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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
240/503

その魔女、最後の賢者

三賢者最後の一人スペリアス。

そして、三賢者を結ぶは故郷エスカぺ村。

「ちょ、長老様……? 今、三賢者最後の一人が……誰って……?」

「大魔女……スペリアス。君の話を辿れば、会いたいという育ての母もスペリアスのことなのだろう?」


 一瞬、思考が完全に停止したのが自分でも分かった。あまりに衝撃的すぎて、逆に頭にしっかり入ってこない。

 でも、間違いない。間違えるはずがない。長老様が語った三賢者最後の一人とは、私も追い求めるあの人だ。


 ――育てのお母さんであるスペリアス様。あの人こそ三賢者と呼ばれ、ここまでの事象を繋ぐ存在だ。


【ど、どうしてスペリアス様が……? それに、おかしくないですか? スペリアス様は今、おそらく楽園にいるはずです。エスカぺ村だって楽園と繋がる要素が眠ってました。なのに、あなた達『楽園を嫌う』イルフ人はどうしてスペリアス様の言葉を……?】

「彼女の真意については、私でさえも計りきれない。ただ、彼女の言葉や思想はイルフ人にとっても有益であった。この森を『精霊の住まう神聖な地』と噂を流し、あまり人の立ち入らない秘境としてイルフ人と人間を遠ざけてもくれた。いくら楽園に関わるスペリアスであっても、行動自体が『楽園のため』というわけではないようだ」

「スペリアス様、こんなところで活動してたんだ……。もしも一緒に旅ができたら、そういう思い出も語り合えたのかな?」


 ツギル兄ちゃんが語ることは私も気になる。

 楽園にイルフ人に三賢者。そこへスペリアス様が関わっていたとなれば、事情はかなり複雑になるのは直感的に理解できる。

 スペリアス様にドワルフさんにエフェイルさん。楽園に関わる三賢者と呼ばれる人達は、みんなエスカぺ村に住んでた。

 イルフ人にしたって、楽園の原住民族というより奴隷だった過去がある。これだけでも事情の複雑さは言わずもがなだ。


 ――ただ、私にはそれらへの理解より押さえ込めない想いがある。




「う、うあぁ……スペリアス様ぁ……! スペリアス様ぁぁあ! 会いたい……会いたいよぉぉお!!」

【ミ、ミラリア……】




 この長い旅は楽園を目指すものではあれど、全てはお母さんであるスペリアス様に会うためのもの。スペリアス様に会って、きちんと『ワガママ言ってごめんなさい』と言うためのもの。

 こんなタイミングでスペリアス様の存在が出てくれば、ずっと貯め込んでた想いを溢れさせずにはいられない。

 思わず泣き崩れてしまい、ツギル兄ちゃんにも心配そうに声をかけれてしまう。でも、この気持ちだけは自分でも抑えられない。


 ――エスカぺ村で過ごした穏やかで懐かしい日々が脳裏をよぎり、スペリアス様の笑顔が張り付いて剥がれない。


「……君にとって、スペリアスはそれだけ大事な存在だったのだろう。私には計りきれない絆とでもいうものが、確かに存在するのを感じ取れるよ」

「う、うあぁぁ……! ご、ごめんなさい……。人前で急に泣き出すのはみっともないって、スペリアス様にも教わったのに……!」

「いや、気にしなくて大丈夫さ。……まだ他に話せることもあるが、君だって長旅で疲れてもいるだろう。今日はもう休みなさい。寝食についてはトトネに用意させてあるし、しばらくは里に滞在するといいだろう。続きは君が落ち着いてからにしよう」

「うん、ありがとう……」


 懐かしい思い出とは、時として人の心を縛るものなのか。だけど、この気持ちがあるから私はここまでやって来れた。

 縛り付ける苦しさがあってもいい。その苦しみさえも糧として、前へ一歩踏み出せればそれでいい。

 長老様も私が滞在することは認めてくれるし、今はまだ焦る時じゃない。


 ――泣きたいけど、ずっと泣いてばかりもダメ。スペリアス様と再会した時、みっともない思い出なんか語りたくない。





【ミラリア、少しは落ち着いたか?】

「ぐすっ……うん。心配かけてごめんなさい」

【気にするな。俺だってお前の気持ちは分かる。……不確かなことは多々あるが、スペリアス様に近づいてるのは確かだ。そこだけ理解してれば大丈夫さ】

「うん……分かってる」


 箱舟のある場所から戻り、長老様とも今日はここまで。巫女装束のままツギル兄ちゃんと一緒に外へと出る。

 まだ気持ちは揺らいでるけど、それでも幾分かマシにはなった。いろんな想いが重なりすぎると、私ってどうもダメになる。

 これはユーメイトさんの眼鏡がどうこう言えない。心にある柱が揺らぐって、とっても苦しい。


 ――だけど、それは私の旅が前へ進んでいるからこそ。歩みを止めることだけはしたくない。


【お? 長老様との話が終わったのか? ……って、泣いてるのか? 何があったんでい?】

「あっ、カミヤスさん……。ちょっと色々あって、今日はここまで。……あれ? トトネちゃんは?」


 とりあえず、今日は長老様の言葉に甘えて休もう。もう陽が暮れ始めてるし、滞在場所であるトトネちゃんの家へと赴く。

 場所は聞いてて確かにここで合ってるんだけど、いるのはタケトンボの姿をしたカミヤスさんだけ。トトネちゃんの姿が見当たらない。

 ここは里の中でも下層に位置しており、そこまで広い場所ではない。近くには綺麗な川も流れてて、とっても過ごしやすそうな場所だ。

 生活する分には問題ない大きさの家もあるけど、人を見失うようなスペースもない。

 もしかして、どこかにお出かけ中かな?



 ザバァァアン!



「あっ、ミラリアさん! 長老様とのお話が終わったんですね」

「ト、トトネちゃん! 川で泳いでたの!?」


 そう思ってたら、なんとトトネちゃんは川からお魚さんみたいに飛び出てきた。そのまま私の眼前へ着地するし、さりげなく凄いことをしてる。しかも巫女装束のままで。

 そういえば、私を滝から助けてくれたのもトトネちゃんだったっけ。あんなに凄い流れだったのに、泳いで問題ないって凄い。

 よく見るとトトネちゃんの手には魚の入った網が握られてる。人間では到底真似できそうもない水の狩人だ。


「あっ、すみません。私、ミラリアさんのためにご飯を調達してました。ここの川魚に森のお野菜で、質素ながらもおもてなししますね」

「わざわざありがとう。私も色々あってお腹ペコぺコ」

【トトネ様~。たかが人間相手に、ここまで振る舞うこともないんだーい】


 長老様からも連絡が入ってたのか、トトネちゃんは私を出迎える準備をしてくれてたみたい。

 カミヤスさんは不満げにグルグルタケトンボしてるけど、トトネちゃんは凄く好意的。私も頭を下げて感謝しよう。助けてくれたことも含めて、これぐらいの礼儀は当然。


「ところで……ミラリアさん。私、あなたに聞きたいことがあるのですが……?」

「ふえ? 私に聞きたいこと? 何?」


 そんなトトネちゃんだけど、私へ何かお話があるみたい。長老様と色々話した後だけど、恩人であるトトネちゃんの言葉を遮るのも忍びない。

 内容にもよるとはいえ、トトネちゃんとちょっとお喋りするのも一興。私だって仲良くしたい。




「ミラリアさんの村に住んでたイルフ人の巫女さん――エフェイル様って、どんな人だったんですか? 私も当代巫女として気になります」

過去を振り返りつつも、現在を見つめる時。

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