そのパーティー、少女を妬む
いざ、決戦のバトルフィールドへ――とは簡単にいかない。
「あ、あれは、Sランクパーティーの面々か!?」
「魔王軍討伐から戻ってきたのか! 過酷な役を担ったと小耳に挟んだが、流石のSランクだ!」
眼鏡な状態のユーメイトさんに歯が立たず、マジックアイテムで坑道から脱出してたSランクパーティーの四人組。多少はボロボロのままだけど、無事ではある模様。
ただ、その形相はなんだか怖い。タタラエッジの人達は帰還を喜んではいるけど、それにも構わずこちらへズカズカと近づいてくる。
こっちこそ毒を盛られそうになったりドラゴンの囮にされたりで、思い返せば結構プンプン。言いたいことだってある。
「そこの少女二人は俺らを囮にして、自分達だけ魔王軍から助かろうとしたんだ!」
「特にアホ毛の方! そいつは腕のいい剣士らしいけど、私達のことを売ろうとしたのよ! そんな奴が魔王と決闘だなんて、裏があるに決まってるわ!」
そんなことはお構いなしにと、まずはタンクさんとヒーラーさんが声を上げてくる。しかもその内容は身に覚えのないものばかり。
誰よりも先に魔王軍から逃げ出したのはそっちだし、私やシャニロッテさんのことだって毒で弱らせて売ろうとしてた。どの口が言えたものかと呆れてしまう。
「ともかく、その少女達や魔王の言ってたことなど信ずるに値しない! タタラエッジを舞台として巻き込み、良からぬことを考えてるのは明白だ!」
「私達Sランクパーティーの話だ! 信じられないってこともないだろ!?」
リーダーさんやウィザードさんも一緒になり、あることないこと勝手に言いふらしてくる。ちょっといい加減にしてほしい。
ゼロラージャさんとどういう話になったかなんて、この人達が知るはずない。言ってることは全部大嘘だ。
こんな話を急に言われて、街の人達も信じるはずが――
「そ、そういうことだったのか……!? た、確かにこんな少女と魔王が急に決闘だなんて、おかしな話だと思ってたんだ……!」
「Sランクパーティーが言うならその通りよ! さっき魔王と一緒に話してたのだって、全部自作自演ってことでしょ!?」
――ないと思ってたのに、どういうわけかみんなはその嘘話を信じてしまった。
理由としては『Sランクパーティーの話だから』とのこと。さっきゼロラージャさんが話してた内容の方を嘘とし、Sランクパーティーの話にばかり耳を傾ける。
「待ってほしい。私とゼロラージャさんが話してたことは本当。Sランクパーティーの方が嘘ついてる。むしろ、こっちが酷い目に遭わされた方」
「だったら、なんで彼らの方がボロボロなんだ!? 魔王と一緒になって話の場にいたのもおかしいし、普通に考えてそっちの方が嘘ついてるだろ!?」
「そもそも、君は何者なんだ!? Sランクパーティーのように名も知れてない奴の戯言なんて、信じられるわけないだろ!?」
このままではタタラエッジが危ないのに、みんなして私の言葉を信じてくれない。Sランクパーティーってだけで、そっちばっかり信じてしまう。
これは辛い。辛すぎる。私としては、ゼロラージャさんとの話し合いでなんとか手にしたチャンスなのに。
もしも決闘まで話が至らなければ、魔王軍はゼロラージャさんも含めて本気で侵攻してきただろう。それこそ坑道どころか、タタラエッジにまで被害が拡大することだって予想できる。
――そうならないために、私だってこの条件を飲んだのだ。
「さっきの話は本当か!? そのアホ毛少女、敵だったのか!?」
「魔王と決闘だか何だか知らんが、タタラエッジを巻き込む真似をしないでくれ!」
「坑道での魔王軍との戦いだって、正面の軍勢は退けられたんだ! なのに、なんて勝手な真似を……!」
他の討伐メンバーも戻ってきたものの、揃いも揃って私の話を信じてくれない。これまた街のみんなと同じく、Sランクパーティーの話を信じてばかり。
坑道正面の魔王が退いた件についても、私達がユーメイトさんに勝ってゼロラージャさんにお願いしたからこそ。討伐メンバーの優勢などなく、下手したら魔王軍の一転反撃で返り討ちに遭う可能性だってあった。
――別に感謝してほしいとは言わない。でも、私の話を嘘と決めつけないでほしい。
「み、皆々様方! 信じられない話と思いたくなる気持ちは分かりますの! ですが、ミラリアさんの話こそ事実ですの! わたくしも彼女と同じく、Sランクパーティーの方々に――」
「あーあー、はいはい。いくら魔法学都スーサイドの学生と言っても、まだまだお子様ってことね」
「もうちょっと世間や常識を知った方がいいよ? この状況でSランクパーティーが嘘をついてるとは思えないだろ?」
シャニロッテさんも一緒に弁明してくれるけど、誰一人として味方してくれない。みんなみんな、Sランクパーティーの話ばかり信じてしまう。
それだけ名前が通ってるってことなのだろう。でも、私達はこの人達に酷い目に遭わされた。その事実さえも受け入れてもらえない。
みんなして私達のことを嘘つき呼ばわりして、本当のことを受け入れてくれない。
――凄く悔しくなってくる。涙がジワジワ溢れてくる。
「まあ、魔王が彼女と決闘している間、僕らで魔王軍の別動隊は警戒しておこう。彼女らは彼女らだけで戯れていればいいのさ」
「……そうだな。まったく、面倒を持ち込んでくれたもんだ」
「ちょっと腕が立つからって、変に期待しすぎたか……。そっちは勝手にやってくれ……」
結局、タタラエッジが信じたのは私達を陥れたSランクパーティーの言葉。完全に意気消沈して肩を落としつつも、リーダーさんの言葉に従って私達から離れていく。
悔しくて仕方ない。本当のことを言ってるのに信じてもらえないのって、こんなに辛いんだ。
これでは決闘の場に応援どころではない。応援なんかしてもらえない。
――タタラエッジのために戦おうとしてるのに、私が間違ってたのかな?
「ミラリアさんは悪くありませんことよ! むしろ、誰よりも頑張っていますの! あの人達が薄情すぎるだけですの! いっそ、見捨ててしまってもよろしくてよ!」
【俺も言い方は悪いが、ここで逃げても構わないぞ? タタラエッジとしても、ミラリアには何も期待してないだろう。後がどうなろうと、ミラリアに責任はない】
「……うん、言いたいことは分かる。でも、私はしっかり最後まで戦う。ここで投げ出して、後から『やっぱりああすればよかった』みたいな後悔は嫌」
周囲に誰もいなくなった中、シャニロッテさんもツギル兄ちゃんもいっそ私に逃げることをすすめてくる。だけど、後悔する結末だけはしたくない。
エスカぺ村やフューティ姉ちゃんの件だって、私が正直な気持ちで早く動いていれば防げたこと。それは嫌だし、ゼロラージャさんとも約束したことだ。
約束は破らない。道を違える真似はもうしたくない。
でも、誰も応援してくれない状況は苦しくて涙が――
「まったく……他の連中も薄情なもんだべよ。とはいえ、事情は誰にも読み切れてないべ。まずはオラに詳しく語ってくれないべか?」
「ふえ? あ、あなたは確か……ホービントさん?」
ただ一人、ミラリアに関心を持つタタラエッジの鍛冶屋ホービント。




