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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
鍛冶鉱山で衝突する魔王
209/503

その少女と魔王、いざ決闘へ

翌日。ついに決闘の朝。

 シャニロッテさん特製ウドンで英気を養い、その日は早いうちにおやすみなさい。

 そして翌日。とうとうその日がやってきた。

 私とゼロラージャさんによる決闘。明朝からタタラエッジの上にある闘技場へ赴き、いざ未来を決める戦いの幕開けだ。




「ドラララ。本当に来おったな、幼き剣客よ。……って、おい。ギャラリーが一人だけではないか?」

「本当ですね? 昨日あれだけゼロラージャ様が大々的に発表したのに、昨日も一緒だった学生魔術師だけですか?」




 なお、集まったのは向こうが対戦相手のゼロラージャさんに側近のユーメイトさん&魔槍さん。こっちが私と魔剣のツギル兄ちゃん、応援としてシャニロッテさん。

 以上、とりあえず六名。だだっ広い闘技場なのに、これだけしか集まってない。

 これにはゼロラージャさんも肩を落としてる。仮面の下の表情は、きっと苦笑いでもしてるのだろう。


「えっと……ゼロラージャさんが去った後、タタラエッジ内で私のことを色々疑われて……こうなった」

「我も察するに、人間どもの信頼が希薄だったということか。……ドラララ。己らの街が我ら魔王軍に狙われてるというのに、誠愚かな人間どもよ」

「わたくしが百人分応援しますの! ミラリアさん! エイエイオーですの!」


 事情の方はゼロラージャさんもすぐに察してくれた。応援席に座るのはシャニロッテさん一人だけで、その応援も虚しく響き渡る。

 ホービントさんも『タタラエッジの住人』という立場があり、迂闊に応援にさえ出向けなかったようだ。

 とはいえ、こうなることは昨日から知ってた。


「ミラリア様、いかがいたしますか? あなただって、タタラエッジとは関係ない人間です。薄情な人間のため、我らが魔王様と戦う理由もないでしょう? 素直に敗北を認めてはいかがでしょうか?」

「ううん、戦う。私はとっくに戦うって決めてる。今更変更なんてしたくない。たとえ信じてもらえなくても、タタラエッジを守りたい」

「ドラララ。愚かな住人どもと違い、健気で芯の強い旅の剣客なことよ。……我もそれで構わぬ。ユーメイトよ。命じておいた通りに準備せよ」

「かしこまりました。魔王ゼロラージャ様」


 ユーメイトさんはもちろん眼鏡を新調しており、今回は明後日の方角を向いて話すこともない。背中に魔槍さんを背負ってるけど、手に取って構える気配もない。

 今回は戦うためにいるのではなく、あくまでゼロラージャさんのお供。どうやら、今回の決闘の審判をしてくれるっぽい。

 さらにはゼロラージャさんに言われ、何かを闘技場の端へ用意し始める。見た感じ、大きな砂時計のようだ。

 中に入ってる砂は色分けされていて、順番に『白→青→白→赤→白→黒』と流れるようになってる。これって何だろう?


「魔剣の剣客ミラリアよ。我はこういった催しに趣向を凝らす主義だ。観客が少ないのは残念だが、王とは者どもの上に立って鼓舞を示すこともある。趣向を凝らした催しもまた一興」

「昨日から思ってたのですが、魔王さんは想像以上にエンターテナーですの。ですが、この砂時計が何を意味するですの?」

「試合開始と同時に、ユーメイトにより砂時計を刻ませ始める。我はその時の砂の色に応じて戦い方を変えようぞ」

「もう完全にエンターテナーですの……。観客がわたくし一人だけなのが、違う意味で申し訳なくなってきますの」


 シャニロッテさんの言う『エンターカッターン』が何かは知らないけど、つまりはゼロラージャさんなりのルールということか。

 でも、これだと戦い方のタイミングが私にバレバレだ。本当にそれでいいのかな?


「ちなみに、白色の砂の時は我から攻撃を仕掛けることはない。ウヌから攻撃が来れば反撃するが、クールタイムとしても構わぬ。さらに、砂が全部落ち切った時に決着が着いていなければ、ウヌども人間の勝利としてやろうぞ」

【ず、随分とこっちに有利な条件だな……。いや、それぐらいやっても『負ける気は毛頭ない』という自信の表れか?】

「ドラララ。我は魔王。あまねく魔の生を輪廻せし者。これぐらいのこと、ハンデにもならぬ。……それとも、ウヌらは我が全力を前にして絶望するのが望みか?」

「ゼロラージャさんがそれでいいなら構わない。でも、負けてから文句は言わないでほしい。……私達は真剣。勝ってその先を掴むためにここへ来た」


 どうにも、ゼロラージャさんは本気を出す気はないみたい。出されたルールはどれも私に有利なものばかりだ。

 手加減されるのは癪ではあるけど、今回においてはそれでも構わない。

 だって、ゼロラージャさんは魔王。眼鏡ありのユーメイトさんよりも強いのは明らか。おまけに負ければ未来はない。


 ――私の個人的なプライドも、タタラエッジを守るためなら今は捨てる。


【ミラリアはタタラエッジのためにこうして戦ってるのに、その住人達の方が無関心なのは何とも言えないな……】

「でも、やるべきことは決まってる。もう目の前の戦いは避けられない。……この決闘、必ず勝ってみせる」

「ドラララァ! 矮小な少女の手に愚劣な人間の未来が乗せられるか! それもまた一興としようぞ! なれば、条件も承諾されたと我は認識する。……ここから先は気を抜かぬが吉ぞ!」


 こちらの準備は万全。ホービントさんに鍛え直してもらった魔剣を腰に構え、ゼロラージャさんと向かい合う。

 ゼロラージャさんは仮面をつけたまま全身を覆っていたマントを(ひるがえ)し、下にある鎧をまとった大きな体を見せつけてくる。

 そして、右手に持たれたのは先端に宝玉がついた身の丈に合わせた大きな杖。魔剣や魔槍みたいに魂は宿ってないようだけど、何かしら特別な力はありそうだ。


「この杖こそ、魔王が持つに相応しき王笏(おうしゃく)ぞ! さあ、我の準備も整ったぞ! ユーメイトよ! 開戦の合図を!」

「かしこまりました。……ではこれより、魔王ゼロラージャ様と剣客ミラリア様による決闘を開始いたします。どちらかが完全にダウンするか、あるいは砂時計の砂が全て落ちた時点で勝負は決します。……始め!」


 ゼロラージャさんがユーメイトさんに言葉を送り、ついに決闘開始の音頭がとられる。

 いくらこっちに有利な条件を積まれても、相手は魔王。どれだけみんなに嘘つき扱いされても、敗北の先に待つのは破滅の未来。


 ――余計な雑念なんていらない。今必要なのはただ勝利すること。それだけだ。




「さあ、来るがよい! 魔剣を操りし剣客よ! 我こそは魔王ゼロラージャ! ウヌの望む未来を秤に乗せし、魔を司る王なるぞぉお!!」

魔王軍総大将にしてエンターテナー、魔王ゼロラージャ! 圧参!

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