その者達、古代文明に触れる
いざ、あの日離れ離れになってしまった地へ。
「全員揃ったようだな。では早速、転移魔法でエスカぺ村の洞窟内にある社へ向かうとしよう」
翌朝、私達は三人揃ってお城の中庭に集まった。向かうメンバーは私、レパス王子、フューティ様の三人。
お社の洞窟は狭くないけど、大勢で踏み込める場所じゃない。とはいえ魔物だって出ないし、危険だってない。少人数でも問題ない。
「ミラリア様。どうぞこちらへ」
「フューティ様。昨日話してたこと――」
「あのことはミラリア様の心の内に留めてください。……今はもう語れる場面にありません」
ただ気になるのは、昨日少しだけフューティ様が私に話したこと。『何かあったらエスターシャ神聖国を訪ねてほしい』という都度。
それはいいんだけど、何かあったらとはどういうことだろう? 私には理解できない。
そもそも、何もなければいいだけの話。今回の調査だって危険はないし、フューティ様は気にしすぎかもしれない。
「それではレパス王子、我々の方で転移魔法を発動させます」
「ああ、頼んだ。座標は大丈夫だろうが、失敗がないように頼む」
「かしこまりました。位置座標設定確認、魔法陣術式準備完了。魔力発動開始――」
強いて言うならば、この転移魔法がうまく行くかどうかだ。
ここに関してはツギル兄ちゃんの上手い転移魔法を知ってるから、ディストール王国のものが下手くそに思えて仕方ない。
■
「……よし。問題なく到着できたか。ここがミラリアの言ってた場所で間違いないかい?」
「あ、ああ……! 懐かしい、村のお社……! 私、本当にここまで戻って来れた……!」
「どうやら、場所は合ってるようですね。ミラリア様の様子を見れば分かります。……本当にうれしそうで良かったです」
幸い、転移魔法は無事に成功してくれた。またしてもグニャグニャ空間を少し彷徨ったけど、到着自体は問題ない。
そして目の前に映るのは、あの日私がデプトロイドに襲われた直前のお社。周囲を覆う洞窟の光景も始め、あの日から何も変わってない。
一ヶ月とはいえ、懐かしさで感動してしまう。ここに帰ってくるまで、本当にとんだ回り道をしてしまったものだ。
「感傷に浸るのは後にしてくれ。僕としては、ここの調査を急ぎたい」
「レパス王子……。あまりそう言っては、ミラリア様がかわいそうで――」
「そんなことより、エデン文明の解明が重大だ。城で調べた書物によれば、この呪文で道が開かれて……!」
ただ、レパス王子には私の気持ちなんてどうでもいいらしい。普段は優しくしてくれるのに、今日はやけに辛辣だ。
きっと、エデン文明のヒントが近いせいで気持ちが急いてるのだろう。なんだか、ディストールに来た時の私みたい。
とはいえ、私が知る限りでもこのお社には特に何も――
「ᛗᛖᚷᚨᛗᛁᛖᛋᚢᛏᛖᚾᚨᚾᛟᛁᛋᛁᚹᛟ ᚲᛟᚲᛟᚾᛁᚲᚨᛁᚺᛟᚢᛋᛖᛃᛟ」
ガコンッ
「えっ……!? お、お社の下から階段が……!?」
――ないと思ってたのに、レパス王子が呟いた謎の呪文によって、その道は開かれた。
お社にあった台座が動き、その下から現れた階段。こんなものは私も知らない。生まれて15年間で初めて見た。
「この階段はミラリア様もご存じないのですよね?」
「う、うん。私、こんな仕掛けも呪文も知らなかった」
「この辺りのことは後で説明しよう。今は階段を降りて、この先にあるものを調べるのが先だ」
私はもちろん、フューティ様も驚いている。どうやら、レパス王子だけがここのことを調べて知っていた様子。
こんな秘密があったのならば、先に教えてくれてもよかったと思う。レパス王子、ちょっと意地悪。
とはいえ、私もこの階段の先に何があるのか気になる。三人で一緒になって階段を降り、本来誰も立ち入れなかったお社の地下へと足を踏み入れる。
「な、何……ここ? 本がいっぱいだし、壁にも何か書かれてるし……?」
「これは……壁画? しかもここに書かれている文字は、エデン文明に伝わる古代文字では……?」
「おお! やっぱりそうだ! この場所こそ、僕がずっと探し求めていた場所! 古代エデン文明の知識が眠る地だ!」
階段を降り切ってみれば、そこはまたしても私でも知らなかった領域。広い空間の中にたくさんの本が溢れて、壁にまで何か絵や文字が描かれている。
驚く私とフューティ様を尻目に、レパス王子だけが興奮した様子で辺りを見渡している。
とりあえず、ここがエデン文明と関わりのある場所ってこと? 前々から言われてたエスカぺ村と楽園の関係を示す場所ってこと?
「聖女フューティ! 壁画に書かれた文字の解読を頼む! 僕は書物に目を通してみる!」
「は、はい。かしこまりました。それにしても、これらが全てエデン文明に関する資料ならば、歴史的発見にも……!」
フューティ様もレパス王子に急かされ、一緒になって中にある資料を調べ始める。
私も近くにあった書物を手に取り、なんとなくページを開いてみる。
「剣術流派……理刀流? これ、私が使ってる居合のことが書いてる……?」
「こちらには転移魔法に関する詳細もあります! それどころか、精神を物体に憑依させる魔法といった、より高度なものまで……!? それにこの壁画にあるのは、かつて楽園で誕生したと言われる民族……!?」
「ああ、やはりな! 僕が調べた資料と照らし合わせても、ここにあるものはエデン文明のものと見て間違いない!」
私が読めるものだけ見て、さらに他二人の話を聞いても、ここの資料がエデン文明や楽園と関わっていることを想起させる。
私が知らなかったとはいえ、ここも一応はエスカぺ村の領域内だ。これまでの仮説通り、間違いなくエスカぺ村は楽園と繋がってる。
「……だけど、怒ったりはしちゃいけない。きっと私に教えなかったのは、何か理由があってのこと」
また不信感を抱きそうになるも、ここはグッと堪えて考え直す。
私はスペリアス様達のことを疑ってたけど、キチンと話し合うことすらできてなかった。まずは再会して、落ち着いて事実を尋ねるのが重要。
ここで気を立ててしまえば、また同じように私は自分に嘘をつきそうになる。
「この壁画に写るのは『イルフ人』と呼ばれる民族の姿か。僕達とは少し姿が違うようだな」
「壁画だけでは判断が難しいですが、書物も並行して調べれば正体も見えてくるでしょう」
私は少し落ち着きながら調べる手を止めるけど、レパス王子とフューティ様はそのまま没頭している。
この二人は私がエデン文明の存在を知るより前から、ずっと調査を進めていた。だから、私よりも好奇心に溢れてるのだろう。
とりあえず、一定の成果があったのならそれでいい。私も気になるけど、今はここでの調査を終えた後の方が重要で――
「……むぅ? あれって、見たことあるような……?」
――などと考えていたら、壁に書かれた絵の一つが気になってしまう。
他にも同じような絵はあるけど、その絵だけがどこか見覚えがある。
容姿の特徴が捉えられた三人の人物。この絵を見て、私はあの三人の姿を重ねる。
「巫女さんに鍛冶屋さんに……スペリアス様?」
エスカぺ村の真実が眠る場所。




