その魔剣、説教する
自ら正体を明かしてまでツギルが伝えたいこととは?
「ツ、ツギル兄ちゃん? 喋っても大丈夫なの?」
「『兄ちゃん』……ってことは、まさかその剣はあなたのお兄さんですの!? よ、よく見れば、確かに生命に近い魔力の胎動を感じますの……!?」
【ああ、俺はミラリアの兄だ。今はこうして魔剣の姿だが、元々は人間でな。……ミラリアが語ってた『偉大な魔術師』とは俺のことだ】
これまでにもツギル兄ちゃんが他者に魔剣の正体とバレることはあったものの、こうして自分から正体をバラしたのは初めてかも。どこか怒ったような口調をしながら、シャニロッテさんへと語りかける。
この様子、別にいつものデレデレではない。ツギル兄ちゃんなりの考えがあって、余計な邪魔が入らない場所を求めたってのが分かる。
「ま、まさか、ミラリアさんの超絶剣技の正体もあなたですの!? な、なんだか、ズルされたみたいですの!」
【生憎、ミラリアの剣技は本人の鍛錬と才能あってのものだ。俺の魔力を貸し与えてはいるが、さっき大岩を斬り砕けたのもミラリアだからこそできた芸当だ。……それより、あの事態を引き起こしたシャニロッテちゃんには説教が必要だな】
「ま、魔剣だか知らないですが、わたくしに説教ですの?」
口調こそ静かに聞こえるけど、今のツギル兄ちゃんは怒ってる。私も同じようなことをエスカぺ村で何度も経験したから嫌でも分かる。
村からの脱走計画やちょっとしたイタズラの時と違い、間違ってお家を居合で両断してしまった時の怒り方だ。
あの時は反論できる空気でもなく、背後でスペリアス様にも睨まれながら、ツギル兄ちゃんに淡々とお説教されたんだった。今のシャニロッテさんみたいに。
【確かに魔力量に関しては大したものだ。大岩を揚力魔法で浮かせつつ、爆発魔法で破裂させる芸当は容易なものではない。……だが、そのせいで周囲に被害を出してどうする? 予測はできなかったのか? 魔法の使い方があまりに杜撰すぎる】
「そ……そうは言いましても、あれは力を見せる必要がありましたの! わたくしがどれほどの魔術師か周囲に理解してもらうには、あの方法が一番でしたの!」
【魔法はあくまで『強ければいい』ってことか? だとしたら、俺はシャニロッテちゃんを魔術師とは呼べない。あくまで『見習い』止まりだ。俺も魔術師の先輩として、まずは魔法のコントロールや認識を改めてもらわずにはいられない】
ツギル兄ちゃんがシャニロッテさんに怒る内容についても理解できる。私がお家を居合で両断した時だって、そもそも『居合の加減を考えてなかった』のが原因。
魔法と剣技。種類は違っても、どっちも力であることは変わりない。力は正しく使わないと、ただ傷つけるだけの暴力になっちゃう。
そのことはスペリアス様からも口酸っぱく教わってきた。今でも胸に秘める心得の一つだ。
「え、偉そうな魔剣ですの……! 魔剣のくせに! 魔剣のくせにですの! わたくしはスーサイドの学生でしてよ!?」
「語彙が少ない。……後、ずっと気になってたんだけど、スーサイドって何?」
「まあ! そんなことも知りませんの!? これだから無知な冒険者は困りますの!」
そもそもの話、シャニロッテさんがここまで自信満々な理由たるスーサイドが何なのかも分かってない。『魔法学都』なんて呼ばれてるから、魔法に関する場所ではあるのだろう。
でも、だから何だって話。鍛冶屋のホービントさんや試験官の兵隊さんも期待してたけど、そこに住んでるのがそんなに凄いことなのかな?
「魔法学都スーサイドは古くから魔法の道を歩む者にとって、最高の教育機関とも言える場所ですの! 街そのものが魔法学園となっていて、そこに住む者は魔術師として将来を約束されますの! 世界中どこを探しても、スーサイド以上に魔法の栄えた場所はありませんことよ!」
「はえー、それは凄いかも。てことは、ルーンスクリプトも知ってる?」
「る、るーんすくりぷと? な、何ですの、それは?」
「……知らないんだ。残念」
とりあえず『魔法が凄い街』ってことは分かった。ついでに道中で耳にしたルーンスクリプトやゲンソウのことも知ってるかと思ったけど、こっちは期待外れ。
まあ、旅の中で楽園の手掛かりが増えてきたとはいえ、増えすぎてどれを追うのかもちょっと困惑してる。ルーンスクリプトも今は置いといて、目先の目的から成し遂げていこう。
まずは迫りくる魔王軍との戦いか。タタラエッジでイルフ人を探そうにも、この問題を解決しないとそれどころではない。
【スーサイドはよっぽど魔法に精通した街らしいが、そこで驕って正しい魔法の使い方ができないと意味ないだろ? シャニロッテちゃんはもっと魔法のコントロールを鍛えるべきだ。これからミラリアとも共闘するわけだし、俺だって妹を危険に晒したくない】
「た、確かにさっきはやりすぎましたが、その話にしたってそっちが勝手に進めたものですの! わたくし一人ならば、魔王軍相手に加減せず挑めますの!」
「シャニロッテさん、少しはツギル兄ちゃんの話に耳を傾けるべき。……それと、もう一つ気になってたことがある」
「あなたはさっきから質問が多いですの!? キ~! 何故わたくしがこんなにグチグチゴタゴタ言われてますの!?」
三人揃って宿泊部屋でゴチャゴチャに話が進む中、私にはまだ気になってることがある。
シャニロッテさんはお説教も含めてキーキーしてるけど、私も不明瞭なことをそのままにしたくない。ここはこのまま質問させてもらおう。
ツギル兄ちゃんもそれぐらいは待ってくれるみたいだし、分からないことは尋ねてこそだ。
「そもそも、どうして魔王軍はタタラエッジの坑道を狙ってるんだろ? 何か美味しい食べ物でもあるの?」
「ほ、本当に何も知らないままここにいるですのね……。ま、まあ、そこについてもわたくしがお教えしますの。難しい話ではありませんことよ」
「うん、教えてほしい。また耳の穴をカポカポする」
私も魔王軍とは一度戦っただけだし、どういった目的で動いてるのかの全容は見えない。
もしかして、また闇瘴を追ってるとか? 魔王軍がそんなことをする理由も不明だけど。
とりあえずシャニロッテさんは知ってるみたいだし、今のうちに聞けることは聞いておこう。こうして一緒のお部屋になったのだから、話せることは話し合いたい。
「魔王軍が狙っている坑道には、古来から『神の金属』と呼ばれるアテハルコンが眠ってますの! それこそが魔王軍の狙いですの!」
魔王軍の狙いについても、またこれまでの冒険と繋がっている。




