その少女、大農村に到着
新章、まずは大農村パサラダへ。
魔王との激闘を終えても、ミラリアの旅は終わらない。
タタラエッジを旅立ち、じっくりコトコト馬車の旅。距離はあるけど、道中で問題が起こることはなかった。
途中で御者さんやお馬さんと一緒に休憩を挟んだり、行商人さんと交流したりもあった。
そんなこんなと進むこと数日。私達はようやく最初の目的地となる大農村パサラダまで辿り着いた。
「ふあぁ……! 広い草原に牛さんやお馬さんとかがいっぱい……!」
「パサラダは人口こそ多くはないが、広さはかなりのものだ。まずは練り歩くのも一興だろう。こっちもついでで仕事があるし、お嬢ちゃんとはここでお別れだな」
「うん、ありがとう。お馬さんにもよろしく」
タタラエッジから送ってくれた御者さんとも別れ、馬車を降りて再び一人と一本旅へ。タタラエッジでは大きな騒動に巻き込まれたけど、パサラダでは今のところそんな気配はない。
見渡せば目に入るのは、喧騒ではなく穏やか過ぎるほど平穏な光景。馬さんに牛さんに鳥さんがのんびりする草原もあれば、大きな畑にたくさんの野菜も実ってる。
人は少ないけど、みんな頑張って作業してる感じ。タタラエッジで最初に感じた魔王軍との緊張みたいなのもない。実に平和。
「この雰囲気、エスカぺ村に近い。大自然の息吹を感じる。やっぱり、こういうのが好き」
【これまでは人の喧騒ばっかりだったからな。イルフ人の隠れ里を探す前に、ここで息抜きしていくか。ミラリアも長い間馬車の中だったしな】
「うん、そうする。動けなかったから、体がギクシャク」
懐かしさも感じる空気で悪くない。まだここは目的地の通過点だけど、一度準備も含めて見て回りたい。
馬車で凝り固まった体をほぐしつつ、まずは適当にパサラダの中を見て回る。本当にのどかな農村であり、タタラエッジでの戦いが懐かしくもなる。
あれから少し日も経ってるとはいえ、のんびりとした時間が恋しかったところだ。ここで羽休めするというツギル兄ちゃんの意見にも同意。
「クンクン……何やら、美味しそうな匂いもする。アホ毛の感度も絶好調」
【早速始まったか。ミラリアの食べ歩き大作戦】
「やっぱり、新しい場所に来たらそこの美味しいものを食べたい。馬車での食事は質素だったし、エネルギー補充としても大事なこと」
【はいはい、分かってるさ。あんまり無駄遣いしすぎない範囲で好きに食べればいいさ】
そうと決まれば、まず探し求めるのはやっぱりご飯。パサラダは農業が盛んなようで、少し鼻とアホ毛を利かせればすぐに食べ物の気配を感じられる。
これからさらに西にある未開の森へ踏み入るんだし、今の内にご飯で英気を養うのも大事。ツギル兄ちゃんを腰に携え、広い農場の間を抜けながらまずは散策だ。
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「んむ~……! このピッツァという料理、なんともやみつきになる味わい! 白いトロトロが癖のある匂いだけど、これはこれで味わい深い! フワフワサクサクした上に乗ったソースやお野菜も絶妙!」
【本当に食べるとなると口数が増えるな。……これでこいつが魔王と戦ったなんて、知らない人に言っても信じないだろうな】
そして、早々に私のアホ毛にティンと感知するご馳走を発見。ピッツァというらしく、お店に入って早速注文。流れるようにいただきます。
口に含んでみれば、実に濃厚で魅力的な味わい。上に乗ったチーズという白いトロトロは癖があるけど、私的にはオッケーだ。
なんだか、エスカぺ村にあった納豆に近いものを感じる。あれはネバネバだけどトロトロと言えなくもなかった。もしかすると、このネバネバトロトロが美味しさの秘訣なのかもしれない。
「フゥ……ごちそうさま。もっと食べたかったけど、無駄遣いはダメ。少し休んだらまた進むんだし、腹八分目が大事」
「こんな農村に若い娘っ子が来るとは珍しいのう。わしの店のピッツァは満足じゃったかえ?」
「あっ、店員のおばあさん。私、大満足。これ、代金。ごちそうさまでした」
パクパクどんどん口にして、あっという間に完食。その土地柄の料理とはやはりいいものだ。
店員のおばあさんもにこやかに対応してくれるし、パサラダは実に居心地がいい。エスカぺ村に似た風土だし、旅でなければここで生活したいぐらいだ。
「ところで、お嬢ちゃんは冒険者かのう? この辺りは農業こそ盛んじゃが、あまり冒険者の目に留まるものはないはずじゃがのう?」
「私達、ここからさらに西にある森を目指してる。そこに目的のものがあるかもしれない」
「なんと……西の森林地帯へか? 別に止めはせぬが、今は避けた方が良いと思うのう……」
「むう? どうして?」
とはいえ楽園を目指すたびである以上、いつまでも居座るわけにはいかない。ついでだから、おばあさんにも少し話を聞いてみよう。
そう思ってまずは西の森について話題に出すも、途端に渋い顔をされてしまう。解くべ悪くはないけど、何かマズいことがあるって感じ。
「お嬢ちゃんがパサラダへやって来る少し前の話じゃ。噂によると、人攫いの一団が西の森へ踏み入ったそうでのう。お嬢ちゃんも可愛らしいから、下手をすれば捕まってしまうかもしれぬ……」
「人攫い……またロードレオみたいなことをする人達がいるのか。でも、私はそれぐらいで諦めたくない。忠告は嬉しいけど、一度は踏み行ってみる」
なんだかロードレオだけでなく、直近で出会ったSランクパーティーのことも思い出しちゃう。悪いことをする人って、本当にどこにでもいるものだ。とても困る。
でも、その程度のことが理由で私の旅は止まらない。いっそのこと、森に潜むという人攫いも成敗しちゃおう。
イルフ人がいた場合、そっちの方が安心できるよね。
「まあ、お嬢ちゃんなら森を荒らすようなことはせぬじゃろう。心優しい人間ならば、精霊様も快く受け入れてくれるはずじゃ」
「精霊……様?」
おばあさんも深くは言及せず、私が森へ向かうことはすんなり了承してくれる。ただ、気になる話が一つ。
『精霊様』って何だろう? ゼロラージャさんみたく、魔王のように偉い人でも住んでるのかな?
ジャカジャカジャン、ジャッジャ~ン! ジャカジャカジャン、ジャッジャ~ン!
「ふえっ!? 急に軽快な音楽が流れてきた!? これが精霊様の仕業!?」
「いや、これは全く別じゃ。……あやつめ、村に来訪者が来るといつもこれじゃわい」
そうこう精霊様について悩んでくると、突如店の外から鳴り響くホップなメロディー。ついつい気になり、外へ出て確認してしまう。
よく分かんないけど、なんだか踊り出したくなるビートを感じる。カッコいい音楽だ。
ただ、これは精霊様とは関係ないとのことだけど――
「ハッハッハー! パサラダに伝わる精霊伝説を聞きたいかい!? ならば、俺が教えてしんぜよう! 愛と正義と野菜の戦士! キャプテン・サラダバー! とぉう!」
「ふえっ!? 野生の緑色の人が飛び出てきた!?」
「……いや、あれは村人の一人じゃ」
あの激闘の後に変なの出て来ちゃった。




