◆魔王ゼロラージャⅥ
魔王ゼロラージャ戦最終局面!
知り難きこと陰の如く & 動くこと雷霆の如し
大勢の気持ちを背負い、残りの時間を耐えきれ!
「此度は小細工などせぬ! 我もこの大剣をもってして、全力で挑ませてもらうぞぉおお!!」
「ッ!? 直接斬り込んできた!?」
杖を黒い大剣へと変化させたゼロラージャさん。その動きについてもこれまでとは大違い。
弓で矢を射るわけでもなく、斧で爆炎を飛ばすわけでもない。打って変わっての近距離戦。それがこの黒い大剣での戦い方ってことか。
「こ、この振り抜きは……!? ま、魔剣で防御もできない……!?」
【遠距離攻撃ばかりだったのに、近距離戦でもここまで強いのか!? 魔王って反則だろ!?】
「元より、ウヌらもその覚悟はできていたであろう!? さあ! 逃げ切れるものなら逃げ切ってみよ! だが、我とて逃がすつもりはない!」
さっきまでとの大きな違いは距離。大剣を振るう風圧だけでも凄いし、一振りごとに黒い雷のような波動まで襲い掛かって来る。
ただ何より厳しいのは、攻撃自体が『ゼロラージャさんと一緒に追いかけてくる』ってところ。
矢も爆炎も離れた位置から放たれていたため、攻撃の軌道自体は直線的だった。だからこそ、こっちにも回避できる余裕があるにはあった。
だけど、今は距離を詰めてこちらの回避にも反応してくる。攻撃と攻撃の感覚も短い。
これでは回避に余裕がない。逃げる作戦に打って出たのに、それを潰すかのような戦法だ。
「ドラララァ! だんだんと動きが鈍っておるぞ!? この闘技場という限られた空間の中で、まだまだ残された時間を逃げ切れると思うなぁぁあ!!」
「くうぅ……!? に、逃げてるだけじゃもたない! 反撃しないとマズい! だけど……!?」
意識を縮地による回避に集中させても、どんどんと追い込まれてジリ貧になってしまう。ずっと追いかけられてるから、プレッシャーだってこれまで以上。
少しは反撃して隙を作らないとやられる。でも、黒い大剣の前では魔剣なんて爪楊枝。
下手すれば折られてしまい、ツギル兄ちゃんが――
【ミラリア! 俺を抜刀しろ! いくら規格違いの大剣が相手でも、少しぐらいなら持ちこたえられる!】
「ツ、ツギル兄ちゃん!?」
――そう思って戸惑ってたけど、なんとツギル兄ちゃんの方から願い出てきた。
ゼロラージャさんの大剣の破壊力は理解してるはず。斧の爆炎がそのまま降りかかってくるのと同じぐらいの威力だ。
それでもこうして願い出てくれたのなら、私は――
ガキィンッ!!
「ぬう!? 反撃する気か!?」
「お願い、ツギル兄ちゃん! 少しの間だけ耐えてて!」
【任せろ! みんながお前を信じたように、お前も俺を信じればいいんだぁぁああ!!】
――その言葉に従わせてもらう。もう迷ってる暇もなく、ツギル兄ちゃんを信じて魔剣を鞘から抜き取る。
ゼロラージャさんの大剣を捌くためには、納刀したまま鞘で流すのは難しい。かといって、居合で抜刀と納刀を繰り返す時間さえも惜しい。
だから、ここは私達にとっての禁じ手を使わせてもらう。魔剣を『抜刀したままの状態』で扱い、ゼロラージャさんの大剣をギリギリで弾き続ける。
この状態はツギル兄ちゃんにとって、魔力も魂も過度に消耗する諸刃の剣。レオパルさんと戦った時のように、抜刀状態が長続きすることはツギル兄ちゃんの命を削ることになる。
【心配するな、ミラリア! ホービントさんに鍛え直してもらったおかげか、以前よりは抜刀状態が維持できる! お前はただ、あの黒い大剣を捌くことだけ考えてろ!】
「ドラララァ! 剣客の小娘だけでなく、扱われし魔剣も大した度量ぞ! ……気に入った! もっと抗ってみせよ! この魔王ゼロラージャへ……立ち向かってみせよぉぉおお!!」
ただ、事前にホービントさんがアテハルコンで鍛え直してくれた効果がここで発揮されてくれた。
レオパルさんと戦った時と違い、抜刀状態が続いてもツギル兄ちゃんが苦しむ気配はない。ホービントさんの協力もまた、この土壇場で力になってくれる。
「ミラリアさん! ツギルさん! 一秒でも長く踏ん張るですのぉぉお!!」
「ヒットアンドアウェイでいくべ! 攻撃を当てて牽制しつつも、回避を交えるんだべぇぇえ!!」
「おい! こっちも見てるだけじゃなくて合図するぞ! 相手が魔王だからって怖気づくな!」
「あっ! 魔王が踏み込んだ! そのひと振りは回避だぁぁあ!!」
それだけじゃない。観客席に集まってくれたみんなだって必死に応援してくれてる。
体はもうクタクタなのに、その声援を聞けばまだまだ動ける。みんなの気持ちが私を動かしてくれる。
最初は信じてもらえなかった。凄く辛かったけど、今は心から信じてもらえてる。
ディストールでの驕りとは違う。苦しくて辛い中でも見出せる光のようなものを感じる。
――この気持ちを抱いて、負けることなど許されない。
「風が向いてきたようだが、我は加減などせぬぞ! ドラララァァア!!」
ボグォオオンッッ!!
「カッ……ハッ……!?」
【ミ、ミラリア!?】
「きゃぁぁあ!? ミ、ミラリアさんがぁぁあ!?」
ただ、ゼロラージャさんの力はこっちの気持ちとは別に振るわれてくる。
これまでギリギリで弾きと回避を繰り返してたけど、流石に疲労は誤魔化せない。その隙を突かれ、ゼロラージャさんの振り下ろした大剣が襲い掛かる。
大剣による直撃こそ避けたけど、一緒に放たれた黒い雷の波動をまともに食らってしまった。そのせいで私の体は大きく宙を舞い、闘技場の上へと叩きつけられてしまう。
頭も打ったし、これまでに蓄積したダメージも一気に襲い掛かる。
「あぁ……うぅ……」
「そ、そんな……!? ダメだったのか……!?」
「お、俺らが最初から信じて協力してやれば、こんな結末には……!?」
もう体に力も入らない。逃げる以前に動くことさえできない。
あと少しのところまで来たのに、意識さえも薄れてしまう。なんだか、凄く眠い。
なんとなくだけど、これって多分死ぬ時の感覚な気がする。魔王を相手にしたのだから、命の危険だって考えられてた。
だけど、ここまで命が薄れる感覚は初めて。タタラエッジも守れず、旅の目的であった楽園にも到着できず――
「……そんな……ままで……お、終われ……ないぃ……!」
「ッ!? 先の一撃を受けて立ち上がるか!?」
――なんて結末、私は絶対に認めない。魔剣を支えにして、額から血を流しながらでも無理矢理立ち上がる。
タタラエッジだけじゃない。私自身にだって、成し遂げたい夢がある。
何一つ成し遂げられないまま終わるなんて嫌。どれだけ体が壊れそうでも、私にはまだやるべきことがある。
――私はまだ死ねない。どれだけ痛くて苦しくても、生きてやりたいことがある。
「ッ……!? ミ、ミラリア様……! 一度は突き放してきた人間のため、どうしてそこまで……!?」
「……それがかの片割れも望む願望であるか。いずれにせよ、もうこれまでぞ」
「こ、これまでとは――あっ」
「ユーメイトも意識をかの少女に向けずにはいられなかったか。……これにて刻限ぞ」
最早戦うとか以前の状態まで陥ったけど、ゼロラージャさんは大剣を下ろして元の杖へと戻していく。
ユーメイトさんとも言葉を交わしてるけど、つまりどういうことだろう? 頭も強く打ったから、すぐに思考が巡ってこない。
目もボヤけるけど、ゼロラージャさんが何かを指差してるのだけは分かる。
朦朧としながらも、その先へ視線を向ければ――
「砂時計が……全部落ちた……?」
「うむ。定められたルールにより、これにて勝敗は決した。……我の敗北ぞ」
本当に限界ギリギリの勝負を制したのは……ミラリア達人間。




