その少女、鍛冶の街に着く
新章、舞台は雪山にある鉱山街タタラエッジへ。
「おおぉ……! 洞窟の中に街が広がってる……!」
【エスターシャやカムアーチのように大きくはないが、それでも十分すぎるぐらいだな。鍛冶の街と聞いてた通り、そこかしこで金属音も聞こえるな】
スアリさんとは唐突なお別れになっちゃったけど、応援してくれてる想いを胸に旅は続く。そうして早速やって来たのは、雪山の中にある鉱山街タタラエッジ。
街全体が洞窟の中にすっぽり収まってるけど、天井には穴が開いて光が入ってくる。風も入ってくるけどそこかしこで火をくべてるので、寒いということもない。
実に考えられたものだ。この街自体が一つのお城のようにも感じる。
鍛冶の街というだけのこともあり、キンキンコンコンと鍛冶の音も響いてる。エスカぺ村の鍛冶屋さんもよくこんな音を出して刀を鍛えてたのを思い出す。
そんな鍛冶が目当てなのか、冒険者も結構たくさんいる。やはり、旅をするならいい武器が欲しくて当然か。
「今度はこっちの剣を頼む!」
「分かってる! なるべく早くするから待っててくれ!」
「そっちが終わったら、次は俺の槍も鍛えてくれ! あまり時間もかけてられない!」
ただ、それらの様子はどこかせわしない。冒険者だけでなく、住人や鍛冶屋さんに至るまで、注文をしたりされたりで忙しそう。
とてもじゃないけど、今はタタラエッジへ来た目的を調査できる状況にない。
アキント卿が言うには、ここにイルフ人の鍛冶屋さんが住んでるとのこと。これだけ鍛冶が盛んな街なら、どこかに手掛かりぐらいはありそうだ。
とはいえ、街の鍛冶屋さんはほとんど忙しくハンマーで鍛冶を進め、私が話しかけても聞いてくれる様子ですらない。
何かイベントでもあるのかな? よく分かんないけど、こうやって鍛冶の様子を見てると私もやりたいことがある。
「どうせだから、ここでツギル兄ちゃんも鍛え直してもらう? 余計な雑念も払えて、より一層イケメンな魔剣になれるかも」
【何だよ? 『イケメンな魔剣』って? 最近色々覚えてきたからか、ボキャブラリーも増えてきたのか?】
「流石はツギル兄ちゃん。私の気持ちをよく理解してる」
【別に褒めてないし、褒められた気分にもならないっての……。だが、確かに魔剣を鍛え直すのはいい案かもな。俺だっていい鍛冶屋の手にかかれば、さらにミラリアの力にはなれるか。この街の話もついでに聞けるかもな】
私だって一介の剣客。愛刀の手入れは怠りたくない。同時にお兄ちゃんだけど。
こんな慌ただしい状況だから、魔剣を鍛えてもらえそうな店は限られてくる。とはいえ、全くないわけでもない。
何やら盛り上がってる街の中央から外れれば、お客さんのいない鍛冶屋だってチラホラ。人気がないのかもしれないけど、こういうのは実際にお店に入ってみないと分からない。
【ただ、俺はここから話に割って入ることもできない。鍛冶屋との交渉はミラリアだけになるが……できるか?】
「任せて。私だってこれまでの旅で成長してる。交渉なんてチョコチョコチョイ」
【それを言うなら『チョチョイのチョイ』だ。この自信はどこから溢れてくるんだか……】
とりあえず見つけたお客さんのいない鍛冶屋さんの前に立つと、ツギル兄ちゃんとちょっとした打ち合わせ。ここから先は私のトークスキルがものを言う。
よくよく考えると、これまでは誰かが一緒にいてくれて、私の代わりにお店と取り次いでくれたことがほとんどだった。
強いて言えば、雪山に入る前の集落でのお買い物ぐらい。あれについては盛大な失敗であった。
ここはあの時の教訓も踏まえ、しっかり熟考して必要なことを見極めよう。魔剣に変なことをされたら大変だ。
――でも、案ずることはない。私は経験の中で成長してきたんだ。自信満々のアホ毛ビンビンで店に入り、まずは最初のご挨拶だ。
「ッ!? この鼻をかける美味しそうな香りは……!? ねえねえ、おじさん! 何食べてるの!?」
「な、何だべ!? この娘っ子は!? どうして店に入るなり、鍛冶の注文じゃなくてオラのウドンを狙ってるんだべか!?」
そう思ってお邪魔するも、つい食べ物の方に気を取られてしまう。だって、店に入るなり中の人が美味しそうなものを食べてるもん。
白くてツルツル長いものがお椀の中でお汁に浸かってる。それをズルズルと食べる姿、実に美味しそう。
どうやら『ウドン』という食べ物らしく、カムアーチでチラリと見た『ラーメン』なるものに近い。
一緒に乗せられた茶色くてフワフワしたものも気になる。温かそうだし、是非とも食べてみたい。
「……間違えた。そうじゃない。ウドンとやらは気になるけど、用件は別にある。とりあえず、まずはこんにちは」
「お、おお。こんにちはだべ。ここに何の用事だべか?」
「鍛冶屋さんに来たから、当然私の武器を手入れしてもらいに来た」
「……なんだか調子の狂う娘っ子だべ。まあ、仕事なら請け負うべよ。早速、おめえさんの武器を見せてみるべ」
まあ、ウドンを食すのは後の楽しみにしよう。腰で魔剣がカタカタ震えて『違う。そうじゃない』って主張するし、まずは挨拶してからの本題だ。
見た感じ、ここの鍛冶屋さんはエスカぺ村の鍛冶屋さんと似たような人だ。恰幅のいい髭を生やした豪快そうな人で、耳の長さ以外はよく似てる。
こんなに似た容姿をしてるなら、もしかすると鍛冶の腕前も確かかもしれない。開幕ウドンも私的に好印象。
他のお店よりは人気がないけど、隠れた名店の予感がする。まずは言われた通りに魔剣を見せて、鍛えられるか確認してもらおう。
「……ん? ちょ、ちょっと待つべ!? これってまさか……刀だべか!?」
そういや、外の世界では刀はほとんど出回ってないのであったが……?




