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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
始まりの村と追及の王国
24/503

◆封怨魂セアレド・エゴⅢ

まだ潰えぬ怪物が望むものは?

「セッカク封印ガ解カレタンダ! モウ体ナンテ後デイイ! トニカク……ココヲ出タイ! ワタシダッテ、外ノ世界ヘェェエエ!!」


 完全に斬り倒したと思われた影の怪物は、苦痛の叫びと同時に自らの願望を吐き出している。その様子はどこか、エスカぺ村で外の世界に憧れていた私のよう。

 おぞましい怪物ながらも、何か子供じみた姿を感じる。まるで私達の存在も忘れ、上を見ながらただ轟き叫んでいる。


「外ヘ! コノ苦痛ト恐怖カラ解放ヲ! 命ヲ……ワタシニモ生ノ実感ヲォォオオ!!」



 ガラララ! ゴゴゴゴォ!



「な、何!? 今度は何!?」

「まさか、この洞窟が崩れるのか!? あいつが壊そうとしてるのか!?」


 そんな絶叫の影響なのか、私達がいる洞窟が大きく揺らぎ始める。これは魔法とかそんなものじゃない。

 もっと原始的な――それこそ、影の怪物が抱く大きすぎる願望が形になったような力。

 その力で洞窟の天井も崩れ始め、空いた穴の先から光が漏れてくる。


「も、もしかして……外と繋がって……?」

「アア! 光ダ! ワタシノ望ム世界! モウ……閉ジ込メラレルノハ嫌ダァァアア!!」


 その穴を見るや否や、影の怪物は体を霧のように変化させ、穴から外へと飛び出していく。

 もう私とツギル兄ちゃんのことなんてあいつには関係ない。外の光が見えたことで、そこにしか目が向いてない。

 表情なんて見えないけど、なんとなく感じられる。影の怪物は洞窟から逃げ出すと、すぐに見えなくなってしまった。


「あ、あいつ……何だったの……?」



 ガラララァア!!



「ミラリア! 今はそんなことを考えてる場合じゃない! このままだと生き埋めになる! 俺達も早く脱出するぞ!」


 あまりに謎に満ちた体験。不可解な怪物。でも、今は考察より先にやることがある。

 影の怪物が穴を開けるために放った咆哮は、洞窟そのものを崩壊へと導いている。もう崩れるのは時間の問題だ。

 私達も同じように穴から脱出しないと、これまでの苦労が水の泡だ。


「くうぅ!? 揺れが大きくて、上手く前に……!?」

「こっちだ、ミラリア! 俺の手をとれ! 早く!」


 ただ、どんどんと崩れ落ちる洞窟の影響で、私は脱出する穴まで辿り着くのが難しい。

 そんな私へ必死に声をかけ、手を差し伸べてくれるツギル兄ちゃん。すでに穴へ飛び込めるように魔法陣で足場を作り、私が来るのを待ってくれている。


 ディストール王国で再会した時、私はこの手を払いのけてしまった。自分のワガママを優先し、本心とも向き合わずに拒絶してしまった。

 だけど、もうそんなことはしない。これが私の本心。



 ガシィイ!



「ツギル兄ちゃん! お願い!」

「よし! 揚力魔法陣発動!」


 差し伸べてもらったツギル兄ちゃんの手を力強く握りしめ、すぐさま魔法で穴へと飛び込んでいく私達。

 私は助かりたい。助けてもらいたい。まだ言いたいことだって山ほどある。


 ――だから今度こそ、私はこの手を離さない。





「ハァ、ハァ……。た、助かった……」

「ここは村にある森の奥地か……。何にせよ、一息つけそうだな」


 崩れる洞窟を脱出し、私達は森の中にある倒木に腰かける。今のところ、さっきの怪物がまた襲って来る心配などもない。

 お社のある洞窟の近くみたいだし、私にもおおよその位置は読める。ここはエスカぺ村の結界内部だ。


 ――こうやって外に出ることで、ようやく私は帰ってきたことを実感できる。


「あ、あの……ツギル兄ちゃん……。色々と言いたいことがあって、とりあえずその……ごめんなさい」

「せっかく命からがら脱出できて、一番最初に言うセリフが謝罪か。よっぽど謝りたいことがあったんだな。……で? それは何に対しての『ごめんなさい』だ?」

「そ、それは……色々あって……」

「まあ、今はいいさ。俺としては、ミラリアが無事だったことが何よりだ。これでもお前の兄貴である以上、手が届く限り守ってやらないと示しがつかん」


 レパス王子に捨てられたり、怪物に襲われたり、崩れる洞窟から脱出したり。短い間にたくさんのことがありすぎた。

 本当はもっとしっかり言葉にしたい。助けてくれたことに『ありがとう』とも言いたい。だけど、上手く言葉にできない。

 そんな私の気持ちも汲み取ってくれたのか、ツギル兄ちゃんは『無理に語らなくていい』といった様子で頭を撫でながら答えてくれる。

 自慢のアホ毛ごとワチャワチャされて、なんだか懐かしい感触。喧嘩もたくさんしたけど、こうやって優しくしてくれたことだってたくさんあった。


 なのに、私はそんなことも忘れて激情に流され、勝手にエスカぺ村に帰ることを拒んでた。

 本当に馬鹿みたい。チヤホヤされたからって調子に乗ってた。こうやって心に寄り添える人がいないと私はダメだ。


 ――大人になんてなれてなかった。もっとエスカぺ村で過ごしていたい。


「……さて、細かい話は村に帰ってからにするか。スペリアス様達も交えて、落ち着きながら話そう」

「でも私、スペリアス様から追放って言われてる。追い返されたりしない?」

「まあ、大丈夫だと思うぞ。スペリアス様だって、家ではずっと『ワシはミラリアにどうしてやれば良いのじゃ?』なんて言って、心配を隠せてなかったからな」

「そ、そうなの?」

「そこも含めて帰ったからだ。お前が本格的に外の世界へ旅立つのも、しっかり話し合って準備してからだな」


 帰って受け入れてもらえるかは不安だけど、ツギル兄ちゃんの話を聞いてるとちょっと希望も湧いてくる。

 何より、受け入れてもらえるかの心配を今しても仕方ない。そもそも、私が受け入れてもらえるようにしないといけない。

 きちんと自分の悪かったところを謝罪する。後のことはそれからだ。


「ほれ、ミラリアも立て。ここからなら、村までそう遠くはない。歩いて帰るぞ」

「ツギル兄ちゃんの転移魔法じゃダメ?」

「俺だって疲れてるんだ。転移魔法の連発は堪える」

「私も疲れてる。おんぶして」

「お前、本当に一気にいつも通り元気になったな……。まあ、それ自体はいいことだがよ。ワガママ言ってないで、とにかく立って――あれ?」


 ちょっと私もふざけてワガママを言いつつも、早く村へ帰りたい気持ちはある。

 そう思って立ち上がろうとすると、先に立ち上がったツギル兄ちゃんが不思議そうにある一点を見つめている。

 何やら壊れた柱みたいなものがあるけど――




「こ、これ……結界支柱じゃないか? な、なんで壊されてるんだ?」

大変な目に遭ったが、これで無事村へ――とはいかんのです。

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