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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
永き歴史を紡ぐ種族の里
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その長老、種族の歴史を語る

イルフ人の長老は、これまでの謎を知っている。

「ふえっ!? どうして分かったの!? 私、まだ二人の名前は言ってないよね!?」

「その反応……やはり、そうだったか。話を聞くにあの二人はすでに故人のようだが、全ては君をここへ導くためだったのかもな……」


 確かに私はエスカぺ村にイルフ人がいた話をしたし、それらを手掛かりにここへやって来たことも話した。でも、名前についてはまだ語ってない。

 なのに名前を言い当てるあたり、やっぱり何かあると勘繰るのが道理。確かに二人はイルフ人だったし、巫女のエフェイルさんに関してはこの里の出身とも考えられる。

 だけど、鍛冶屋のドワルフさんも知ってるってことは絶対に何かある。色々と手掛かりを手繰り寄せてここまで来たのだから、納得のいく話を聞きたい。

 思わず前のめりになり、長老様に続きを求めてしまう。


「君の故郷に住んでたイルフ人だが、鍛冶屋の方がドワルフ、巫女の方がエフェイルという名だった。ただ、君も最近になるまで名前は知らなかったと?」

「う、うん。ずっと一緒だったから、そういうものだとばかり思ってた……」

「そして、その魔剣と呼ばれる刀はドワルフが作ったもので、今は君のお兄さんの魂と魔力が宿っている。……まさしくもって予言の通りか。彼女が語った通り、自らの足で答えを求めているのか」


 長老様の表情は真剣そのもの。床の上で座禅を組みつつ、頭の中で深く考え込んだりもしてる。

 まだ何か私へ話せることがあるみたいだけど、自分自身も整理しながら悩んでるって感じ。


 まだ楽園には辿り着けてないけど、これまでの旅でも色々とあった。

 苦しい中でも頑張って乗り切り、ようやくこの隠れ里へと辿り着けた。


 ――長老様の様子を見れば、そうした苦労の先にある答えへ近づけてる実感がしてくる。


「しかし……最終的な目的は楽園なのか。それについては、イルフ人としてもあまり語りたくない事情があるのだが……」

「ふえ? どうして? 私が聞いた話だと、イルフ人は楽園の原住民族じゃないの?」

「そうと言えばそうなのだが、真相については人の世でも歴史の闇へ葬られたか。……まあ、君は長い旅路の中で、ここまで辿り着いた少女だ。こちらも知る限りのことを語らぬと、納得さえできないだろう」


 ただ、長老様の顔色はどこか悪い。まるで、思い出したくないことを思い出そうとしてるみたい。私にとってのエスカぺ村やフューティ姉ちゃんの悲劇みたいに。

 知りたいことは知りたいけど、こうやって苦しそうな態度を取られるとこっちも苦しい。あんまり無理して聞き出す気になれない。


 ――だけど、長老様は一つだけ私へ語ってくれる。




「我々イルフ人の祖先は、確かにかつて楽園で暮らしていた。……だが、それは『奴隷として』だ」

「ど、奴隷……!?」




 それこそ、イルフ人が楽園と繋がる理由の一端。ただ、私の想像とは違ってた。


 『何の苦しみのない楽園』なんて呼ばれてるから、てっきりみんなが仲良く暮らしてるものだと思ってた。だけど、長老様が重苦しく語る真相は違う。

 イルフ人は原住民族である以上に奴隷――つまり、Sランクパーティーやロードレオ海賊団といった人攫いに攫われた人達の行く末と同じ。

 話で聞いたことしかないけど、元々の生活を奪われての生活を強いられるわけだ。いい印象なんてない。イルフ人にそんな過去があったなんて驚きだ。


 ――何より、楽園にそういった歴史があったことにも驚く。


「古来より、イルフ人は普通の人間より肉体的に強固な種族だ。長命でもあり、労働力としてはこの上ない。さらには人間視点で容姿に優れた者も多く、そういった趣向を持つ人間にとっても格好の餌食だったと聞いている。……それなのに、当時は戦う術を持ち合わせていなかったそうだ」

【楽園に住む人間からすれば、イルフ人はどこまでも『都合のいい存在』だったってことですか……。あまり良い言い方ではありませんが……】

「まさにツギルの申す通りだ。だからこそ今日まで、イルフ人は外界との接触を避けて暮らしてきた。もしも楽園の人間が再び我々を見つければ、また奴隷として利用されると恐れてな」


 イルフ人がこうして隠れながら暮らしてる理由と考えれば納得だ。Sランクパーティーみたいな人攫いなんて、その歴史から恐れて当然。

 楽園の所在は今も不明だけど、もし本当にまだ存在してたらイルフ人にとっては畏怖の象徴。昔のように奴隷なんてやりたくないに決まってる。


「はるか昔、長命なイルフ人でも知る者がもういないほどの時代、祖先は楽園から逃げ出してこの地に居を構えたそうだ。我々はその時のことだけを語り継ぎ、今に至るというわけだ」

「そうだったんだ……。でも、それならドワルフさんとエフェイルさんは? あの二人はどうしてこの里にいなかったの? エスカぺ村に住んでたの?」


 ただ、こうなってくると気になることが一つ。エスカぺ村に住んでたイルフ人の存在だ。

 エスカぺ村もここと同じく、外の世界から隔絶されていた。今にして思えば、同じような理由があったのかもしれない。イルフ人が住むのにも適してる。

 だけど、どうしてわざわざエスカぺ村に来たんだろう? あそこにはイルフ人以外の人間もいたし、わざわざ引っ越す意味ってあったのかな?

 ドワルフさんに至ってはタタラエッジに住んでたこともあるし、そうやって危険を冒す必要なんてあったのかな?


「そのことについてだが、実際に見てもらった方が早いか。少し歩くことになるが、私についてきてくれ。トトネとカミヤスは下がっておれ」

「は、はい!」

【長老様、その扉は確か……?】


 その疑問についても、長老様は何か知ってるらしい。立ち上がると、奥にあった扉へ私を手招きしてくれる。

 トトネちゃんとカミヤスさんとは別行動みたいだけど、どこかかしこまった様子が気になる。あの扉の向こうに何があるのだろう?




「この奥に眠るものこそ、君達兄妹とイルフ人を繋いだ最大の要因と私は考えている」

楽園とイルフ人を繋ぐ奴隷の歴史。そして、ミラリアが対面するさらなる存在。

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