実に興味深い。

 まずは魚の天ぷらをお箸でキャッチ。言われた通り、ツユに軽くチャプチャプして味付け。

 この一連の流れだけでも涎が流れそうだけど――




「お……おいひぃ……! 幸せ……!」




 ――口に含めば、全身を駆け巡る圧倒的幸福感。外はサクサクなのに、中は魚の身がフワフワで絶妙な歯応え。

 ツユの加減も素晴らしく、ほどよいジューシーさも感じられる。タツタ揚げに似てるけど、こっちの方があっさりしてる。

 これはタタラエッジで食べたウドンにも合いそう。トッピングにはもってこい。


「野草の天ぷらも実に美味! そしてそこに加わる……お米!」


 天ぷらだけじゃない。一緒に用意されたお米がお口の中を滑らかにもしてくれる。ホカホカのお米なんて、エスカぺ村以来だ。

 スアリさんに雑炊を作ってもらったことはあったけど、お米はやはり炊き立てが一番。新しい美味しさに懐かしい美味しさがマッチして、まさに至福のひと時。


 ――イルフ人のお料理、最高。


【なんでい。ショボくれてたのに、飯を食べたら元気になっただい】

【ミラリアは何より食べることが好きだからな。トトネちゃんもありがとうな】

「いえいえ。私としても、ミラリアさんのお話には興味がありますので」

「何か他に聞きたいことがあれば答える。答えられる範疇で」


 これだけのご飯を用意してもらえたのだから、何かしらのお返しはしないと罰が当たる。元気も戻ったし、聞きたいことがあるならどんとこいだ。

 でも、何を聞きたいんだろう? やっぱり、エフェイルさんの話の続きかな? それはまだちょっと辛いかも。




「実は私……外の世界に興味があるんです! ミラリアさんが旅したお話、もっと聞かせてください!」

とりあえず食べる。それがミラリア。

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