その少女、人攫いの一団と戦う
四人いるとはいえ、ミラリアは魔王ゼロラージャと戦ったほどの実力者。
「ッ!? やっぱり、あなた達の狙いはイルフ人……! しかも、パサラダで聞いた人攫いの……!?」
「おや? その様子だと、僕らより詳細を知ってるのかな? ……だったら、こうするのはどうだい? 目的の種族を捕らえられたら、売り飛ばした報酬は山分けってね。君だって金銭は必要だろう?」
その場に踏みとどまって予想した通り、このSランクパーティーこそがパサラダで聞いた人攫いの一団だった。
思い出せば、タタラエッジの坑道でも『私とシャニロッテさんを毒で動けなくして捕らえる』という行動に出た人達だ。まさかこんなところまで来て、イルフ人まで狙ってるとは予想外。
本当に飽きない人達。こうなってくると、無視して退散とはいかない。
「私がそんな話に乗るわけない。何より、あなた達がイルフ人を狙ってるならば、こっちこそこの場で成敗させてもらう」
「おいおい? せっかくリーダーが金になる話を持ち出してくれたのに、無下にすることないだろう? お嬢ちゃんもそのイルフ人とやらを探してるなら、一緒の方が捕らえやすいだろ?」
「私はイルフ人を捕らえたいんじゃない。会ってお話したい。……あんた達のような人攫いと一緒にしないで」
魔剣を腰へ携え直し、いつでも居合を放てるように構えはできた。Sランクパーティーはどこか私を説得するように話を振ってくるけど、こんな話に聞く耳を持つ必要などない。
そもそも、人攫いはとても悪いこと。攫った人の自由を束縛すること。そんなことは許されるはずがない。
――人の尊厳は傷つけない。スペリアス様の教えの果てに私が学んだ教訓だ。
【……ミラリア。俺も今回は遠慮なしで問題ないと思ってる。Sランクパーティーだともてはやされてるみたいだが、キツめに灸を据えてやれ】
「うん、分かってる。……お灸、持ってないけど」
【物の例えだ。つうか、わざと言っただろ? お前も知ってる言葉だろ?】
「うん、知ってた。でも、こんな冗談が言えるぐらいには冷静」
内心では怒りがフツフツしてるけど、こういう時こそ心を落ち着けるべき。ただ荒れ狂うだけの剣技では、居合の威力を最大限に発揮できない。
ツギル兄ちゃんとも小言を交え、気持ち的にも準備は万端。戦うしかない以上、私だって手を抜かない。
パサラダの人達を困らせてる上にイルフ人を狙う悪い人達なんて、ここで私が食い止めてみせる。
「……どうやら、おとなしく従う気はないってことね」
「だったら相手するっきゃないね! タタラエッジでは魔王軍に後れを取ったけど、あんた一人ならこっちのものよ!」
向こうも私のことをこのまま見過ごせないと判断して当然。ここで逃がせば、また都合の悪い話を広められる恐れがSランクパーティーにはある。
そのためにまず動いたのはウィザードさん。両手に火炎魔法を灯し、私目がけて発射してくる。
「攻撃への切り替え速度は流石。でも、私だってとっくに準備できてる。……何より、あなた達の実力はユーメイトさん以下」
だけど、慌てる必要はどこにもない。前もって魔剣は構えてるし、居合のための脱力もできてる。
確かに魔法は中々だけど、ユーメイトさんほどの脅威は感じない。威力にしても、多分シャニロッテさんの方が上。
周囲の評判では凄いみたいだけど、やっぱり見てみないことには計りきれない。『百聞は一見にしかず』とはこのことか。
「ちょっと新技を試してみる。ツギル兄ちゃんも鍛え直してもらったし、理刀流にミラリア流アレンジを加えてみたい」
【余裕綽々だな。まあ、それだけの実力差があるのは俺にも分かる。やりたいようにやってみな】
火炎魔法は球状になって迫って来るけど、スピード自体も大したことない。ゼロラージャさんと戦った後なら尚更遅く感じる。
そんなわけで、ちょっと馬車で思いついた新技を試すにもいい機会。アテハルコンで強化された魔剣ならば、本来の理刀流の技にさらなる上乗せだってできる。
「刃界理閃・煌!!」
シュパパァァアンッ!!
「えっ!? 斬撃が私の魔法を!? それどころか、こっちにまで斬撃が!?」
「マ、マズいわ! 障壁展開!」
これまでの刃界理閃は周囲へ斬撃を展開し、防壁として使うことがほとんどだった。でも、この刃界理閃・煌は違う。
空を斬る刃を前方へ無数に放ち、相手の魔法をかき消しながら攻撃も同時に行える。魔剣が強化されたことで、ユーメイトさんの氷風冥槍に近い技も使えるようになった。
ヒーラーさんに魔法の障壁で防がれたけど、初手としては上々。舞い注ぐ斬撃はまさに煌めく鳥の如し。
「大した剣技ではあるが、僕らはチームプレーが本分でね!」
「そんな大技を使った後なら隙だらけだろぉおお!!」
新技の手応えを感じる間もなく、今度はリーダーさんとタンクさんが間合いを詰めての接近戦を仕掛けてくる。
私の意表を突いたつもりらしいけど、これぐらいは予測の範疇。てか、見えてた。
抜刀後の納刀だって忘れてないし、残心を取りつつも警戒はそのまま。厳しい旅の中で、私自身もさらなる成長を遂げている。
――とはいえ、一度に二人はちょっと厄介。ここでも新技を試してみよう。
「反衝理閃・周!!」
キンッ――バシュゥゥウンッッ!!
「カ、カウンター!? しかも僕ら二人同時に!?」
「ダ、ダメだ! 俺の守りでも防ぎきれねえ!?」
次に放つは、理刀流反衝理閃のミラリア流応用版、反衝理閃・周。これまたいつもの反衝理閃とは一味違う。
リーダーさんの剣を鞘で受け止めるところまでは同じだけど、その衝撃を活かして抜刀する際、体をひねって刀身をさらに加速。範囲も正面の相手だけでなく、独楽を回すように周囲一帯へと拡大。
これなら二人同時に襲ってきても大丈夫。ゼロラージャさんと戦った時も、この技を使えれば青色の時間で有利に立てたかも。
「とはいえ、私も魔王軍との戦いがあったから成長できた面はある。……そっちはどうする? まだやる?」
「く、くうぅ……!? 完全に僕らをコケにしてくれる……!」
今の攻防だけ見ても、私一人の方が圧倒的に強いのは明らか。そう見せつけるようにも振舞った。
だって、別に長々と戦いたくないもん。こっちとしては早々にSランクパーティーを捕らえ、人攫いの犯人としてパサラダにでも突き出したい。
イルフ人探しだってまだ途中だし、無駄な労力は省きたい。時間かかりそうだし。
そんなわけで、偉そうだけど降参を促す。この程度ではゼロラージャさんの足元にも及ばない。
どうにか諦めてくれればいいんだけど――
「……クックックッ。だが……甘いな! 僕らが先にこの森へ入っていたことを忘れたか!?」
ゼロラージャと違い、この一団は正々堂々なんて考えてない。




