◆冥途将ユーメイト・凛Ⅲ
純粋にミラリア以上の技量に勝つには、より多くの仲間の力が必要!
「……興味はありますが、あまり時間を与えるのも考え物ですね。そろそろ、再度攻め手に回りましょうか」
突然の襲撃に怯んでいたユーメイトさんも眼鏡を整えつつ持ち直し、そろそろ戦いがまた動き出す。こっちの作戦も粗方決まった。
ツギル兄ちゃんの作戦もシャニロッテさんに伝えたし、動きについては大まかにでも理解できた。
「ほ、本当にその作戦で行くつもりですの!?」
「やるしかない。向こうはもう待ってくれない。……後のことは信頼してる」
「わ、分かったですの! とにかく、まずはミラリアさんがお願いしますの!」
かなりの即席だし、こういう場面に慣れてないシャニロッテさんには荷が重い。でも、取れる手段はこの一つだけ。
私はシャニロッテさんを信頼するし、シャニロッテさんにも私を信頼してもらうしかない。無茶でも根性でもやるしかない場面って、まさに今のことを言うのだろう。
――迷ってる暇すらない。まずは作戦の一手目として、再度私が単身でユーメイトさんへと飛び込む。
「何やら作戦を立てたわりに、やることは先程と同じですか? ただ突っ込むだけでは、私の氷風冥槍を破ることなど叶いません」
【気概だけで我らの相手をするなど、甘く見られたものだ】
「魔槍の力を完全に開放したユーメイト様に敵うはずがなイ! 魔剣の小娘もここまでダ!」
ユーメイトさんを含む魔王軍の人達は相変わらず勝利を確信したまま。事実、氷風冥槍という氷と風の陣を突破するのは私では無理。
数も速度も見切るのが精一杯。持続力もはるかに上。普通にやってればまたさっきみたいに押し負ける。
それが分かっているからこそ、ユーメイトさんは再び同じ技で攻め立ててくる。こっちの攻め手がさっきと同じならば、向こうは無理に変える都合などない。
――ただ『完全にさっきと同じ』というわけでもない。
「ミラリアさんばかりに意識を向けて大丈夫ですの!? わたくしだっているですの!」
今回はシャニロッテさんも隙を伺いつつ、積極的に爆発魔法で支援に参加してくれる。タイミングを見計らい、私へ被害が及ばない繊細な魔法捌きも健在だ。
つくづくツギル兄ちゃんが教えておいて正解だったと思う。シャニロッテさんもどこか自信のある表情を見せてるし、一皮むけたって感じがする。
この土壇場でヤケクソなのかもしれないけど、実際に狙い通りに動いてくれてるから大丈夫だ。
「遠近による波状攻撃ですか。……ただ、警戒が一つ増えたところで、私の技を破れるわけでもありません」
【氷風冥槍を舐めないことだ。この技は我と主の力と技量が合わさり、無敵の矛にも盾にもなる。たかが人間の小娘二人ではどうにもできぬ!】
「な、なんですの!? わたくしの爆発魔法にまで同時に対処を!?」
それでも絶対的な自信があるからなのか、ユーメイトさんが氷風冥槍による攻め手を緩めることはない。斬撃をシャニロッテさんにも向けつて牽制しつつ、私と同時に対処してくる。
確かに見事な対応力だ。魔槍さんとの息もピッタリで、一見すると事態が好転してるようには見えない。
――ただ、それはあくまで『一見すると』の話。達人レベルのせめぎ合いとなれば、普通では見えないものも見えてくる。
「そこ! ちょっと遅い!」
【ッ!? まさか、こんなわずかな隙間を狙うか!?】
いくら二人同時に対処はできても、一人の時と同じとまではいかない。シャニロッテさんにも意識を向けないといけない以上、私の方への警戒も必然的に薄れてくる。
それによってわずかに生まれた隙。これこそが私の狙いであり、ツギル兄ちゃんの作戦第一段階だ。
「ミラリア様も剣技においては流石の達人……ですが、それでも私の範疇内です」
「そっちも流石に達人の間合い。よく私の動きを捉えてる。……でも、これだけ突ければ十分!」
魔槍さんは驚きの声を漏らしつつも、使い手であるユーメイトさんは至って冷静なまま。流石は魔王軍の冥途将。
私の剣にもシャニロッテさんの魔法にも、臆することなく集中して対応してくる。とはいえ、わずかでも隙が生まれたのは事実。
一つ目の狙いが上手くいったとはいえ、まだ決め手には欠ける。シャニロッテさんが頑張ってくれてるのだから、私だって応えずにはいられない。
ヒュンッ――ズバンッ!
「くぅ!? わずかな隙さえも逃さぬ剣閃……! ならば、氷風冥槍の出力も上げるまで!」
「ッ!? まだレベルを上げられるの!? だけど……これはチャンス! ツギル兄ちゃん!」
「ああ! シャニロッテちゃん、予定通りに頼む!」
研ぎ澄まされた精神と気持ちが背中を押したおかげか、ようやく少しだけユーメイトさんにも攻撃が届き始めた。
シャニロッテさんも交えた波状攻撃。それを前にすれば、いくらユーメイトさんの魔槍捌きでも限度が見えてくる。
今のまま行けば今度はこっちが持久戦で競り勝てる。ただ、それを許すまいとユーメイトさんは魔槍を旋回させたまま頭上へと掲げ、さらに技の出力を上げてくる。
――この時を待っていた。ほんの少しでもユーメイトさんの動きに『焦り』が見えるこの瞬間を。
「ほ、本当にやるですのね!? どうなっても知りませんの! フルパワー……受け取るですのぉぉぉお!!」
「あの少女!? まさか、まだ魔力を隠していて!?」
ツギル兄ちゃんの合図がシャニロッテさんへと伝わり、予定通りに動き始める。
ほんのわずか。本当にわずかな隙だけど、今ならユーメイトさんも反応できない。氷風冥槍の出力を上げたがために、冷静に戦局を見る目が一時的に鈍ってくれた。
それにユーメイトさんはまだ知らない。シャニロッテさんの『全力がどれぐらいか』ということを。
――虚を突くことに成功し、私はシャニロッテさんの放った魔力の塊を魔剣の鞘で受け止める。カムアーチで影の怪物と戦った時と同じ要領だ。
「私の剣技! 魔剣の能力! シャニロッテさんの魔力! これ全部……ユーメイトさんと魔槍さんでも受けきれる!?」
今こそ、全員の力を一つにする時!




