◆冥途将ユーメイト・凛
VS 冥途将ユーメイト・凛
今回は完全状態で出撃! 魔槍使いの最強竜人眼鏡メイド!
魔槍を右手で握って体に添わせる構えを取り、メイド服のまま強く地面を蹴り飛ばすユーメイトさん。それが開戦合図となり、こっちも魔剣で応戦する構えをとる。
敵の動きは鋭く、以前のように荒ぶる殺気は感じない。ただ、脅威度はこっちの方がはるかに上。
――無駄のない洗練された動き。その初動だけでも今のユーメイトさんがどれだけの実力者か伺える。
「き、来ましたの!? ミラリアさん、大丈夫ですの!?」
「……私も今から集中する。シャニロッテさんは予定通り少し離れてて」
やはりシャニロッテさんを一度見物に回らせたのは正解。前回と勝手が大きく違う以上、私も出方を伺う必要がある。
シャニロッテさんの魔法が必要ならば、ユーメイトさんの動きが読めた後。この鋭い動きを前にして、私自身も手一杯だ。
ガキンッ!!
「反衝理閃!」
「甘いです。その程度のカウンターならば問題なく見切れます」
事実、ユーメイトさんの素早さに私の方がついていけてない。スピードには自信があったのに、それさえも上回ってる。
反衝理閃でカウンターを狙うも魔槍で捌かれるし、刃界理閃に至っては常に動き回られるせいで攻撃範囲に捉えることもできない。
それでいて無駄がないから隙もない。動きそのものは私の縮地をより洗練したようなものだ。
闇瘴に操られてた荒々しさとは対極に位置する動きということもあって、中々ペースが掴めない。
【単純な速さというより、スピードの質自体がミラリアよりも上なのか!? 動きに無駄がなさすぎる! そんな奴、俺も初めて見たぞ!?】
「流石は魔王軍最高幹部……! でも、焦っちゃいけない。スピードがダメなら、ツギル兄ちゃんの力で打って出る!」
【ああ! 存分に使え!】
幸い、こっちも完全に見切れてないわけじゃない。回避自体はなんとかできてて、お互いに高速移動しながら攻撃を交える拮抗状態だ。
ならば次に挑むのは技の質。こっちはツギル兄ちゃんの宿った魔剣があるから、実際の間合いの外だって攻撃範囲。
『刀で槍に勝つには三倍の力量が必要』とか教わったけど、間合いの問題が解決できればいいだけの話だ。
「炎閃付与……からの、震斬!!」
これまで何度も場数を踏むことで、魔剣の扱いにだって慣れてきた。即座に魔法効果を重ね掛けして放つのは、炎を纏った震斬。
ただの衝撃魔法だけでなく、火炎魔法も合わせた飛ぶ斬撃。離れた場所のユーメイトさんでも、このタイミングなら回避できない。
高速で戦いながらも、そこはしっかり見極めた。これならかなりのダメージを与えられるという期待を胸に、魔法効果を付与した魔剣を抜刀する。
【主よ。我はいつでも大丈夫ぞ】
「承知しております。……氷突付与」
バシュゥンッ!
「ッ!? か、かき消された!?」
【今のは氷結魔法……! 魔槍の力か!?】
でも、ユーメイトさんはこれさえも軽々といなしてきた。炎を纏った震斬へ魔槍の切っ先を払い、斬撃も熱量も同時にかき消してしまう。
そうだった。向こうにだって魔剣と同じような魔槍さんがいる。ツギル兄ちゃんの存在はアドバンテージにならない。
【俺の火炎魔法に対し、完全に相殺狙いで氷結魔法を使ってきたぞ!? しかも後出しだったぞ!?】
「なら、次はこれ! 雷閃付与!」
何より、ユーメイトさんは私の攻撃を見てから対処してきた。それはつまり、技の面でも質は向こうが上ってこと。
だけど、さっきの一手だけで全部決めるのは時期尚早。炎に対しては氷で防がれたけど、雷ならばそうもいかない。
スピードだって雷速。炎の震斬より捌くのは難しいはずだ。
「風突付与。ここの土程度なら、問題なく操れるでしょう?」
【無論だ、主よ。逆巻く風が土を纏えば、雷鳴とて通さぬ】
そんな期待も虚しく、ユーメイトさんは雷を纏った震斬をも攻略してくる。
頭上で魔槍を素早く鋭く旋回させつつ旋風魔法を発動させ、坑道内に巻き起こるのは局地的な竜巻。周囲の土も巻き込み、雷を吸い込ませてくる。
竜巻が収まれば中から姿を見せるのは無傷のユーメイトさん。顔色一つ変えることなく、凛とした様相で眼鏡をクイッと整える余裕さえ見せてくる。
【確かに土が相手だと、雷は通らない……! だからって、ここまで魔法を使いこなせるなんて……!?】
【主と我の力が合わさればこそだ。その方らも魔剣使いとして相応の実力はあるようだが、我らの方が年季が上だ】
「何より、あなた方兄妹が使えるのは火炎魔法と雷撃魔法がベース。こちらの使える氷結魔法と旋風魔法があれば、対処のしようはあります」
「あ、相性的にも厳しい……!」
ユーメイトさんは魔槍でこちらを警戒しつつも、眼鏡をクイクイ調整して解説を加えてくる始末。強いとは思ってたけど、ここまでとは思わなかった。
総じてさっきまでの動きで見えたのは、私達の方が総合的に劣ってるってこと。スピードも技も魔法も、相性含めてこっちの方が不利。
――そのことを認識すると、思わず額に冷や汗が走る。戦いの中でここまでの緊張感と恐怖を抱いたのって初めてかも。
「ユーメイト様! さっさとその小娘を始末してくださイ! あまり長々と時間をかけてモ、ゼロラージャ様に迷惑がかかるかト!」
「どうせなら手だけでなく口も挟まないでほしかったですが、言ってることはもっともですね。……軽い手合わせによる様子見はここまでにして、今度は攻勢に出ましょうか」
他の魔物さんも言われた通りに手は出さないけど、ギャラリーとしてあれこれ言ってくる。その話を耳にして分かるのは、ユーメイトさんがまだまだ本気じゃないってこと。
それは私にも分かる。だって、魔槍の力を完全に開放してるとは言いづらいもん。
さっきまではあくまで守りのために魔槍を振るってたユーメイトさん。でも、武器の扱いに関しても私と同等以上は確実にある。これまでは攻め手を緩めてただけ。
――私の魔剣による技を防ぐ技量を攻撃に転ずれば、それ即ちどんな矛より鋭い槍となる。
「今度はこちらも本気で仕掛けます。……魔槍の力を全開にした私を前に、どれぐらい耐えられるでしょうか?」
魔王軍最高幹部は伊達じゃない。




