その学生、ファンになる
ミラリアのファン第一号(仮)シャニロッテちゃん!
「『ファン』って……確かお祝いか何かの時にプオンプオン吹く楽器だったっけ?」
「それはおそらく『ファンファーレ』ですの。わたくしが言ったのは『ファン』――つまり、ミラリアさんのことが大好きになったですの!」
「私のことが……大好き?」
何の話か最初は分からなかったけど、とりあえずシャニロッテさんが私へ抱く印象についてはほんのり理解できた。
私のことが大好きらしいのは嬉しい。最初みたいなツンツンは御免被る。
ただ、その『大好き』の形がこれまでと違うっぽい。シード卿の恋とも違うし、家族や友達といったものともまた違う。
――人の関りと感情は多様なものだ。まだまだ知らないことばっかり。
「高い技量を持ちながら、無闇に振るわない精神! どれだけ邪険にされようとも、守るために戦う気概! わたくしにとって、ミラリアさんは勇者のようですの! 尊敬しますの!」
「そ、尊敬……勇者……。気持ちはありがたいけど、あんまり嬉しくはない。勇者呼びは苦手」
「ならば、神様ですの! わたくしにとっての女神エステナですの!」
「か、神様……。それも苦手だけど、もうシャニロッテさんに任せる……」
ともかく、さっきからシャニロッテさんの圧が強い。最初から強かったけど、今は別ベクトルで強くなってる感じ。
悪い気がしないとはいえ、勇者と呼ばれるのだけは勘弁。ディストールでの苦い思い出が蘇る。
だからって、神様と呼ぶのは飛躍しすぎ。それって、女神エステナ様と同列だ。聖女のフューティ姉ちゃんよりも上だ。
――でも、どこかで区切りをつけないとまだまだスケールが上がりそう。もうシャニロッテさんの好きにしてもらおう。
「そんなわたくしの神様がみんなのために魔王と戦うのに、タタラエッジは揃いも揃って薄情ですの! Sランクパーティーのことだって、わたくしはまだ許してませんの!」
「その気持ちは分かる。でも、明日のことであの人達は関係ない。今は流しておく」
「まあ! 流石はミラリアさんですの! 器が広いですの! ならば、わたくしも神の言葉に従いますの!」
【ほ、本当に最初とは大違いな変わりようだな……。まさか、ミラリアが神様扱いを受けるなんて……】
それにしても、シャニロッテさんはさっきからずっと大袈裟なリアクションだ。この辺は最初の頃から変わらない。
ただ、やっぱり神様扱いはくすぐったい。別に嫌いにはならないけど、止めてほしいって気持ちが強い。
こんなことで女神エステナ様と同格に扱われるのも悩みもの。だって、私はただ『アホ毛が器用なだけの人間』でしかないもん。
――とはいえ、私のことを応援してくれる気持ちだけはヒシヒシと伝わってくる。『味方がいる』という事実だけでもありがたい。
「……シャニロッテさん。明日はタタラエッジの人達は来てくれないだろうけど、あなただけでも応援してくれる? ゼロラージャさんに勝てるように祈ってくれる?」
「もちろんですの! わたくしも誇り高きミラリアさんのファンとして、一人で百人分の応援をしますの!」
「た、大変そうだけど、気持ちは凄く嬉しい。……その気持ちに応えられるよう、私も全力で頑張る」
「エイエイオーですの!」
気が付けば、シャニロッテさんとはかなり距離の近い関係になったように感じる。ただ、どこか上下関係のようなものがあるのは気になるけど。
でも、悪くはない。別に神様扱いに驕るのではなく、仲良くなれたことが嬉しい。
――これって、魔剣や剣術が導いてくれたってことなのかな? そもそもスペリアス様の教えがなければ、ここまで辿り着くこともなかっただろう。
「ミラリアさんの旅の目的についても応援してますの! その技量も高貴な精神も、かつてスーサイドに君臨した大魔女のようですの! ミラリアさんなら必ず成し得ることができますの!」
「グイグイ褒めてくれるけど、私は魔女じゃない。一介の剣客」
「ものの例えですの! きっとスーサイドに伝わる大魔女も、ミラリアさんのような人だったに違いありませんの!」
「……大袈裟が飽和してる」
それにしても、シャニロッテさんはどこまで私のことを褒めてくれれば気が済むのだろうか? レパス王子のような仮面の下の悪意みたいなのも見えないし、本心ではあるのだろう。
スーサイドに伝わる偉人とも重ねてくるし、もうシャニロッテさんにとっての私が神様なのか魔女なのか分からない。ますます次元が飛び始めてきた。
――だけど『大魔女』……か。
「ねえねえ、ツギル兄ちゃん。スペリアス様が今の私を見たら、どんな風に感じるかな?」
【そうだなー……『立派になったな』って言ってくれるんじゃないか?】
「だとしたら嬉しい。でも、慢心はできない。……私はまだ、スペリアス様にごめんなさいできてない」
私にとっての大魔女――お師匠様にして育ての母であるスペリアス様。あの人にこそ、私は認めてもらいたい。
どれだけシャニロッテさんに神様と崇められようとも、ペイパー警部やシード卿やスアリさんといった人々に認めてもらおうとも、スペリアス様こそが私の旅の終着点にして頂点。
今はこうして魔王軍の相手で寄り道するけど、これだって私が『必要なこと』だと思ったから。一つの目的のために全部を捨てるのは、きっとスペリアス様だってよく思わない。
そんなのはディストールの二の舞。どれだけ目指したいものがあっても、優先するべき物事はある。
――今の私は最初の頃より、スペリアス様に胸を張れるほど立派になれたのかな?
いずれ『エステナ教団』に対抗して『ミラリア教団』でも勝手に作りそうなシャニロッテちゃん。




