その魔王、闇瘴を御する
魔王軍が求めていたものとは?
「ゼロラージャ様、お待ちしておりました」
「うむ。調査の程、ご苦労であったな、ユーメイト。もう眼鏡を失うこともなく、しっかりと闇瘴を辿ってくれたか」
「この最強メイドの冥途将、同じ過ちは何度も繰り返しません。いざという時のため、予備の眼鏡を三十個用意しておきました」
「……そこまで数を揃えるなら、もっと別の方法を考えてはどうだ? 持ち歩くにもかさばるであろう? まあ、今はウヌの眼鏡など関係あるまい」
暗くて分かりづらいけど、ゼロラージャさんが触れた壁の近くからは闇瘴が湧き出ている。どうやらユーメイトさんが見つけたらしく、奥の暗闇から眼鏡を光らせて姿を見せてくる。
何やら異様に眼鏡な話も流れるけど、そういえば魔王軍って闇瘴のことも追ってたんだったっけ。以前、ユーメイトさんが体に蓄積しすぎた闇瘴で苦しんでたのを思い出す。
「こ、これが闇瘴ですの!? わたくしも噂に聞いた限りですが、なんと禍々しい力……!?」
【あ、あまり近づくな! この力は危険だぞ! おい、魔王! こんな場所に俺達を連れてきてどうするつもりだ!?】
「安心せよ。ウヌらに危害は加えぬと約束したであろう? ……ユーメイト共々、下がって見ているがよい。ここからは我の出番ぞ」
そんな闇瘴を前にしても、ゼロラージャさんが引く様子はない。魔王だからなのか、闇瘴の近くでも苦しむ様子もない。
むしろユーメイトさんを含む私達を後方に下げ、一人で闇瘴の溢れる壁に手を当てている。いったい、何をするつもりなんだろう?
「ぬぅぅうん……カアァ!!」
ズズゥゥ
「ふえっ!? あ、闇瘴が消えていく!?」
【こ、これってまさか、魔王が闇瘴を吸収――いや違う! 浄化したのか!?】
不思議に思いながらも眺めていると、ゼロラージャさんの手で闇瘴がどんどんと消えていく。
吸収しているわけじゃない。私も一瞬そう思ったけど、こういった気配に敏感なツギル兄ちゃんも否定してる。
――ゼロラージャさんがやってるのは闇瘴の浄化。それこそ、フューティ姉ちゃんと同じようにだ。
「……ふむ。これで問題はなかろう。奥底に眠る闇瘴がかなり強大だった故、一度闇瘴玉に封じるのも難しかったか」
「ゼロラージャ様が直接赴いていただき助かりました。私だけではこうもいかなかったでしょう」
「色々と眼鏡で醜態はあったが、こうして目的を果たせたことは大義であったぞ。ユーメイト」
完全に闇瘴の浄化が終わると、ゼロラージャさんとユーメイトさんの間で主従の会話が繰り広げられる。
今回は眼鏡もバッチリだし、ユーメイトさんが明後日の方角を向くこともない。しっかりゼロラージャさんの方角へ膝をつき、敬意を態度で示してる。
ただ、連れてこられた私達の方は置いてけぼり。魔王軍が闇瘴を追ってたのは知ってたけど、どうして浄化なんてしたんだろ?
それが目的でもあったみたいだし、こっちとしても闇瘴は怖いからない方がいい。でも、理由の方はチンプンカンプン。
「そしてこの奥に……やはりあったか。ほれ、ウヌら人間の求めていたものぞ」
「求めていたもの? ……むむっ!? これってまさか……!?」
「ア、アテハルコンですの!? 闇瘴が湧いていた奥にアテハルコンの鉱脈が眠ってますの!?」
【ほ、本当にどうなってるんだ!? これじゃまるで、アテハルコンから闇瘴が湧いてたみたいじゃないか!?】
ただでさえ分かんないのに、さらに驚きのものが闇瘴の湧いてた場所から現れる。
私もホービントさんに魔剣を鍛え直してもらった時に見たから覚えてる。あの神々しく青く光る鉱石こそ、元々タタラエッジと魔王軍が激突することになった発端。神の金属、アテハルコンだ。
これはますます分からない。どうして、神の金属が闇瘴という邪悪な力の下から現れたんだろう?
ツギル兄ちゃんも言う通り、まるでアテハルコンから闇瘴が発生してたみたいだ。
「その魔剣の見解で間違いないぞ。先程の闇瘴はこのアテハルコンより生じていたもの。魔王軍の狙いはアテハルコンの入手であったが、そのためにも闇瘴を浄化する必要があった。かなり強大なものだった故、魔王である我自らも出張る必要があったのだ」
「こ、これだったら、仮にタタラエッジの人達がアテハルコンを発掘しても、一切手出しができませんでしたの。むしろ、魔王が浄化してくれて助かったぐらいですの……」
「でも、どうしてアテハルコンから闇瘴が湧き出てたの? 神の金属なのに?」
「成程、人間どもはそこの事情を知らぬか。まあ、我もまだまだ未開な部分はある。この際故、知っていることを教えてやろう」
私達からすれば不可解な場面も多く、むしろゼロラージャさんや魔王軍に助けられてる感じすらする。
闇瘴についてはエスターシャでフューティ姉ちゃんと再会した時から関わってるし、アテハルコンだって元々はロードレオ海賊団が最初だ。長い因縁のようなものだってあるし、私だって詳細を知りたい。
ゼロラージャさんも少しは語ってくれるみたいだし、これは心して耳にしよう。
――楽園に繋がるだけでなく、何かもっと世界の奥底に繋がる気配さえ感じる。
「元より、代々魔王の座に冠してきた者の記憶にとって、闇瘴はこのように呼ばれておる。……『地上に溢れた神の苦痛』とな」
闇瘴とは、神に繋がる要因なり。
そして、神とは――




