その魔王、総大将
ついに登場、魔王ゼロラージャ。
そんなとんでもない相手とのお話タイム。
「……成程。まずは坑道正面にいる魔王軍のドラゴンの撤退を願うか」
「うん。このまま戦いが長引けば、両方に被害が出る。こうして話し合える機会もできたわけだし、無闇に刃を交える必要もない」
魔王ゼロラージャさんが現れたおかげで、双方戦いの手も止めて話し合いの場を設けられた。それぞれ近くの岩の上に座り、囲むように話を始める。
まずは私からの要望を一つ。他にも話はあるんだけど、今一番優先すべきことはこれ。被害の拡大を抑えるのが先決だ。
「まあ、ユーメイトとの決闘にも勝利したのだ。ひとまずこの場においては、魔王軍と人間どもの戦いを終わらせようぞ。おい、そこのウヌ。前線にいるドラゴンどもに伝令してこい。人間どもの進軍を適当に追い返して後退だ。魔王の勅令ぞ」
「か、かしこまりましタ! 直ちニ!」
その話をしてみれば、ゼロラージャさんの対応は早い。すぐさま鎧の魔物さんへ指示を出し、私の要望通りに部隊を動かしてくれる。
噂では魔王軍って怖くて悪いだけだったけど、こうして直接会ってお話すればそうじゃないってのが分かる。
やっぱり、ただ聞いただけじゃダメ。実際に見て会ってってしないと、本質を判断できない。私が旅の中で得た経験と同じだ。
流石は魔王。魔王軍の王様。同じ王族を名乗ってても、レパス王子とは大違い。やはり、王子よりも王様の方が話が分かる。
「ほ、本当に魔王と話をつけてしまったですの? ……スケールが意味不明で麻痺してますの。わたくしがおかしいですの?」
【安心しろ、シャニロッテちゃん。……兄の俺でさえ、本当にミラリアの言った通りに進むとは思ってなかった】
むしろ、こっちサイドの方が不満に近い意見が飛んでくる。シャニロッテさんもツギル兄ちゃんも、せっかく話を通してくれたゼロラージャさんの前で失礼だ。
ツギル兄ちゃんに関しては『先入観に囚われてはいけない』って一緒にスペリアス様から教わったのだから、そこはきちんと守るべき。
「とはいえ、あくまで魔王軍を下げるのは『今回のみ』ぞ。また人間どもがここへ攻め入れば、今度は手を止めることなどせぬ」
「えっ……!? そ、そんな……!?」
ただ、ゼロラージャさんの方もそこまで甘くない。
私の願いを聞き入れてくれたのはあくまで今回だけ。今回だけは人間に対する手を緩め、戦線を引き下げてくれるだけ。
もし次も同じように討伐メンバーが坑道へ向かって来れば、その時こそ返り討ちにするつもりだ。
「前線での戦いが長引いても、不利なのは人間の方であろう? 今この場を我の裁量で凌げるだけでもありがたく思え。こちらとて、まだこの場でやるべきことが残っているのでな」
「やるべきことって……アテハルコンのこと?」
「うむ、いかにも。我ら魔王軍がこの坑道に攻め入ったのは、アテハルコンの存在があるからこそ。それをまだ見つけておらぬ以上、まだ立ち退くわけにはいかぬ」
魔王軍としては目的であるアテハルコンを見つけるまでは立ち下がれないってのは分かる。でも、坑道に魔王軍が居座ったままだと、またタタラエッジとの戦いが勃発する。
私にだって私の旅がある。いつまでもタタラエッジにいるわけにもいかないし、どのみちこのままでは今度こそこっちが負けそう。
今回の魔王軍による迎撃は本気じゃなかったみたいだし、さらには魔王のゼロラージャさんまで控えてる。Sランクパーティーを退けたユーメイトさんも復帰すれば、圧倒的不利は明らかだ。
――アテハルコンを求める理由とか関係ない。私はただ、これ以上傷つけあうのが嫌ってだけ。
「……ねえ、ゼロラージャさん。なら、私からもう一つだけお願いしてもいい?」
「残念だが、これ以上は聞けぬ。どうせ『魔王軍を完全に撤退させろ』とでも言うのだろう? いずれにせよ、ウヌの言葉はユーメイトとの決闘の分だけ聞き入れた。これ以上は聞き入れぬ」
「そ、そんな……」
試しにゼロラージャさんへお願いしようにも、やっぱり聞き入れてはもらえない。この人が聞いてくれないと、結局のところタタラエッジと魔王軍の戦いはまだまだ続く。
狩りでもない、武芸を競う試合でもない闘争なんて嫌。魔王軍にとって闘争こそが生きる意味でも、人間はそうもいかない。
少なくとも私はそうだ。剣技を磨いたのだって、ただ戦うためじゃない。
――自分や周囲を守るために剣を振るう。スペリアス様の大事な教えだ。
「……まあ、ウヌが意見したいならば、それこそ魔王軍の流儀に従ってもらうか。今度はユーメイトではなく、より強大な発言権を得るためのな」
【ゼ、ゼロラージャ様!? そ、それはもしや!?】
「ま、まさか、魔王ともあろうお方が自ら!?」
ここからどうしようか思いつかずにションボリしてると、ゼロラージャさんが改めて口を開いてくる。
その言葉を聞いて、魔槍さんもユーメイトさんも何を意味するのか理解した模様。驚きの声を上げずにはいられないっぽい。
――ただ、やっぱりユーメイトさんは全然違う方向を見てる。誰か、早くこの人に眼鏡を持ってきてあげて。
「名は確か……ミラリアであったな。ウヌが本当にこれ以上の戦いを望まぬならば、我が出す試練を超えてみせよ」
「そ、その試練を越えれば、私のお話聞いてくれる?」
「できれば……の話であるぞ。ユーメイトを破った実力とて、容易い試練ではない」
最早ユーメイトさんのポンコツっぷりはどこ吹く風と、ゼロラージャさんは話を進めてくる。
私としても、チャンスがあるなら是非とも聞きたい。眼鏡の件はまた後だ。
とはいえ、ユーメイトさんを倒すよりも難しい試練って何だろう?
「今度は我が相手をしよう。我との決闘にて勝利すれば、ウヌの言葉をまず聞くとしよう」
魔王自ら試練と称して出陣。




