◆魔王ゼロラージャⅤ
応援は揃った! いざ、最後のチャンスを掴むために!
「つまり、完全に魔王を打ち倒さなくても勝ちになるんだな!? あの竜人メイドの横にある砂時計が――最後の黒い砂が全部落ち切るまで耐えれば、それで勝利なんだな!?」
「そうですの! 今の戦局を見るに、魔王を倒してKO勝ちは厳しすぎますの! ここは時間まで耐えきり、逃げるが勝ちしかないですの!」
「オラも賛成だべ! ここまでずっと頑張ってくれたのに、これ以上の無謀はさせられないべ!」
「相手が魔王なら尚更だ! 向こうも条件に乗ってくれてる以上、やはり時間まで耐える戦法をとるべきだ!」
タタラエッジのみんなも一緒になり、闘技場の隅で作戦会議が始まる。
もう白色の時間に攻めるような体力的余裕もない。でも、シャニロッテさんがみんなにルールを説明してくれたおかげで、光明は見えてきた。
逃げ勝つのは剣客として恥と思えど、もうそれぐらいしか道がない。私とゼロラージャさんの間には天と地ほどの実力差がある。
この白色の時間が終わった後に訪れる、ゼロラージャさん最後の猛攻――黒色の時間。そこで無理に戦わず、回避と防御で耐えきる作戦へシフトし始める。
そこさえ凌げば私の勝利。卑怯でも何でも、これしか勝つ方法はない。
「そうは言っても、本当に持ちこたえられるんだべか!? もう立ち上がるの苦しそうなほどボロボロだべよ!?」
「くっそ! 俺らはこんな健気な少女を信じることもできず、むしろ疑って見て見ぬフリをしてたのか!? 自分の不甲斐なさに吐き気がしてくる!」
「何かないのか!? いっそ、誰かが代わりに出場するとか!?」
「……大丈夫。私がやる。そうするしかない。ゼロラージャさんもここまでルール通りに戦ってくれたし、約束を破られることはない。だから、私が最後まで戦う。せめてみんなは、私のことを応援してほしい……!」
ルール上、この決闘は私が場に出てこそ。余計な横やりはルール違反。
逃げ勝つ作戦とはいえ、それはルールの範疇だからできること。ルールを越えてしまえば、話を聞いてもらう約束さえも叶わない。
私がやるしかない。砂時計の砂が全部落ち切るまで、なんとしてでもこの闘技場に立ち続ける。
――それらの想いがみんなと一つになれば、迷わずその通りにできる。
「人間風情がここまで追い込まれ、無駄に作戦を立てているようですね……」
「それで構わぬ。もとより、我が定めたルールぞ。……ただ、刻限が迫っていることは理解願おうか?」
話がまとまりつつある中でも、時間は待ってくれない。すでに砂時計の色は白から黒に変わる直前で、ゼロラージャさんはスタンバイに入ってる。
ユーメイトさんはどこかイラだってるけど、やはりルールが優先。こちらの話が聞こえていても、戦うゼロラージャさん自身は納得してる。
――ならば遠慮はいらない。ここから先、私はみんなのために耐えきる作戦を選ぶ。
「……それじゃ、行ってくる。ツギル兄ちゃんもワガママばっかりでごめんなさい」
【ワガママだとは思ってないさ。むしろ、みんなのためによくここまで頑張れてる。……今のお前の姿は俺にとって自慢の妹さ。ここまで人の心を動かすのは簡単な話じゃないからな】
よろめきながらも魔剣を手に取り、私は再びゼロラージャさんの眼前へと歩み出す。ここから先は私とツギル兄ちゃんの戦いだけど、決して孤独なんかじゃない。
シャニロッテさんにホービンスさんだけじゃない。タタラエッジのみんなにも信じてもらえた。
作戦だって決まったし、後はやるべきことをやるだけ。
――もうボロボロだけど、体の奥底から不思議と力が湧いてくる。
「ウヌらの狙いは時間切れによる逃げ切り勝利であるか。それもまた良し。だが、我はその願望を全力で打ち砕きにかかる。情けなどかけぬ。……覚悟は良いな?」
「覚悟はできてる。これはみんなで考えた作戦。……あなたこそ『情け』なんて言葉を使わないで。それは私や支えてくれるみんなへの侮辱になる」
「ドラララ……! 実に強き小娘よ。……なれば我も全力にて応じよう! これより『黒』の時間ぞ! これまでと同じと思うでないぞぉ!!」
ゼロラージャさんみたいに声を張り上げる元気も乏しいけど、内なる気力は十分。
砂時計は黒色で最後。ここさえ乗り切れば私達の勝利。
――息を整えながら構えを取り、最後の時間へ今挑む。
「王笏に宿りしオーブよ! その力を示せ! ルーンスクリプト『ᚲᚨᚷᛖᚲᚨᛗᛁᚾᚨᚱᛁ』――知り難き雷霆の黒!!」
白色の砂が全て落ち、とうとう砂時計に残ったのは黒色の砂のみ。それを合図にゼロラージャさんは最後の力を見せてくる。
杖の先端にある宝玉へ手をかざし、その形状を再び変化させてくる。これまでは弓と斧だったけど、今回もやっぱり別物だ。
――光に包まれながら姿を見せたのは、黒く染まった大剣だ。
「この『知り難き雷霆の黒』は、今の我に使える最高の力ぞ! この力を前にして、時間いっぱい逃げ切れるなどと思うな! 我はゼロラージャ! 闘争の世において、魔王の座を掴みし者なり!!」
「もう、どんな攻撃が来ても驚かないし怯えない……! なんとしてでも守ってみせる……! 私はミラリア! 偉大な大魔女に育ててもらった娘!!」
最後の最後で剣と剣の勝負。ただ、斬り勝つことが目的じゃない。
形なんてどうでもいい。無様でも構わない。魔王を相手にして、見栄えなんて考えてる場合じゃない。
――この最後の時間を耐え抜き、必ず勝利を掴んで見せる。
魔王の第3戦闘フェーズ! これが最後だ!




