その少女、隠れ里へ流れ着く
ミラリアが目を覚ましたのは、追い求めたイルフ人の里。
正直、あまりに予想外の展開。滝に落ちてダメだと思ったのに、目が覚めたらそこはイルフ人の住む隠れ里。
森へ入った目的の場所へ、いつの間にやら辿り着いてしまった。もしかして、助けてくれたのもイルフ人ってこと?
「あっ! カミヤスさん、見てください! さっきの女の子、目を覚ましたみたいです!」
【トトネ様! どうして人間なんて助けたんだい!? オイラ、理解できない!】
「だって滝つぼで溺れてたし、助けないと危なかったから……」
景色や人の姿に見入ってると、こちらへ近づく声が二つ。一つは私が気を失う前にも聞こえた声だ。
となると、この人こそが命の恩人ってことか。もう一人いるみたいだけど、トトネって人が助けてくれたっぽい。私よりも幼そうな女の子の声だ。
それでもって、ここにいるってことは――
「ッ!? や、やっぱり、あなたもイルフ人!?」
「ぬぬ!? もしかして、私達イルフ人のことを知ってるのですか!?」
――トトネという人もイルフ人だ。背丈は私より小さいけど、耳は明らかに長い。服装は私と同じ巫女装束で、これに関してもよく考えればイルフ人の要素であった。
何より、自らイルフ人であることも述べてる。これまでは足がかりしかなかったけど、これで確定といったところか。
【だからオイラは反対したんだ! いくらトトネ様がイルフの見習い巫女でも、人間に余計な手出しは無用だい! イルフ人のことを広められたらどうすんだい!】
「ふえっ!? な、何これ!? タケトンボ!? タケトンボが喋った!?」
【あぁ? 何を驚いてるんだい? そっちだって、ツクモの宿った刀を持ってるだろ? オイラも同じツクモで、このタケトンボに宿ってるだけだい】
【なっ!? お、俺のことにも気付いてたのか!?】
さらに驚くべきはこれだけで収まらない。トトネちゃんって人と一緒にもう一つ声があるんだけど、なんとそれは近くをヒュンヒュン飛んでるタケトンボから聞こえてくる。
タケトンボ自体、エスカぺ村でよくツギル兄ちゃんと幼い頃に遊んで以来だ。外の世界では見たことがない。しかも喋ってる。
どうやら魔槍さんと同じく、ツクモって種族みたい。だからなのか、魔剣にツギル兄ちゃんが宿ってることも読み取ってきた。
――ツギル兄ちゃんはツクモじゃなくて、元々は普通の人間の魔術師だけど。このやりとり、魔槍さんの時にもあったっけ。
「カ、カミヤスさん。あんまり強く言ったら怯えちゃいます」
【そうは言うがトトネ様! イルフ人やツクモのことが人間にバレた以上、下手に生かして帰すことも――】
「そのことなんですが、この人達は最初からイルフ人やツクモのことを知ってますよね? おまけに持ってる武器も刀ですし、もしかすると関係者ってことも……?」
【え? あっ。た、確かに言われてみれば……?】
タケトンボに宿ったツクモはカミヤスさんというらしく、トトネちゃんとは上下関係があるっぽい。トトネちゃんが上でカミヤスさんが下みたい。
とはいえ、どこかお目付け役のようにも感じる。ゼロラージャさんとユーメイトさんの関係じゃなく、私とツギル兄ちゃんの関係に近いかも。
「この魔剣は――ツギル兄ちゃんはツクモじゃない。元は人間。私達、イルフ人を探してこの森まで来た」
「ぬぬ!? イルフ人を探して森へ立ち入るなんて、ますます何かありそうですよ!」
「……あっ。でも、先に優先するべきことがある。私が落ちた滝の近くで、悪い人達が凄い爆発を起こしたんだった。早く火を消さないと大変」
何はともあれ、探し求めたイルフ人にようやく出会えたのだ。早速色々とお話を聞きたい。
だけど、直前の記憶を思い出すとまずやるべきことがある。Sランクパーティーが引き起こした爆発のせいで、森へ火が放たれたんだった。
この里がどのぐらいの位置かは知らないけど、あれだけの規模の爆発だ。早急に対処しないと、いずれここも火の海となってしまう。
【人間はロクでもないのばっかしだな。だが、問題はない。あっちの空を見てみろ】
「空? ……なんだか、あそこだけ雨雲が見える。黒い煙も立ち込めてるけど?」
【お前が言う爆発があったのはあの辺りだろう。確かにかなり燃えたらしいが、あの雨雲から降り注ぐ雨が消してくれてる。ここから見ても、もうほとんど消えてるみたいだい】
「そ、そうなの?」
心配して事情を説明するも、慌てる気配はない。それどころか、カミヤスさんの言う通り雨で火が得されてるのが遠目にも見える。
結構離れた位置だけど、大きな雨雲が火をかき消してるみたい。なんだか不思議な光景。
雨雲なんて人間でどうにかできるものじゃないし、この森自体が特別なのかな? イルフ人なんて種族が住んでて、パサラダにも精霊伝説なんてあったし。
「大人の人達から聞いたんですが、この森がある一帯は他の場所より気象の変化を受けやすいみたいです。大きな火が立ち上っても、気流によってその場所に雨雲が集中。森で火事が起こっても、ああして消してくれるんです」
「はえー……凄い。森自体が生きてるみたい」
トトネちゃんも教えてくれたけど、やっぱり『この森が凄い』ってことみたい。本当に不思議がいっぱい。
イルフ人がいるだけでなく、ツクモまでいる。この場所も木の上に作られて特殊だし、これまでの旅より大きな発見でいっぱいだ。
雪山でのデプトロイドも不思議だったけど、それとはまた違う。『人の力の不思議』というより『自然の不思議』みたいなのを感じる。
――さっきから驚いてばかりで『みたいな感じ』ってコメントしか頭に浮かんでこない。
「それより、あなたはイルフ人に興味があるんですよね? だったら、まずはこの里の長老様のもとへ行きましょう。あなたのことは少し話しましたし、ツクモの宿った刀を持ってるのも気になります」
【だから、俺はツクモではないんだがな……。とはいえ、ここでのお偉いさんの話は聞きたいか】
「うん、同感。トトネちゃん、その人のところへ案内して」
「了解です! あの中央の高台にある家に長老様はいらっしゃるので、ついてきてください!」
ただ、驚きつつもさらなる情報は欲しい。トトネちゃんも案内してくれるみたいだし、今はお言葉に甘えよう。
それにしても、ここでの移動は骨が折れそう。広くはないけど、里全体が木の上に作られてる。高低差も結構なもの。
トトネちゃんが指差す高台にしても、間にある橋をいくつも渡らないと――
フワッ
「さあ、こっちです。カミヤスさんの力で風に乗れば、長老様のもとへはひとっ飛びです!」
「ふえっ!? ト、トトネちゃんが浮いた!?」
イルフ人。それは神秘の種族。




