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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
鍛冶鉱山で衝突する魔王
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◆魔王ゼロラージャⅣ

どれだけ遅れてダサくても、気持ちを動かさずにはいられない。

「こ、この声……ホービントさんに……みんな……?」

「疑ったりして悪かったわ! そこまで傷ついて戦ってるのに、もう嘘だなんて思わない!」

「今更こんなこと言えた義理じゃないが、どうか立ち上がってくれ! お嬢ちゃんだけがこの街の希望なんだ!」


 気を失いそうになる中で聞こえてきたのは、魔剣を鍛え直してくれたホービントさんの声。いや、それだけじゃない。

 頑張って顔をあげてみれば、闘技場の周囲に続々と人が集まってる。みんな一度は私のことを疑ったタタラエッジの人達だ。


「ホービントさん!? こ、これはいったい、どういうことですの!?」

「オラもミラリアちゃんが疑われたままだって状況は嫌だったべ! だから街の連中に声をかけて、必死に説得したんだべ!」

「ドワルフさんの弟子であるホービントさんがあそこまで必死に説得してくれたんだ! せめて決闘の様子だけでも見に来たが、この光景でようやく理解できた! あの女の子はタタラエッジのために戦ってくれてる! 相手が魔王だというのに、たった一人で!」

「それなのに応援さえ拒絶するだなんて、俺らは情けないにもほどがある! 疑った不義理を許してくれとは言わないが、せめて応援だけでも今からさせてくれ!」


 どうやら、ホービントさんがタタラエッジのみんなに掛け合ってくれたらしい。おかげでこうしてみんな応援に駆けつけてくれた。

 気が付けば闘技場の周囲にはシャニロッテさんだけでなく、大勢の応援人が集まってる。みんなみんな、私のために声を上げてくれてる。

 確かに一度は見放しておいて、虫のいい話かもしれない。でも、私のことをようやく認めてもらえた。


 ――その事実が嬉しいし、これだけ応援の声が響けば立ち上がらずにはいられない。


「ゼ、ゼロラージャさん……! まだ、砂時計は赤色のまま……! 自分で作ったルールを、自分で破っちゃダメ……! 私、まだ戦える……!」

「……ドラララ。良い、実に良いぞ! 決闘の場とはこうでなくてはいかぬ! 我も興が乗ってきた! さあ、改めて再開と行こうぞ! 居合の剣客……ミラリアよぉぉお!!」


 鞘に納めた魔剣を支えにしながらも、私は再度立ち上がることができた。みんなの声援を聞くと、もう一度立ち上がる元気が湧いてくる。

 これもまた、言葉では説明できない人間の力、人間の心。

 ゼロラージャさんも意気揚々と赤い斧を構えなおし、再び振り下ろし始める。



 ズゴォォオオンッ!!



「何度も同じ技ばっかりなら、私にだって見切れる! どれだけ凄い技でも、抜け道は掴める!」

「ほう! 回避が上達しておるか! 面白い……実に面白いぞ! ドラララァ!」


 声援を受けたおかげなのか、集中力も戻ってきた。体はまだ痛むけど、それ以上の活力で動くことができる。

 現状、赤い斧による攻撃は遠方からの爆炎のみのワンパターン。範囲も威力も大きいけど、集中すれば回避する糸口だって見えてくる。

 爆炎の合間を掻い潜り、ようやくゼロラージャさんへ接近することができてきた。


「ここまで来おったか! やるではないか、小娘!」

「小娘じゃない! 私はミラリア! 偉大な魔術師の妹で……偉大な魔女の娘!!」


 こっちの攻撃圏内に入るだけでもかなりの苦労。だけど、気持ちに身を任せてようやく手繰り寄せた糸だ。

 こうなったら後は自信を持って挑むしかない。ツギル兄ちゃんやスペリアス様に鍛えてもらった力も信じ、思うがままに放つ居合一閃。



 ズバァンッッ!!



「ぬう!? 我に刃を届かせたか!? ……だが、まだまだ温いぞぉぉおお!!」

「うんぐうぅ!?」


 たった一閃を入れるだけでも、随分と遠かった。この闘技場がだだっ広い荒野に感じるほど遠かった。

 今回はゼロラージャさんが攻撃に意識を回していたため、カウンター気味に居合を入れることに成功。最初よりも確かなダメージを入れられた。

 ただ、その後がどうしても続かない。ゼロラージャさんは再び全身から黒い波動を放ち、私を大きく吹き飛ばしてくる。

 せっかく詰めた距離がまた遠のく。でも、私だってまだ終わりじゃない。


「ミラリアさん! 頑張るですの! まだまだ押し敗けてませんのよぉぉおお!!」

「さっきの一太刀は良かったべ! 今のが行けるなら、まだまだ勝算はあるべ!」

「魔王のペースに惑わされるな! 落ち着いて攻撃を見切るんだ!」

「後は根性だ! 根性ぉぉおお!!」


 私の後ろには応援してくれる大勢の人達がいる。退くわけにはいかないし、退こうとも思わない。

 これが声の力。これが気持ちの強さ。

 シード卿がカムアーチを導いてたのとは違うけど、近いものを感じる。人の想いって、とっても強い。


 ――今の私には剣技と魔剣だけではない力に溢れてる。


「に、人間風情が……!? 都合のいい時だけ声を上げ、ゼロラージャ様の場を乱して……!?」

「怒れるな、ユーメイト。元より、我もこの光景を望んでいた。……それに、ウヌには役目を与えていたであろう? 砂時計の状況ぐらい、しっかり我に伝えぬか」

「えっ!? は、はい! 申し訳ございません! 先程『赤』が終焉し、現在は『白』の時間でございます!」


 声援で立ち上がれたおかげで、戦いの時間を繋ぐこともできた。砂時計による赤色の時間も終わり、再び白色の時間がやって来る。

 ユーメイトさんもゼロラージャさんに怒られながら宣言し、闘技場で巻き起こっていた爆炎も収まってくれた。

 ただ、やっぱりこの間に攻撃はできそうにない。もうとっくにボロボロだし、時間が来ると同時に再びその場へ倒れ込んでしまう。


「ミ、ミラリアさん!? しっかりするですの!」

「あれほどの腕前を持つこの子が、ここまでボロボロにやられるとは……!?」

「これが魔王……!? むしろ、ここまで持ちこたえたのが奇跡か……!?」

「オラ達じゃ手を出せないべ! ルールに関係なく、とてもそんなレベルの戦いじゃないべ! どうすればいいべか!?」

【みなさん、落ち着いてください! この時間、せめてミラリアの回復を――】


 でも、今はこのままで構わない。

 この白色の時間が終わった後――最後の黒色の時間。その時再び、私は立ち上がることができる。

 だって、これだけ心配してくれる声がある。戦ってるのは私と魔剣のツギル兄ちゃんだけど、決して孤独な戦いをしてるわけじゃない。




 ――みんなの気持ちを背負うことができれば、私は何度だって立ち上がってみせる。

ようやく全ての役者が揃った。

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