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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
始まりの村と追及の王国
21/503

その文明、忌むべきものを封印する

ミラリアが見つけたのは、村でも慣れ親しんだ人々の姿。

「ミラリア、何か見つけたのかい?」

「この壁画に書かれた三人がどうかされましたか?」

「う、うん。この三人、エスカぺ村で住んでる人達に似てる」


 私の反応を見て、レパス王子とフューティ様もこちらへとやって来る。

 壁に描かれてるのは『白と赤の服を着た耳の長い女性』『髭を蓄えて恰幅のいい耳の長い男性』『魔女装束を着た長い銀髪の女性』の三人。これらはそれぞれ、巫女さん、鍛冶屋さん、スペリアス様の特徴と合致する。

 抽象的な絵だから断言できないけど、なんとなく三人のことが描かれてる気がする。これって、どういうことだろう?


「もしや、この三人が特にエデン文明や楽園とも深い関りが……?」

「特にこちらの耳が長いお二人については、あちらの壁画にもあった古代民族の特徴とも……?」


 私には分からないことだらけだけど、他二人は考えこみながら壁画を調べている。

 でも、ここに描かれてるのが本当に私の知る三人ならば、直接会って聞くのが一番。そのためにも、早くエスカぺ村に行くのがいいと思う。


 ――正直、私もそっちを優先したい。


「レパス王子、フューティ様。ここから先はエスカぺ村で聞いた方が効率的」

「確かにミラリア様のおっしゃる通りですね。レパス王子、一度ここでの調査は終えてもよろしいかと」

「まあ、少し待ってくれ。すまないが、聖女フューティにここの古代文字を解読してほしい。それを区切りとして、一度引き返すとしよう」


 情報がたくさんあるのは分かった。でも数が多いから、じっくり調べるのは後でいいと思う。

 なのでここは私自身の願望も含め、エスカぺ村に向かうのを急ぎたい。

 レパス王子は壁に書かれた奇妙な文字を気にしてフューティ様に尋ねており、これが終われば晴れてエスカぺ村へ――




「『ここに我らの罪を封印する。苦痛と畏怖の果てにある自我を眠らせる。その名はセアレド・エゴ』――って!? これはまさか、封印の術式!?」



 ギュオォォォオンッ!!



「ッ!? フューティ様!!」




 ――そう思ってたのに、フューティ様が壁の文字を読んでいると、突然吸い込むような風が巻き起こる。

 発生源はフューティ様がいた壁。そこが突然開き、フューティ様を吸い込もうとしてくる。

 何がなんだか分からないけど、とにかく今はフューティ様を助けないと。急いでその手を掴み、私の方へと引き寄せる。


「す、凄い吸い込み……!? 引き寄せきれない……!?」

「ミ、ミラリア様! どうかその手を放してください! この術式は対象一人だけを巻き込むものです! 私一人が巻き込まれます! このままでは、ミラリア様も巻き添えに!」

「そんなこと、どうでもいい……! フューティ様を助けないと嫌……! レ、レパス王子も手伝って……!」


 フューティ様は自分一人が巻き込まれるつもりだけど、そんなの私は嫌だ。

 この人は私がエスカぺ村に帰れるように、ここまで取り繕いでくれた。そんな人を見殺しにはできない。

 かなり強く吸い込まれるけど、レパス王子の力もあればなんとかなるかもしれない。とにかく、早く手を貸して――




「……成程。一人が犠牲になれば済む話か。ならばミラリア、君が聖女フューティの代わりとなりたまえ」



 ドンッ



「……え?」




 ――手を貸してくれると思ったのに、レパス王子は突然私の背中を押し飛ばしてきた。

 そのせいで私の体は穴の中へと吸い込まれていく。逆にフューティ様の方はレパス王子が手を引いて助け出す。


 ――フューティ様と入れ替わるように、私はどんどん奥へと吸い込まれる。


「レパス王子!? 何をしてるのですか!? どうしてミラリア様を!?」

「君の方が今後のためにも必要だ。どうにも、ミラリアはこれ以上僕の手では制御できそうにないからね」

「な、何を言って……!?」


 フューティ様とレパス王子が言い争う声が聞こえるけど、それもどんどん遠ざかっていく。

 この吸い込まれた穴の先がどこかは分からない。でも、一つだけ分かることがある。


 私はレパス王子に捨てられた。フューティ様を助けるため、身代わりにされた。ただ、スペリアス様に追放された時とは違う。

 レパス王子は私のことを『使い捨ての駒』ぐらいにしか思ってなかった。そのことがわずかに聞こえた言葉から感じ取れる。

 スペリアス様のように心配の様子は欠片もない。


 ――私は本当に愚かだった。勇者などと称されてチヤホヤされてたのが馬鹿みたい。


「ふんぎゅぅ!? ……じ、地面に着いた? ここは……どこ?」


 しばらく吸い込まれて体の自由が利かなかったけど、ようやく終着点に来たようだ。

 とはいえ、辺りは暗くてよく見えない。お社があった場所のような神聖さもない。

 当然ここには始めてくるから、何が起こるか分からなくて怖い。


 ――でも、どこか知ってるような気がする。それはそれで妙に怖い。




「ヨウヤク……肉体ガ来タカ……。ワタシヲ……解放セヨ……。ワタシハ……コンナ場所嫌ダ……。一人ハ……寂シイ……」

「えっ……!? だ、誰!?」




 奇妙で複雑な感情が襲ってきてると、奥の方から誰かの声が聞こえてくる。

 とても寂しそうで、どこか暗くて、なんだか寒気がするような声。ただ、目を凝らしてもよく見えない。


 ――いや、正確にはそれそのものがこの暗闇と一体になっているような姿だ。




「ワタシヲ……ココカラ出セ……。苦痛モ恐怖モ孤独モ……モウタクサンダ……」

「な、何……? 巨大な……人影? 黒くてモヤモヤした影の塊……?」

ある意味で二度目の追放。だが、そんなことに悩んでいる暇もない。

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