その者達、村の場所を掴む
ようやく掴んだ故郷の手掛かり。
ミラリア最初の冒険は出発点にして終着点へ。
「本当か? エスカぺ村の位置が分かったのか?」
「はい。ミラリア様が巻き込まれた転移魔法の術式から逆算できました。地図で示しますと、この場所がエスカぺ村だと思われます」
デプトロイドのお部屋はさておき、私はフューティ様と一緒にレパス王子の元へ戻ってきた。
早速地図を取り出し、エスカぺ村の場所を指し示すフューティ様。レパス王子も目を凝らして確認している。
「ディストール王国から見ても、意外と近い場所にあったのだな……。渓谷の先だから、簡単に辿り着ける場所ではないが……」
「この場所は古代エデン文明とも関りが深いと聞いてます。準備ができればすぐにでも向かった方がいいでしょう。……ただもう一つ、私からお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、聖女フューティ? 言ってみたまえ」
私も後ろからチラチラ見てみると、確かにエスカぺ村ってディストール王国から近いところにある。この距離ならば、スペリアス様とツギル兄ちゃんでも問題なく辿り着けたわけだ。
さらにフューティ様はレパス王子に対し、何かお願い事を始める。
「この際ですので、ミラリア様にも里帰りさせてはいかがでしょうか? 彼女も故郷を長期的に離れたままでは、不安になることもあるでしょう」
「ミラリアを……か。一理あるが、今やミラリアはディストールの勇者でもある。あまり国を離れられると困るのだが……」
「それはディストール側の都合です。ミラリア様は本来、我々が目指すべきエスカぺ村の住人。こちらの都合で縛り付けるのは義に反します」
「……確かにそうだな。ミラリアは十分に働いてくれてるし、少しは暇を用意するべきか」
それは私にとって、何よりも願っていたこと。わざわざレパス王子に進言して、私がエスカぺ村に帰れるように取り計らってくれた。
一度はスペリアス様から追放を言い渡された身。だけど、私の故郷はやっぱりエスカぺ村。
帰れると分かれば早く帰りたい。そして、しっかりみんなにごめんなさいしたい。それで受け入れられなくたって構わない。
これは私なりの反省。謝ることができなければ、私はいつまでも未熟なままだ。
「……分かった。ただ、こちらとしてもエスカぺ村の調査は重大事項だ。まずはこちらで調べていた情報から、ミラリアにも共に来てほしい場所がある。エスカぺ村への里帰りはその後にしてもらおう」
「来てほしい場所? どこ?」
「ミラリアが元々いて、デプトロイドが送られた場所。君が言うところの『お社』という場所だ。僕の方で調べた結果、あそこにはエデン文明に関する秘密が眠っている」
ただ、レパス王子もすぐには認めてくれない。でも、その条件は簡単だ。
要するに村のお社がある洞窟にもう一度行き、そこで調べ物をすれば私はエスカぺ村に帰れる。
凄く遠回りしたけど、ようやく見えてきた道だ。あと少しぐらいならば、私も我慢できる。
「分かった、それでいい。レパス王子、よろしくお願い」
「出発は明日の朝だ。メンバーは僕と勇者ミラリアに聖女フューティ。調べてくれた結果から、まずは社の場所へ転移魔法で向かおう。そこでの調査が終わったら、ミラリアはエスカぺ村に帰るといいさ」
「ありがとう。楽しみ」
最初はあんなに嫌がってた帰郷。だけど、今は帰れる喜びで胸いっぱい。
帰った先での困難はあるけど、それは着いてからの話だ。
――今の私は心の底からエスカぺ村に帰りたい。
■
「うーん……。どうにもレパス王子の様子が気になりますね……」
「フューティ様、どうしたの? そんなにおかしなことがある?」
「いえ……何と言えばいいものやら……」
明日の朝には出発するので、今日は英気を養うためにお部屋でお休み。とはいえ、まだ寝るには早い。
だからフューティ様を部屋に招いて、少し一緒にお喋りしてもらってる。
――もらってるんだけど、どこか悩み事をしてるのが気がかり。
「レパス王子が計画している転移魔法で向かう先なのですが、わざわざ社を先にする意味があるのでしょうか? どうせなら、先にエスカぺ村の人達に話をつけた方が良いのでは?」
「元々私を転移魔法で巻き込んだデプトロイドも、お社のある洞窟に送られたものだった。あそこ、洞窟の中に出入口がない。転移魔法の調整が難しいから、まずは元々の場所に行くとか?」
「いえ、位置座標を少しズラすだけならば、そこまで難しい話でもありません。いくら古代エデン文明に伝わる魔法とはいえ、転移魔法の座標系についてはある程度解明されてます」
「……? よく分かんないけど、私はエスカぺ村に帰れるならそれでいい。どっちが先でも構わない」
確かにフューティ様が言う通り、先にエスカぺ村で『お社を調査します』って言った方がお行儀はいい。でも、今の私にとっては些細なこと。
最終的にエスカぺ村に行けるならそれでいい。早くスペリアス様やツギル兄ちゃんの顔を見て謝りたい。
もうここまで来たら、後は野となれ山となれ。御神刀の手入れもしっかりやり、ツギル兄ちゃんにもらったお守りも握りしめて気持ちも準備万端だ。
「地下にあったあのデプトロイドにしても……まさかとは思いますが……」
「むぅ? フューティ様?」
それでも、フューティ様は何やら難しそうな顔をしてる。いったい、何がそんなに気になるのだろうか?
ずっと考えこんでたけど、一度顔を上げると私の方を向きながら何かを語り始める。
――その表情、まさに『神妙』って感じだ。
「……ミラリア様。もしもこの先困難なことがあって道に悩んだ時は、どうか私が住まうエスターシャ神聖国を訪ねてください」
「フューティ……様……?」
(後書きに下手なこと書けない空気やな)




