その少女、賞賛される
今回のミラリアは素直に賞賛を受けられるだけの活躍をした。
「ごめんなさい……ってこと? そのことなら、私は気にしてない。むしろ、最後の最後で信じて応援してくれたのが嬉しい。……でも、よく信じてくれたよね?」
「ああ、あの時のことか。ホービントさんが街中を走り回って駆けつけてくれたのもあるし――」
「そもそもお嬢ちゃんを悪者扱いしてたSランクパーティーの連中がいただろ? あいつら、大口叩いておいて夜中にさっさと逃げ出したみたいなんだ」
「だから、余計にお嬢ちゃんのことを信じたくなったのさ。闘技場から凄まじい物音も聞こえてたしな」
話を聞いてみれば、こうして集まってくれたのは私へ謝罪したかったからとのこと。決闘の時は急だったけど、何があったのかも掻い摘んで教えてくれる。
ホービントさんが呼びかけてくれたこともあるけど、同時に私が疑われる元凶となったSランクパーティーの人達までいなくなってたとは。
あの人達、仮にも『カムアーチの危機は自分達がどうにかする』みたいなこと言ってなかったっけ? なのにそれを無下にして、勝手にいなくなるのはいただけない。
私のことを嘘つき扱いしたのに、あの人達の方が嘘つきだ。これには内心ムッとしてくる。
「俺らもSランクパーティーとかいう名前だけで見て、しっかりお嬢ちゃんと向き合えてなかった。そのことについては弁解の余地がない……」
「大丈夫。気にしないで。最終的に信じてくれて、応援にも来てくれた。作戦も考えてくれたし、あなた達がいなければ勝つこともできなかった。こっちこそ感謝してる。ありがとう」
「こ、こんな寛大で清い心を持った少女を疑ってたとは……!? 本当に自分達の不甲斐なさが情けない……」
一度は嘘つき扱いもされたけど、最終的にはみんなのおかげもあった。だから、もう余計なことは言わない。
みんなの作戦と声援で勝利できた。その事実と結末さえあれば十分。
人は誰だって間違うし、そこからどうやり直すかが一番大事。
――私だってディストールから始まる今に至るまで、そうすることで成長できた。今回のことだっていい経験になっただろう。
クキュルルル~
「な、何だべ? この気の抜けるような音は?」
「あっ、私のお腹の虫さん。ずっと寝込んでたからお腹ペコペコ。何か食べたい」
「ハハハッ! あれだけの戦いから目覚めたってのに、なんとも肝の座ったお嬢ちゃんだ!」
「何か食べたいものはあるかい? 遠慮なく言ってくれ。すぐに用意するからさ」
「むう……それなら、ウドンが食べたい。あれ、気に入った」
「ああ、任せときな! タタラエッジの料理人に頼んで、すぐに最高の一品を用意するさ!」
あれこれ話を進めてると、私の空腹が限界みたい。ずっとお腹が空いてたし、まずは何か食べないと収まらない。
お腹の虫が鳴いてしまったけど、みんな快く受け入れてくれる。その笑顔に裏なんて感じないし、勘繰る必要がないのも読み取れる。
今だけは甘えさせてもらおう。ゼロラージャさんとの激闘の後だから、どうしても疲れが勝ってしまう。
■
「けぷっ。美味しかった。私やシャニロッテさんのウドンもいいけど、やっぱり本場は一味違う」
「わたくしまでお呼ばれしてしまいましたの。大変、美味でございましたの」
【あれだけの激闘の後なんだ。ミラリアだけでなく、シャニロッテちゃんも応援で疲れただろう。今はしばらく休息を優先してくれ】
タタラエッジの料理人さんが振る舞ってくれたウドンは『まさしくこれぞウドン』って感じの味わいで大変満足。ホービントさんが食べてた茶色いフワフワも乗ってて、これまた絶妙な味わい深さであった。
なんでも『アブラ揚げ』というらしく、タタラエッジでウドンと言えばこれが定番らしい。お出汁が染み込み、納得のいく味であった。
そんな私達だけど、今は部屋にシャニロッテさんやツギル兄ちゃんも含めて三人だけ。まだ私も目が覚めたばかりなので、ホービントさん達が気遣って時間をくれた。
こっちとしては助かるけど、魔王軍の問題はひとまず片付いたんだ。その次にやりたいことだってある。
「とりあえず、ホービントさんにドワルフさんの話をもっと聞きたい。魔王軍の件も落ち着いたから、今度は楽園を目指す旅の――うぐぅ……!?」
【おいおい、気持ちは分かるが無茶するな。まだ全快には程遠いんだし、次に動くのはもう少し待て】
「そうですの。大事な旅みたいですが、無茶はいけませんの。傷が癒えるまで、おとなしく休むのが一番ですの」
今回、魔王軍とあれこれあったのは私にとって寄り道とも言える。見過ごせなかったから戦ったけど、本当に目指したいものはもっと別。
スペリアス様が待つ楽園を目指す旅路。そのカギを握るエスカぺ村の鍛冶屋さんこと、ドワルフさんというイルフ人の存在。
一段落ついた今こそ話を聞くため立ち上がろうとするも、まだ体に力が入らない。やはり、ゼロラージャさんとの決闘で受けたダメージは甚大だ。
ここまで痛めつけられたのって、エスカぺ村での修業どころか旅に出てからも初めてだ。つくづく、よく生き残ったとも思う。
ただ、ゼロラージャさんって全力を出してたわけじゃない。『催し』と称して、どこか遊んでた側面が強い。
もしも最初から本気を出し、余計なルールなんて設けていなければ、私に勝ち目なんて万が一にもなかった。今更だけど、魔王というのは不思議なものである。
そもそもの話、ゼロラージャさんはどうして決闘なんて形を取ったのだろう? アテハルコンの入手は魔王軍としても大事じゃなかったのかな?
もういないから話を聞けないけど、せめてその辺りをもっと詳しく――
ヒュン
「うむ。思った通り、余計な人間はおらぬか。我のような魔王が語るには、部外者は不要というもの。……しばらくぶりぞ、剣客の少女よ」
「あ、あなたは……!?」
「で、出たですの!?」
【魔王……ゼロラージャ!?】
――聞きたいなと思ってたら、なんと当人が転移魔法で部屋に現れた。
この魔王、フリーダム。




