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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
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その森の地下、希望が眠る

長老様にとって、ミラリアの来訪は運命であった。

 長老様が案内してくれた扉の奥へ進むと、下へ続く階段のある暗い空間。里のある森の中とは大違いだ。

 かなり下まで続いてるらしく、一緒にゆっくり降りていく。


「ここは里にある大樹の中に作られた空洞でね。私の代からあるものを作るため、森の地下にある水脈へと続いている」

【地下水脈……ですか。森に住んでるイルフ人が、そんな場所で何を作って……?】

「その答えはじきに分かる。……そろそろ到着しそうだ」


 随分と下まで降りたけど、これなら森の地下まで来てても納得の距離。階段の終着点も見えてきたけど、かなり下にある分暗くて何も見えない。

 慣れれば見えてきそうだけど、長老様は壁をいじって何かを探してるっぽい。この暗さでも少しは見えてるのかな?

 イルフ人って普通の人間よりも能力が高いらしいし、目が良くてもおかしくない。私も視力だけはエスカぺ村の鍛冶屋さんや巫女さんには勝てなかったっけ。




 カッ



「よし、電灯が点いたな。これで中の様子も見れるだろう」

「ふ、ふえっ!? な、何これ……!?」

【ま、まさか……船なのか!? こんな森の地下深くに……!?】




 そうこうちょっと思考が逸れてると、急に天井に光が灯り、周辺が明るくなる。長老様がやってくれたらしく、おかげで私とツギル兄ちゃんも何があるのか確認できる。

 ただ、そこにあるものを見てビックリ。地下水脈はまるでポートファイブの港のように整備されており、どこかへ繋がる水路のようにもなっている。

 何より驚くべきは、そこに置かれている船。ロードレオの海賊船と同じような船で、こんな地下に眠らせるようなものにはとても見えない。

 船のための設備なのか、ポチポチがいっぱいついた板やよく分からないものも多い。


 ――さっきまでの森と違い、ここだけ雪山でデプトロイドの管理人さんに出会った場所の印象に近い。


「これは『箱舟』と呼ばれ、我々イルフ人が長き歴史の中で少しずつ作り出したものだ。まだ完成とは言えないがな」

「そうなの? 見た感じ、すぐにでも海へ出て問題なさそう」

「まあ、海へは出れるだろう。この地下水脈を辿れば可能だ。ただ、この箱舟の目的は海へ出ることじゃない」


 帆だってしっかり作られてるし、素材となってる木もかなり頑強。多少のことでは沈みそうにないし、これならロードレオの海賊船にも負けない。

 これで未完成ってどういうことだろ? 目的地が海じゃないなら、川とかなのかな? それはそれで狭くて大変そう。




「箱舟の目的は『空を飛ぶこと』だ。祖先のイルフ人が楽園で培った技術を使い、ここに再現しようとしてるのさ」

「そ、空……!? この船、空飛ぶの……!?」




 どこを目指してるのかと首を傾げてると、長老様がその目的地を語ってくれた。

 海でもなければ川でもない。それどころか、水のある場所ですらない。

 目指すべきはいつも見上げてる青い空。水に浮かべるのではなく、雲の間に浮かべるとは予想外だ。


「と言っても、今はまだ空を飛ぶことさえできない。性能としては普通の船と変わりない。何より、この箱舟自体も伝承にある本物を再現しているだけにすぎない」

「ほ、本物の箱舟は別にあるってこと? それなら空を飛べるの?」

「あくまで伝承の限りでは……ね。ただ、我々には空飛ぶ箱舟の存在が必要だ。ある人物の予言もあり、少しずつでもこうして再現してるのさ」

「ある人物……?」


 まだ実際にその光景は見てないけど、船が空を飛ぶなんて凄い話だ。私のアホ毛もどこかホワホワ揺れてスケール感に流されてしまう。

 それにしても、どうして空飛ぶ船なんて必要なんだろ? 誰かに言われたみたいだけど、そもそもそれが誰なのかな?


「……君達兄妹は、ドワルフやエフェイルと一緒の村で育ったんだったね?」

「そうだけど……それって特別なこと?」

「ああ、特別なことさ。『三賢者』と呼ばれたあの二人が、残る一人の言葉に従って移住を決めるぐらいにはね」

「三賢者……? それって、タタラエッジでも聞いた……?」


 長老様は箱舟の近くを歩きながら、思い出を語るように話を紡いでくる。最初に語った『三賢者』については私も覚えがある。

 タタラエッジでドワルフさんの日記に記されていた言葉。あの内容から想像できてたけど、やっぱりドワルフさんとエフェイルさんは三賢者だったんだ。

 でも、三賢者ってことはもう一人いるってことだよね? しかも、その人が一番重要っぽい。


「我々がこうして箱舟の建造を進めていたのも、あのお方の言葉があったからこそだ。『いずれ世界の命運を決める時に必要となる』とおっしゃられ、過去の遺物とも言える資料を基にここまで再現することはできた」

「箱舟についても、三賢者最後の一人が……? それって、誰なの?」

「……本当は当人に真意を問うべきだろうが、あのお方が語った通りに自らの足でここまで辿り着いた少女だ。私も教えないと気分が悪い」


 三賢者最後の一人については、長老様もどこか名前を出し渋ってる。それほどまでに重大な人な予感だけは伝わってくる。

 それとさっきから気になってるけど、なんだか私へ期待してるって印象もある。ただ、同時に『世界の命運』なんて壮大スケールまで出てくるのは勘弁してほしい。


 ――私はただ、スペリアス様に会いたいだけ。そのために楽園を目指す旅をしてるだけ。


「人間の少女ミラリアよ。本来ならばこの場へもあのお方と共にやって来るはずだったが、君は過去な旅を超えてドワルフとエフェイルの軌跡まで辿ることができた。だからこそ私もイルフ人の長として、責任をもって君に三賢者最後の一人の名を伝える」


 どれだけ壮大な裏側があっても、私が最後に目指すべき場所は変わらない。三賢者を知ることで楽園へ――スペリアス様へ繋がるのなら、私はその先に何が待っていても立ち向かう。

 どこか威厳を増した語り口をしながら、長老様もその人の名前を語ってくれる。




「彼女の名は……スペリアス。人間の世界で大魔女と呼ばれ、何より……君達兄妹の母親でもある人物だ」

多くの糸を繋ぎし大魔女スペリアス。


――今ここに、物語は転換期を迎える。

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