その者達、それぞれの言葉を口にする
魔王軍が簡単に引き下がるはずもない。
「やはり、魔王軍の狙いはアテハルコンですのね……!」
【魔王軍であっても、神の金属は欲しがるものなのか。神と相反しそうな立場の連中が手にして、いったい何を考えてる?】
「詳細や用途につきましては私もまだ存じておりません。まずはアテハルコンの鉱脈を見つけて確保すること。ゼロラージャ様の命令はそれ以上でも以下でもありません」
思った通り、ユーメイトさん達の狙いは坑道に眠るアテハルコンだ。そのためにわざわざ魔王軍で押しかけ、タタラエッジの人を困らせてまでいるらしい。
欲しいものがあるという感情は仕方ない。私だってエスカぺ村では御神刀を授かるより以前、よく『新しい刀が欲しい』と駄々をこねたものだ。
でも、話もせずに勝手に求めるのはやっぱりワガママ。いくら魔王軍であっても、やっていいことと悪いことの区別は必要。
「ユーメイトさん、魔王軍がアテハルコンを求めてることは理解した。魔王様という偉い人の命令なのも分かる。でも、この坑道はそもそもタタラエッジが所有してるもの。横取りみたいな真似はせず、きちんと話を通すべき」
「……ミラリア様は相変わらずどこかズレてますね。人間と魔王軍の境界について考えてないのでしょうか?」
「考えてない。そもそも必要ない。人も魔物も関係なく、話ができるなら話し合った方がいい。闇雲に刃を振るって傷つけあい、後で後悔する結末なんて見たくない」
「……ディストールを始めとした旅の経験から得た思考ですか。まあ、全く理解できないとまでは言いません。ですが、甘言が過ぎるというものです」
そんな気持ちを率直に言葉にして、ユーメイトさんにも理解を求めてみる。マオー・ゼロラージャさんという大事な人から与えられた役目でも、目的にためにまず戦うという選択は違う気がする。
立場も種族も関係なく、話が通じるからこそ選択肢は増える。私の話を聞いてユーメイトさんも一応の理解は示してくれるけど、眼鏡の下で眉をひそめてどこか不快感を見せてくる。
「種族や立場の違いというものは、ミラリア様が思っている以上に大きなものです。今回は以前と違い、私も魔王軍冥途将としての身分を優先する限りです。……たとえここであなたと刃を交えることになっても、人間から坑道に眠るアテハルコンを奪うという役目は変わりません」
「以前に助けたお礼って意味じゃ……ダメ?」
【口を慎め、魔剣の少女よ。前回がむしろ例外に過ぎなかっただけで、人と魔は古来より相容れぬ歴史の種族。我も主がその気であれば、今回はこの身に宿した力を存分に振るうまでぞ】
ユーメイトさんにしても魔槍さんにしても、やはりと言うべきか取り付く島もないって感じだ。与えられた命令が余程重要なのか、意地でも意志を曲げようとはしてこない。
何より、魔王軍は戦いの中で生きてきた種族。第一として戦いが置かれるのは当然ということか。
腰を低く落としながら魔槍さんを構えるユーメイトさん。今にでも戦いの火蓋が切られそうな状況だ。
――やっぱり、私の考えが甘かったのかな?
「お待ちくだされ! わたくしも全ては察せませんが、意見したいことがありますの!」
一触即発。今にも達人の間合いが広がりそうな空気の中、今度は傍で話を聞いてたシャニロッテさんが口を開いてきた。
人に魔物に魔剣や魔槍まで入り乱れたこの場において、シャニロッテさんは一番の無関係者。どれだけ魔法が凄くても一般人。
ただ、そんな立場だからこそ言いたいことがあるって感じに見える。私もユーメイトさんも思わず目を向け、聞き耳を立ててしまう。
「さっきから聞いていれば、そこまで話ができる間柄でありながら、選択肢が『戦うこと』一辺倒なのはいただけませんの! もう少しぐらい話し合いはできませんの!?」
「あなたはミラリア様以上に一般的な人間でしょう? なのに、人と魔の理から否定されるのですか?」
「わたくしからすれば、ここまで話してお互いの言い分を認めたうえで結論を変えない方が不思議ですの! 理が何ですの! 『人の話を聞く』ことの方が道理でなくて!? 魔王軍最高幹部だか最強のメイドだか知りませんけど、大層な肩書の割には頭が硬すぎますの!」
「……たかが人間の小娘が言ってくれますね」
シャニロッテさんは臆することなく自らの想いを口にしてくる。その勢いに流石のユーメイトさんも少し気圧されてるようにも見える。
プンプンした表情で語るシャニロッテさんだけど、その内容は前日にツギル兄ちゃんとお説教されてた姿と重なる。
『人の話を聞く』ことはとても大事。それがお説教であっても何であっても、言葉にはその人の想いがこもってる。
それに耳を傾けたからこそ、シャニロッテさんも自らの魔法の加減を覚えようと思えるようになった。言葉の意味を理解したからこそ、成長へと踏み出せた。
さっきから『人と魔の理』とか言ってるけど、それ以前に『言葉を交わし合う意味』が大事だって私も思う。
――今のシャニロッテさんにしたってそうだ。偉そうだけど、自らの意志を言葉にすることに変化と成長を感じる。
「おイ! さっきから人間の小娘が二人揃っテ、ユーメイト様に無礼であるゾ!?」
【主よ。もうこれ以上の妄言に付き合う必要もなかろう。魔王軍にも召集をかけ、ここで人間どもを一掃するのが最善かと】
ただ、魔王軍の考えに変化は見えてこない。鎧の魔物さんも魔槍さんも、揃ってすぐにでも私達と交戦することを望んでくる。
シャニロッテさんの言葉は嬉しかったけど、戦いは避けられそうにない。私だって不服だけど、今はやるしかない。
せっかくお話ができたのに残念。でも、ここでおとなしくやられるわけにもいかない。
増援も来そうだし、できる限り早期の決着を――
「……お待ちなさい。増援は結構です。この場は私とこの魔槍のみで相手します。他の者は手出し無用です」
「ユ、ユーメイト様!? 何ヲ!?」
――と考えてると、前に出てきたのは魔槍さんを携えたユーメイトさんだけ。鎧の魔物さんといった他の魔王軍は動揺しつつも言葉に従い、前に出ることさえ許してもらえない。
これってつまり、ユーメイトさんだけで私とシャニロッテさんの相手をするってこと? 一応は魔剣のツギル兄ちゃんと魔槍さんもいるにはいるけど。
「もしもあなた方が私に勝てたのならば、その時は魔王軍冥途将の権限でもう少し話を聞いてあげます。闘争の中で生き、闘争を誉れとする魔王軍として、これが最大限の譲歩とでも言いましょうか」
「……うん、ありがとう。少しは聞いてくれただけでも嬉しい」
「感謝の意を述べるのは早いです。……私に勝てなければ、何も意味を成し得ませんので」
魔槍さんを素早く鋭く、それでも鮮やかな流れで振るうユーメイトさん。前回とは力も技術も大きく違うことが、振るわれた魔槍さんの風圧からも感じ取れる。
ハッキリ言って凄く強敵。シャニロッテさんの協力があっても勝てるか自信がない。
――でも、わずかながらにこっちの言葉は届いてくれた。だからこその決闘だ。
「わ、わわ、わたくしも勢いで口走ってましたが、この人ってとんでもなく強いですのよね!? そんな人と決闘ですの!?」
「うん、強い。……ただ、シャニロッテさんには感謝してる。あなたの言葉がユーメイトさんの心を動かしてくれた」
「そ、そそ、それはありがたいですが、わたくしはどうすればいいですの!? い、いざ実戦となると緊張で手元が……!?」
「とりあえずは離れて様子を見てて。ツギル兄ちゃんもそれで大丈夫?」
【ああ、賛成だ。シャニロッテちゃんも落ち着いて様子を見ててくれ。昨日話した魔法の制御にしたって、こういう時の冷静さが鍵になってくる】
「と、とんでもない流れに流されてますの……!?」
シャニロッテさん自身はそこまで考えてなかったらしく、動揺しつつちょっぴり後悔気味。でも、ここまで来たらやるしかない。
他の人も傷つけたくないけど、この場にいるシャニロッテさんだって私が守る。その力がどこまであるかは分かんないけど、心に誓うものは一つだけ。
――傷つけるためでも奪うためでもなく、守るために戦う。ユーメイトさんに対して腰を落とし、魔剣も心の準備も万全だ。
「あなた達の甘言がどこまで通用するか、私も見計らせていただきます。魔王軍冥途将ユーメイト……いざ参る!!」
冥途将ユーメイト、二度目の対決へ。




