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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
鍛冶鉱山で衝突する魔王
204/503

その鍛冶屋、魔剣を再度観察する

鍛冶屋ホービントだけはタタラエッジで味方してくれた。

「成程……そんな話になったんだべか。まあ、周囲が聞けば突飛な話なのも仕方ないべ。ミラリアちゃんもシャニロッテちゃんも、あんまり街の連中を恨まないでほしいべ。Sランクパーティーのように名声を持った連中の妬みが挟まれば、向こうを信じるのもあり得る話だべ」


 あの後、私とシャニロッテさんに声をかけてくれたのは、通りがかったホービントさんだ。

 タタラエッジのみんなは私の言葉など信じず、Sランクパーティーの嘘を信じてばかり。魔王との決闘も『勝手にやってくれ』って状態。

 そんな中で一人だけ信じてくれたのは、タタラエッジに立ち寄って最初に出会った鍛冶屋のホービントさん。お店の机にお茶を出し、私とシャニロッテさんを招いてくれた。


「確かにわたくしからしても突拍子もない話ですが、ここまで邪険にされるのはあんまりですの。わたくしもあのSランクパーティーに酷い目に遭わされましたし、憧れてたのが恥ずかしいですの。プンプンですの」

「だけど、話し振りからしてホービントさんは私の言葉を信じてくれてるっぽい。それはどうして? 他の人達は信じてくれないのに?」


 内心、私もシャニロッテさん同様にプンプン。それと同じぐらい悲しくてシクシク。

 ただ、そんな中でもホービントさんだけは私達を信じ、こうしてお店で話も聞いてくれる。その態度にしても、疑ってる気配は感じない。

 この人だってタタラエッジの住人。私達とだって、会ってまだほとんど関わってない。

 それなのにここまで信じて話を聞いてくれる理由が見えてこない。この人もまた、何か企んでたりするのかな?


「アホ毛の娘っ子……ミラリアちゃんだったべね。悪いべが、その刀をもう一度オラに見せてくれないべか?」

「ふえ? う、うん。元々はホービントさんに鍛え直してもらおうと思ってたけど……」

「なんだったら、今からでも鍛え直すべ。魔王との決闘前こそ、入念な武器の手入れは欠かせないべ。……ただ、その前に一つだけ確認させてもらうべ」


 とはいえ、今のところ悪い気配は感じない。Sランクパーティーの時みたいに気配を隠してるのかもしれないけど、出してくれたお茶も美味しくて毒などなかった。

 そもそもの話だってあったし、一度魔剣をホービントさんへ手渡す。

 ツギル兄ちゃんもわずかに警戒してるのが鞘からも感じ取れたけど、ホービントさんは外の世界でも数少ない刀を知る人。特に抵抗することなく、黙って観察されている。




「……なあ、この刀に尋ねるべ。もしかして……誰か宿ってるべか?」

【ッ……!?】




 私も素直に待ってたんだけど、マジマジと眺めるホービントさんから突然驚愕の一言。

 刀に対して『誰か宿ってるのか?』なんて、普通は尋ねるはずがない。外の世界を見てきたけど、そんなパターンはかなり希少な例。

 でも、私の持ってる魔剣はその希少な例の一つ。本当にツギル兄ちゃんが宿ってる。


【……あんた、どうして俺の存在に気付いた? まだ何も明かしてなかったはずだが?】

「ホービントさんの言う通り。その魔剣には私のお兄ちゃん――ツギル兄ちゃんの魂と魔力が宿ってる。それは魔剣自身が語る通り」

「魔剣……だべか。やっぱ、誰かが宿ってたんだべね」


 ここまで言い当てられてしまえば、ツギル兄ちゃんも黙ったままとはいかない。素直にホービントさんへ言葉を交わし、私も説明を加える。

 この人、いったい何者なんだろう? これまで魔剣のことがバレることは何度もあったけど、こうして何の脈絡もなく言い当てた人は初めてだ。


 ――もしかして、ただ者じゃないのかな?


「これはまた、あの方の予言通りとでも言うべきだべか……。まさかあの時の刀が、本当にこんな形でオラのところに巡って来るとは驚きだべよ」

「むう? ホービントさん、もしかして魔剣のことを知ってるの?」


 紡がれる言葉を聞いても、なんだか気になることばかり。

 魔剣のように『魂を宿した武器』の存在――ユーメイトさんの魔槍みたいなものを事前に知ってた可能性もある。それなら、何かしら見破る手立てだってあり得る。

 でも、この語り口はそれだけじゃない。もっと大事で、もっと重大な何かを――




「ミラリアちゃんが『魔剣』と呼ぶこの刀を打ったのは、オラの師匠であるドワルフ師匠だべ」

「ふえぇっ!? ま、魔剣を……元々の刀を作った人……!?」




 ――やっぱり、知ってた。これまで私も『そういうものだ』と思ってただけの魔剣について、私以上に知っている人がいた。

 しかも、知ってたのは魔剣の元となった御神刀の作り手について。ホービントさんのお師匠のドワルフさんという人がこの刀を打ったとは驚きだ。


「わ、わたくしはよく分かりませんが、ミラリアさんもタタラエッジに来たのは初めてみたいですよね? どうしてまた、タタラエッジで作られた剣がミラリアさんの手に……?」

【俺もそこは気になるな。そもそもこの刀は元々、俺とミラリアの故郷で祀られてたものだ。今でこそ俺がこうして宿ってるが、作り手についてもそんな話じゃなかったはずだ】

「うん。私も魔剣を――元々の御神刀を打ったのは、エスカぺ村の鍛冶屋さんだって聞いてる。なんだか話がチグハグ――って、あれ?」


 ただ、ホービントさんの話と私達の知ってる話には、どこかおかしな点がある。だって魔剣は元々、エスカぺ村の鍛冶屋さんが作ったはずだもん。

 ホービントさんと似た容姿の人だったけど、だからってエスカぺ村とタタラエッジに関係がある理由にはならない。


 そう考えてたけど、一つだけ接点のある可能性が残ってた。

 そもそも、私達はアキント卿の語る『タタラエッジに住む耳の長い鍛冶屋さん』に会うためここまでやって来たのだ。かなり昔の話らしいから、今がどうなってるかまでは分からない。


「ねえねえ、ホービントさん。あなたのお師匠様のドワルフさんって、どんな人だったの?」

「ドワルフ師匠だべか? まあ、もうだいぶ昔にここを離れたべが、どんな人だったかはもちろん覚えてるべ。結構豪気な人で、見た目的には今のオラと同じ感じだべか。オラもドワルフ師匠に憧れて見た目から入ったべからね」


 ドワルフさんという人は現在、タタラエッジを離れてどこか別の場所にいる。

 タタラエッジに住むという耳の長いイルフ人らしき鍛冶屋さんにはまだ会えてない。

 エスカぺ村の鍛冶屋さんは耳が長く、おそらくはイルフ人だった。




 ――もしもこれらの可能性が一つに繋がるなら、話の筋は通ってくる。




「ああ、後、ドワルフ師匠は変わった特徴を持つ人だったべ。普通の人よりも耳が長かったんだべよ」

アキント卿の語る鍛冶屋、ホービントの師匠、エスカぺ村の鍛冶屋。


そう、これらは全て――

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